愛と死の妄想 悲壮耽美な情景  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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生き胴試し


旗本屋敷の脇口から入り、振袖小姓に導かれて平四郎は奥庭に通された。三十路半ばと見える奥使いの女が待っていた。案内してきた小姓がそのまま控えている。
「そなたにこの刀の斬り試しを頼みたい。」
古賀平四郎は、渡された白木仮拵えの刀を抜いて刀身を検めた。
「試し斬りは拙者の生業(なりわい)、お断りの理由もないが。鍛えも見事、手にも馴染みますが見えぬほどの傷がござる。折れるやもしれませぬ。ご承知ならお引き受けするが。」
「試しなれば、それもいたしかたありませぬ。あれを斬ってもらいたい。」
女が目で示したところに、裸の女が土壇の上に寝かされている。

「当家召使いの者、故あって死罪を申し渡した。」
「生き胴をご所望か。」
古賀平四郎は、寝かされている女を見ながら言った。
「ならば離れていただこう。生き胴は血が飛びますゆえ。」
刀身に水をかけさせ、何度か素振りをくれて寝かされた女に近付いた。歳は二十歳ばかり、顔は細面で美形といえる。杭に手足を括り付けられ、秘所さえも露わに四肢を開かれて横たえられている。まだ幼さを感じさせて、乳房豊かで肉は薄い。よほどの折檻を受けたものか、髪は乱れて身体のあちこちに血が滲んでいるのがわかる。

女がおびえた目で見上げている。
上段に振りかぶった刀をゆっくり振り下ろして、間合いを計るように女の臍に刃をあてた。
「女、そなたの胴は生きたまま二つに断ち割られる。惨いようだが苦しむことなく一太刀で終わる。」
「あなたさまは・・・。」
「古賀平四郎、祟(たた)るか。」
「あなた様にお恨みなどはございませぬ。その刀が恨めしゅうございます。」
見上げながら女が言った。離れた者には聞こえぬほどの小声であった。
「事情は知らぬが、この刀故の仕置きか。そなたの胴を断ってこの刀も折ってくれよう。それで成仏するがよい。」
「ありがとうございます。それで想い遺しはなく・・・。」
もう一度振り上げ、ここを切るというように柔らかい腹に刃を置いた。女の身体が震えて身悶えする。陰部の草叢が震えて失禁の尿が流れた。
「目を瞑っていよ。」
女が固く目を閉じた。腹が波うち震えるのを見ながら女の息を計った。振り上げて振り下ろしたのは見えなかった。女が息を吐ききった瞬間、光芒一閃して鈍い音と共に胴は腹から背まで断ち切られて二つに割れた。女は眼球が飛び出すほどに目を開き、口を開けて叫ぼうとしたが声にならなかった。血が噴き臓腑が一気に飛び散った。赤い血と腸(はらわた)が土壇の土手をうねうねと流れた。
腰を落として平四郎はしばらく動かなかった。ゆっくりと引いた刀の刃先五寸ほどが折れていた。

「折れましたが、切れ味は上、名刀でござった。」
血塗れて折れた刀を小姓に渡して、平四郎は手桶で手を洗う。
「古賀平四郎、何を話していた。」
「生き胴は祟ると申します。引導を渡しておりました。」
「わざと折ったか。」
「拙者は折れるやもしれぬと申したはず。」
「黙れ、あの業物でそなたの腕、折れるはずがあるまい。」
「折れたのは拙者の未熟、お代はいただかぬ。」
土壇で臓腑を撒き散らして、二つになった女に手を合わしながら言った。
折れるかもしれぬ、折れても構わぬというのは胴試しの常套言葉だった。しかし、折れた場合は試した者の未熟とされた。腕を恥じて、その場で折れた切っ先で腹を切った者もいた。
「未熟を恥じて腹を切るか。」
「刀を折る度に腹を切っては、試し斬りの生業(なりわい)が成り立ちませぬ。ご無礼申した。」
平四郎は平然とその場を離れた。
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by kikuryouran | 2007-11-02 09:23 | 平四郎 | Comments(0)