愛と死の妄想 悲壮耽美な情景  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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女諜報員の自決

 1 切腹

「君には責任を取ってもらわなければならない。」
彼は窓から外を見ながら言った。
「自決しろと・・・。」
私はしばらく考えてから言った。
「辞めて済むはずがないのはわかっているだろう。」
「腹を切らせていただきます。」
「苦しいぞ。」
彼は振り向いて言った。
「女でも最期は軍人らしく・・・。」
しばらく間をおいて彼は目を逸らせた。
「朝までだ。」
「お世話になりました。」
私は最敬礼してから部屋を出た。

私は幾つかの裏の名前を持っている。何ヶ所ものアジトをめぐって証拠を消した。最後に住み慣れた町外れの一軒家に戻った。裏の顔は消してしまわなければならない。かねてから覚悟はあったのですぐに片付いた。
「後はもう自分を消すだけね。」
今度の任務は殺す相手が自分だというだけだった。

窓から外を見るとすでに見張られているのがわかる。無理に押し入ろうとすればわかる仕掛けもしてある。気付かれずに逃げる手立てもあったがもう使う心算はなかった。
青酸カリもある、拳銃も持っていた。湯船に浸かって腹を切ると言ったことを少し後悔していた。それが最も苦しい方法であることを知らないわけではなかった。凄惨な拷問や突然の理不尽な死を覚悟する日々を生きてきた。死ぬ前にこんなに静かな時を持てるなんて幸運なのかもしれなかった。死ぬ方法を選べるのは恵まれた最期かもしれないと考えた。束の間のまどろみの中で夢を見る。もう何も怖れるものはなかった。すべてから開放された。

壁の鏡に全身を写す。それこそが血に濡れた私の武器だった。派手な顔ではなかった。むしろどこにもある地味な顔立ちと思えた。整った乳房は小ぶりで豊かとは言えなかった。筋肉質の腹と張った尻、股間の草叢は濃く多い。取り立てて魅力がある身体とは見えなかったが、私を抱いた男達はすべてを差し出した、命さえも。

小さな下着だけを穿いて、素肌に白の軍服を着けた。紺の縁取りがあるそれは、身体の線にピッタリと沿った。私はこの軍服を着て死地に赴く自分を夢見て志願したのだった。自決は今自分のなすべきことだった。それは美しい死を約束してくれると思えた。
軍服を着て自決すれば、それは公の死となる。やはり切腹しかない。それこそが私の望んでいたことだと確信した。帽子を着けて敬礼する鏡の中の自分に、私は死を宣告した。
大げさに踏み込まれるのは好まない。私は玄関の鍵を外して奥の部屋に入った。

短剣と拳銃を傍らに置いて柱を背に座す。目を瞑って自分の切腹する姿を想像した。それは至福の陶酔に導いてくれた。
上着の釦を外し、ズボンの前を開く。胸乳から下腹までをあらわして下着も下げた。身体の芯から血が騒ぐ。宥めるように乳房を撫で下腹を揉んだ。指が下着に潜り込み、濡れているのを確かめて笑みが漏れた。その時既に大義はなく、血の底から湧き上がるエロスだけをを感じていた。

躊躇いはなかった。膝を割り、刃を抱え込むように突き入れた。予想を超えた激痛が背までも貫く。すべての筋肉が硬直し、全身から汗が噴いた。
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by kikuryouran | 2008-03-22 22:16 | 女腹切り情景 | Comments(0)