愛と死の妄想 悲壮耽美な情景  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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塔子切腹


白い布を部屋の中央に敷いた。短刀は護身と覚悟のために肌身に着けていたものだ。刃先を残して手ぬぐいで幾重にも巻いた。死に衣装は白腰布に白単衣のみ。裾乱れて見苦しかろうと、立派に切腹を遂げるために塔子は膝を縛らなかった。
彼女は神に身を捧げて国の安寧を祈り、国に殉じて切腹する。
神官の家に生まれて巫女として神に仕えた。国難に際してこの身に換えてと祈った。祈り瞑想している時に切腹する自分を夢に見て、それが神の御意志と直感した。腹切り身を捧げるのが自分の責務と思えた。迷いはなかった。遺書を書いてその意志を残した。

春浅き早朝、まだ二十歳にならぬ肌を一糸纏わず滝に打たせ身を清めた。形良い乳房、細い腰、むっちりと膨らんだ尻、しなやかに伸びた脚、漆黒のデルタ。十四で初潮を見て、今は完璧な女の肢体になっていた。美しさの頂点で神の元に召される幸せを感じた。その美しさのまま悠久の時を生きる予感に酔った。

逆手に握る刃が重く頼もしい。膝割り腰紐押し下げて前襟大きく寛げる。張り詰めた空気に包まれて瞑目し、切り割く腹を確かめるように何度も撫ぜ揉んだ。
もう外は明るさを増し、小鳥のさえずる声が聞こえる。それは祝福の調べと聞こえた。
刃先を迎えるように腹を押し出す。両手で握る刃に力を込めた。
「うむむむうううう・・・・。」
思わず呻く声が漏れた。激痛が襲う。整った顔が苦痛に歪んで長い髪が揺れた。

下腹を割くと腰から下は血に染まった。抜き出した刃を握ったまま膝に手を置いて彼女は崩れなかった。しばらく祈りの言葉を口ずさんだ。流れ出す血が意識を朦朧とさせていく。最後まで我が手で遂げなければならないと思った。逆立てた刃に胸を預ける。
「この身を捧げ・・・。」
前に屈むと刃先が乳房の谷間に沈んでいくのがわかった。それは甘美な痛みだった。膝が崩れて横たわる。背が悶え足がもがいて裾が乱れた。

身体中の血が流れ出していた。血の中でのたうつ自分がいた。肉体から力が抜けていく。静けさに包まれて彼女は横たわった。明るい光に吸い上げられていく。苦しみはなかった。成し遂げた喜びだけが魂を充たしていた。

発見されたのはもう午(ひる)に近かった。
「まだ息があるぞ。」
「胸を突いたが急所を外れたようだ。」
「しかし、これほどに血を流しては助かるまい。」
腹の傷は広いが浅い。胸の傷は深いが急所を外れていた。
「覚悟を思えば手当ては望むまい。」
その日の夕方、人々が見守る中で塔子は眠るように息をひきとった。誰もが彼女の死を悲しまなかった。その気高い想いと、見事に遂げた切腹に憧れさえ覚えた。

「美しい人だわ。」
血に濡れた着物を脱がせ、身体を拭きながら女がいった。
「満足そうだね。」
手伝いながら男が言う。
「こんな風に死にたいと思った時があったわ。」
彼女は傷を縫い血にまみれた身体を拭った。脚を開かせて股間を拭いた。
「濡れてる。生きているようだわ。」
「まだ温かい。きっと幸せな最期だったんだろう。」
男が指を差し込んで意味ありげに笑った。
清拭されて横たわる塔子は美しかった。腹と胸の傷は無惨に見えたが、彼女の想いをあらわしているように思えた。整った顔は満足気に微笑んでいるようだった。
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by kikuryouran | 2008-03-15 12:46 | 生贄 | Comments(0)