愛と死の妄想 悲壮耽美な情景  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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士官候補生割腹自決


「クルト士官候補生、君は本校始まって以来、最も優秀な生徒の一人だ。その君がこのような馬鹿な計画に関係していたとはな。」
指導教官が前で直立して立つ生徒に言った。
軍の反乱計画が明るみに出て、何人もの軍人が逮捕され自決していた。
「ここに居られるのは、憲兵隊本部のリン少佐殿だ。これから君はこの方の取調べを受ける。」
彼はそういうと部屋を出て行った。
ぴったりと身体に合った軍服を着た美しい女性が前の席に座っている。
「君がクルトね。こんな少年とは思わなかったわ。」
二人だけになると彼女は口を開いた。クルトは直立したまま聞いていた。

一年前から政府の情報が漏れ始め、匿名で反乱を煽動する者がネットの世界に出没していた。諜報機関が必死に探索したが、なかなかその正体を掴めなかった。張り巡らされた監視網の隙間を抜けて、反乱計画が配信され、強大な地下組織が関与していると思わせた。それは思想性も実行性もが完璧とみえる計画で、アジテーションは人々の心を充分に揺さぶるものだった。

「指導者のKというのが君で、EV計画なんて存在しないと聞いて驚いたわ。」
「最初は悪戯だったんです。政府の情報網に潜り込んで、反乱計画を夢想しました。」
クルトはそう言って苦笑した。
「その空想を信じた愚かな軍人たちが、実際に行動を起こそうとしたということね。事件が大きくなり過ぎたわ。軍人に年齢はないの。君には責任を取ってもらわなければならないわ。」
「この場で自決させていただきたいと思います。」
彼はきっぱりと言った。
「潔いのね。事情によっては死ななくてもいいのよ。」
「私はこうなることを望んで、軍人になろうと思ったのかもしれません。」
「こうなること?」
「美しく死ぬことです。」
「そうね、軍人というのは最も美しく死ねる職業かもしれないわね。」
リン少佐は前に立つ少年を見詰めて言葉を失った。彼は直立して微動もしなかった。まだ幼ささえも残すこの少年が、忘れていたものを思い出させてくれた気がした。
「若さというのは純粋なものね。」
二人はしばらく見詰め合っていた。

「汚さずに終わるのが幸せかもしれないわね。」
リン少佐は短剣を前に置いた。
「有難うございます。」
クルトは最敬礼してそれを受け取り、床に座った。躊躇うことなく上着を脱ぎ、素肌に着けたシャツの前ボタンを外す。鍛えられた美しい若者の身体だった。
「僕はこんな風に死にたかった気がするんです。」
彼はゆっくりと腹を撫ぜた。
「私も若い頃は、君のように死にたくて軍人になったのかもしれないわね。」

クルトが引き締まった腹に短剣を突き立てた。
「うむっ、うむううう・・・」
震えながらゆっくりと横に切り割く。流れ出す血が膝を染めた。彼はしっかりと前を見て姿勢を崩さなかった。
「立派な自決ね。美しいわ、羨ましいほどに。」
顔を歪めながら彼が微笑んだ。まだあどけない笑顔だった。
「楽にしてあげる。」
彼女は落ち着いた様子で後ろに立つと拳銃を取り出した。
「君は優秀な軍人になったでしょう、残念ね。」
クルトが脇から抜き出した刃を勢いつけて臍の辺りに深く突き立て、抱え込むように前に屈んだ。
「うぐぐうぅぅぅ・・・。」
銃口を後頭部にあてる。震えながら彼は最期の瞬間を待った。
リン少佐は躊躇っていた。後頭部から入った弾丸は、彼の顔に大きな射出口を開けることになる。
「その美しい顔を傷つけたくないわね。」
彼女は彼のこめかみに銃口をあて直して引き金を引き絞った。
部屋に銃声が響いて、クルトの耳の上から入った弾丸が側頭部に通り抜けて脳漿を撒き散らした。

「喜んで死を受け入れた若者を私は何人も見てきた。クルト士官候補生、君はその中でも最も美しい一人だったわ。」
まだ痙攣して横たわる少年に敬礼して、リン少佐は何事もなかったように部屋を出て行った。
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by kikuryouran | 2007-11-06 23:26 | 美しい少年 | Comments(0)