日本が敗戦してひと月程も経っていた。
秋の気配がする早朝、大内礼子は割腹自決を遂げた。
夫の大内武夫中尉は、終戦間際に戦死している。
もう深夜に近い。
礼子は斎戒沐浴して、白単衣を素肌に着けた。
既に奥の六畳に支度は調えていた。
ここは夫婦の寝室に使っていた部屋だ。
この部屋で初夜を迎え、夫と最後に過ごしたのもこの部屋だった。
幼い頃からの許嫁で、彼女が女学校を出るとすぐに華燭の典を挙げた。
「俺が戦死しても、取り乱してはならない。」
彼は軍人の妻の心得を説いた。
「その時は、私もお後を追います。」
夫の手を自分のお腹に這わせて、新妻は誓った。
それは彼にとって、最も嬉しい言葉だった。
逞しい胸が私を抱きしめた。
固く勃った愛の徴しが私のお腹を突き上げる。
それは愛する人の健康な欲情だった。
私は全てを捧げる喜びを味わった。
彼は男らしい直截さで私の中に押し入ってくる。
濡れた花弁が受け入れ、二人がしっかりと結ばれる。
その時私は彼の肉体の一部になり、彼は私だけのものだと実感できた。
それは陶然とした一体感だった。
これが前の世から決められていた運命だと、その時私は確信した。
彼がいるような気がして、周囲を見回してみる。
戦死の知らせは、まだ数日前に届いたばかりだった。
真新しい白木位牌が目の前に置いてある。
「これから、あなたとの約束を果たします。」
彼はきっと自分を見守ってくれている。
そう思うだけで、どんな苦しみにも耐える勇気を与えられた。
礼子は座を占め、前肌を開く。
彼の手で押し開かれたような気がして、少しときめく自分に気付く。
ゆっくりと腹を撫で揉んで、切り割く辺りを確かめる。
愛撫された指の感触を思い出す。
彼女にとっては、すべてが彼との愛の行為だった。
用意していた短刀を手に取った。
ずっしりと手に馴染み、美しい光を放っている。
緊張で息が大きくなる。
瞑目して、しばらく息を整える。
身体が火照るほどに気が満ちてゆくのがわかる。
静寂がすべての時間を止めた。
腰を浮かせて、逆立てた刃にゆっくり身体を預けていく。
突き上げる刃は、まさしく夫の男根だった。
それは膚を割いて血を滴らせた。
「ウムゥゥゥッ・・・・。」
痛みは一瞬だった。
身体を捩りながら耐えた。
極度の緊張で汗が噴き、身体のすべてが強張り震えている。
傷はまだ浅い。
それでも、ついに切ったという安堵があった。
前に屈んで、短刀を両手で握る。
腰を揺らして横に割く。
思っていた以上の激痛だった。
叫びそうになるのを堪えた。
激しい痛みが間断なく襲う。
流れ出す血が意識を奪っていく。
白単衣は、赤く染まっていった。
その時、脳裏を不思議な既視感が通り過ぎる。
確かにどこかで同じような経験をしている。
それは懐かしい前世の記憶だと思えた。
朦朧とした意識で夢を見る。
もう苦痛は感じなかった。
愛する人に抱かれていた。
次々と人の顔が浮かんで消えた。
幾世をも生まれ変わり、巡り逢う魂の輪廻を悟る。
幸せな達成感が彼女を包んでいる。
心地良い闇がゆっくり訪れた。
▲
by kikuryouran
| 2017-11-18 22:47
| 女腹切り情景
|
Comments(4)
お情けもって腹召せとのご状、有り難くお受け仕ります。
お目に晒すは恥ずかしき身なれども諸肌脱ぎ。
死に後れ、かくも醜く老いさらばえて候。
拝領の九寸五分押し頂いて、右手(めて)に握り。
切り割く辺りを左手(ゆんで)で揉み、息を調え尻浮かせて前屈み。
己が腹を一文字に切り割きます。
お許しあるなら、花を愛で慰めて逝きとうございます。
最期は、胸刺し貫いて果てる覚悟なれども。
お手をお貸し下さるも苦しからず。
前の世の縁(えにし)や、波漂うてめぐり逢い
互いの心覗き合い、浅ましくも色に狂う
今生は夜毎の夢の通い路に、秋の葉の散り舞うて老いの坂
拙くも手の運び、介添えられて次の世は
永久(とわ)の契りを楽しみに、必ずお待ち申します。
▲
by kikuryouran
| 2017-11-11 20:56
| 女腹切り情景
|
Comments(1)
「お前も軍人として、責任の取り方はわかっているわね。」
河南誠子少佐は厳しい口調で言った。
山口レイカ中尉は直立して聞いている。
女だけの部隊だった。
K国スパイの若者が、中尉に近付き情報を盗み出した。
彼女は被害者とも言えるが、機密漏洩の責任は免れない。
「自分はどのような処分もお受けする覚悟です。」
「できれば、事件を公にしたくないの。」
事件が公になれば、女性部隊の威信が傷ついてしまう。。
「軍の威信を守るために、自決してもらえるとありがたいわ。」
「それは、命令でしょうか。」
「あなたの身の処し方で、女でも軍人の覚悟はあると認めさせてやれるわ。」
少佐が諭すように言った。
中尉は、少佐の意図がやっとわかった気がした。
最近では女性士官も珍しくないが、軍の上層部にはまだ男たちの偏見がある。
『女に腹が切れるか。』
事に当たって切腹の覚悟があるか否かは、幹部士官の資質に大きな問題だとする空気があった。
「このままでは、女は認めてもらえないの。」
「私が腹を切れば変わると。」
「女でも切腹できると証明できるわ。」
しばらく沈黙の後で、中尉が最敬礼しながら言った。
「山口レイカ中尉は、機密漏洩の責任を取らせて頂きます。」
彼女は軍服の上から腹に拳を這わせた。
自室に戻って中尉は身辺の整理をした。
数通の遺書を書き、支度が済んだのはもう深夜に近かった。
彼女は、悔しいとは思わなかった。
自分が軍人になったのは、美しく死にたいと思ったからだ。
そして今、自分は最も軍人らしい最期を迎えようとしている。
これが自分に最も相応しい死に方かもしれないと思っていた。
女の覚悟を、男達に示すための先駆けとして腹を切る。
それは心地良い想像だった。
部屋はコンクリート作りで、隣室に音の漏れる心配はなかった。
軍人官舎であるこの部屋なら、血まみれになっても了とされるであろう。
最期の衣装は素肌に白の軍服を着けた。
鏡に写った姿にレイカは陶然として満足した。
「なんて美しいんでしょう。」
古来、切腹にはその方法に伝承がある。
士官学校では、自決の心得として腹の切り方を教えられた。
上着とズボンの前ボタンを外して、下腹までも露わにする。
短刀は自決用として用意していた。
刃は七寸余り、身幅狭く先鋭く手に馴染む。
腹を切るには申し分ないと思えた。
刀身に白布巻き付け、逆手に握る。
膝立ちに腰を上げて、腹を揉む。
全ての神経はこれから切り割く辺りに集められた。
処刑するのは自分、腹を割かれるのもまた自分。
それは自らの手で魂を昇華させる崇高な戦いだった。
軍人として立派に死を全うする事に精神は高揚し、もう躊躇いはなかった。
息を計って、叩きつけるように腹に突き立てる。
「ウムゥ・・・、アゥゥゥ・・・。」
一寸余りも刃先が沈んで血が滴る。
呻きを漏らし、腰を揺らしながら刃を横に引く。
「アグゥ、ウムゥゥゥ・・・。」
筋肉の全てが硬直し、震えていた。
頭の中で進軍ラッパが響き続けた。
それはまさに孤独な戦闘だった。
膝間は赤く染まり、敷き詰めた布団が血を吸っていく。
レイカは手を緩めない。
狂ったようにお腹を割き続けた。
「見事な切腹ね。」
モニターを見ながら河南少佐が呟いた。
官舎の全ての部屋に隠しカメラが仕掛けられている。
一部の幹部だけが知っている秘密だった。
そう遠くないいつか、自分もまた切腹する予感が彼女にはあった。
画面の中で、レイカが女の中心を刺し貫いている。
すでに狂艶の頂を見て、彼女の表情は穏やかな笑みさえも浮かべていた。
「美しいわ。」
それはエロスの極まりに思えた。
河南少佐は女の芯が疼き始めたのがわかる。
マグマをもう止めることはできなかった。
思わず指が延びる。
魂は快感とシンクロして昇り詰めようとしていた。
「もうすぐよ、もうすぐ私もいくわ。」
苦痛と喜びが溶け合う死の陶酔に感応していた。
「あああっ、いい・・・。」
白い光を放って、魂が一気に弾け散った。
その半年後に、河南少佐は自決を迫られた。
彼女は拒むことなく見事な切腹を果たした。
▲
by kikuryouran
| 2017-10-15 05:57
| 女腹切り情景
|
Comments(3)
古い町並みの古美術商で、私はその短刀を見つけて買った。
刃は20センチ余り、身幅は狭く美しい刃紋がある。
その刃を見ていると、なぜか懐かしい感情に心が騒いだ。
或る日、その短刀で切腹する夢を見た。
お臍の下を切り裂くと、流れる血が膝を赤く染めていく。
それが前世の記憶なのだと、私にはわかった。
▲
by kikuryouran
| 2015-11-09 03:21
| 女腹切り情景
|
Comments(8)
桐子はお臍の下を横一文字に切った。
柔肌を赤い血がすだれ、腰から下を染めていく。
「ついに切った・・・。」
身体の中心が火照り、熱く濡れている。
指で一気に駆け上がり、白く光を放って魂が砕け散る。
美しく死ぬ夢を見て、自らを慰める女がいる。
▲
by kikuryouran
| 2015-10-27 01:52
| 女腹切り情景
|
Comments(2)
城受取りの使者を案内していた侍が顔色を変えた。
「これは見苦しいものを、すぐにも取り片づけますゆえに。」
一人の女が割腹していた。
「お家に殉じると申しておりましたが。」
「さすがに武門の御家柄、見事に意地を立てられた。」
受取りの使者は、死んだ女に深々と礼をして奥に入った。
▲
by kikuryouran
| 2015-10-23 04:31
| 女腹切り情景
|
Comments(0)
髪は御殿に結い上げて顏は面長の美形。
白単衣を腰まで脱ぐと、乳房は崩れずまだ固さを残している。
脂肉少なく引き締まり、女ながらも武に鍛えられた身体とわかる。
悶えながらも一文字見事に割いて、震えながら首を伸べた。
介錯の太刀一閃、血を噴き上げて女は首を抱くように前に屈み込む。
後ろに突き出した尻が、しばらく淫靡に揺れていた。
▲
by kikuryouran
| 2015-09-21 09:29
| 女腹切り情景
|
Comments(0)
住職は旧知の仲、主家の墓前で女が自害したいと申し出た。
「お武家が義理に死のうとするを止めはできぬが、お若い身で惜しいことじゃ。」
早朝、彼女は白の単衣袴で墓前に立った。
女ながらも腹を切る覚悟、腰まで柔肌脱ぎ落す。
大きく割いて一文字、悶えながら首の血脈を裂いた。
まだ固い乳房が血にまみれて、無惨とも妖艶であった。
▲
by kikuryouran
| 2015-09-16 01:53
| 女腹切り情景
|
Comments(3)
庭に大きな月が出た。
丹精の菊が夜目にも美しい。
虫の声、これも良い。
寒くなく暑くもなし。
腹を切るには悪くない季節だろう。
離れの座敷まで、私はゆっくり歩いた。
▲
by kikuryouran
| 2015-09-14 00:01
| 女腹切り情景
|
Comments(0)
客を待つ間、いつも難しい本を読んでいるような女だった。
彼女はそれで現実の世界から逃避できると言った。
或る日彼女は学生に誘われて心中騒ぎを起こす。
男は死に、彼女は生き残った。
しばらくして、彼女はまた客をとるようになった。
お腹に残った大きな傷痕を彼女は隠さなかった。
彼女はそれで現実の世界から逃避できると言った。
或る日彼女は学生に誘われて心中騒ぎを起こす。
男は死に、彼女は生き残った。
しばらくして、彼女はまた客をとるようになった。
お腹に残った大きな傷痕を彼女は隠さなかった。
▲
by kikuryouran
| 2015-09-10 01:28
| 女腹切り情景
|
Comments(0)