愛と死の妄想 悲壮耽美な情景  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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腹切り心中

吹雪に降り込められた山小屋にひと組の男女。
女は三十路大身旗本の奥方、男はまだ前髪の若者だった。
不義ゆえの逃避行、追っ手は既に迫ろうとしていた。
「そなただけなら逃げられよう。」
「最期は共に潔く・・・。」
確かめる互いの覚悟。
「あなた様を私が懸想をしたばかりに・・。」
「真実は、妾(わらわ)が先にそなたを見染めた。」
女が男の胸に顔を埋める。
「寒うはございませぬか。」
「そなたに抱かれて夢のような。」
「奥様・・・。」
「心はそなたの妻として死ぬる、もう呼び捨てて下され。」
憚る者なき山中、女は男を導き交わる。
結ばれて貪り喰らう情欲は今生悦楽の極み。
昇天陶酔は至福の夢。

やがて白々と明け始め、周囲は一面の銀世界雪の静けさ。
「吹雪は止んだ、数刻で追っ手も来よう。」
肩脱ぎ落とし向き合うて、互いに見つめ合う今生の別れ。
真剣の冷たさ非情の光を放つ。
若者のためらうをみて、女が先に刃を滑らせる。
下腹を五寸ばかりも切り裂いて、励ますように男を見る。
「苦しゅうはありませぬ、さあ・・・。」
誘われるように、男も刃を突き立てる。
「うむぅ・・・。」
切腹は武家の意地、共に味わえば痛みも甘美。
「うぐぅぅ・・・。」
「あぁぁぁ・・・。」
励まし合い、競い割く己れの腹。
女盛りの妖艶さ、まだ清げな若者の腹切る哀れ、悶える肌に赤い血が簾。
不義は大罪なれど、愛に殉じるは女の本懐。
愛しい男と手を取り渡る三途の川、悔いはない。
どちらからともなくにじり寄り、互いの刃を受けて果てる。
二人共に見事な切腹、血まみれながら死に顔は笑みさえ浮かべているように見えた。

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追っ手は二人を首にして持ち帰り、胴はその傍らに重ねて葬る。
後年心中塚とも腹切り塚とも伝えられ、幾組もの心中者がその前で果てたという。
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Commented by 玉梓 at 2013-01-09 10:00 x
kikuさま
懐かしい本格的な作品、痺れております。刺し違えが羨ましい
Commented by kikuryouran at 2013-01-11 02:43
懐かしい?
確かにね。
作品というにはお粗末ですが。(笑)
刺し違えはお定まり。
若い男を道連れに、こんな最期も悪くはない。
Commented by 玉梓 at 2013-01-11 12:44 x
Kiku さま
玉梓は、切腹は自分で自分のお腹を切ることと思っております。介添え腹は嫌いです。切腹するにあたって、身体の芯から燃え上がってくる感情の流れを全身で感じ取りながら、昂ぶる感覚にあわせて刃を突き立て、快感と痛覚が混ざる微妙な感性の変化を全身で噛み締めながら、昇りつめてゆくのに応じて、切り裂いてゆくことこそ、すべてと信じております。介添え腹では、他人が手を下しますので、切腹する女の微妙な感覚の綾が分かりません。たった一つしかない命をかけて、自害するのです。腹を切り進む最高のタイミングは、本人にしか分かりません。ところで玉梓は、殿方であれ、女子であれ、若し切腹する方が本当にお求めになるのであれば、介添え腹を勤める心構えは出来ております。本人の真意をよく確かめて、しっかりと相勤めます。
Commented by 玉梓 at 2013-01-11 12:45 x
玉梓は、介錯を受けるのも好みません。充分に下腹を搔き切って、昂ぶりきった絶頂感のなかで、最後のとどめを刺すタイミングは、本人しか分からないことです。自分の命の終わりを告げる瞬間は、自分が決めるのです。決して失敗は許されません。死ぬのです。これこそが切腹する女に与えられた最高の誇りであり、悦びでもある筈です。最高の絶頂感の味わいがまだ充分でない時に、いきなり介錯の刃で命を絶たれるというのは、如何にも残念で、未練が残ります。一方玉梓は、殿方であれ、女子であれ、切腹をなさる方から介錯を頼まれれば、介錯の方法と、刃を振うタイミングについて、ご本人の意思を充分確認した上で、お受けいたします。玉梓は、大刀で首を切ることは好みません。体力的にも不充分です。急所を突き刺すことにより、使命を全うします。
Commented by 玉梓 at 2013-01-11 12:47 x
玉梓は、刺し違えは好きです。羨ましく思っております。切腹に到った事情はどうあれ、お互いに切腹することを決心した二人が、それぞれ思い通りに充分腹を切ったあと、相対した上で、事前に充分打ち合わせた通りに、お相手が望んだ急所を刺し違えあっておとどめとし、死んで逝くことが出来るのであれば、素晴らしいことだと思っています。この場合は、お互いに声を掛けて、今こそ充分で、刺し違えるタイミングであることを知らせ合って刺し合うのです。相手の急所を突き刺してあげる悦びと、相手に自分の急所を突き刺される悦びが、二人に最高の絶頂感を齎すと思うからです。そのまま、急速に訪れる闇に沈んでゆく悦び―、kiku さま、ああ―。

Commented by kikuryouran at 2013-01-11 22:04
玉梓さん、ご意見ありがとうございます。
うーーーーん
同じ嗜好でもそれぞれこだわりがあるものですね。

斬首介錯は凄惨でしょうね。
内臓を引き出すのも苦しそう。
死に姿は綺麗にと思っても、切腹では難しそう。
イメージ妄想だけでも美しくと思うのは変でしょうか。

胸を突くか喉を切るかそれとも・・・。
介錯するか刺し違えるか。
最後はやはりいろいろと考えますね。

Commented by 玉梓 at 2013-01-12 10:47 x
Kiku さま
大河ドラマの所為か、今年は会津の当たり年のようです。
正月にテレビ東京で、白虎隊を見ました。午後5時から延々5時間余に亘る大作でした。Kiku さまは、白虎隊や会津に関する作品を9編もお創りになっています。存じてりますだけでも;
1白虎隊自決・儀三郎と和助、2白虎隊残照、3はなむけの情、4武家の妻並み、5会津の女、6会津白虎隊自刃、7会津女自刃、8白虎隊屠腹、9行きずりの介錯、このほかにもまだあるかもしれません。
何れも秀作で大好きな作品ですが、テレビの放映予定を見て、予め全部読み直しておきました。白状しますが、育ち盛りの頃、玉梓が切腹にのめりこんで参りましたのも、会津の出来ごとは深い関係があったのです。
Kiku さまもご覧になったと思いますが、テレビの白虎隊は、大金をかけた大作でしたが、玉梓が一番期待していた白虎隊自刃と西郷頼母邸における痛ましい女性の集団自決の場面は、いとも簡略になっておりまして、期待はずれでした。

Commented by 玉梓 at 2013-01-12 10:51 x
飯盛山の場面では、刺し違える少年1組(大刀の切先の交錯のみで、刺す場面は無し)と、咽喉に刃を当てようとする少年一人がありましたが、肝腎の切腹のシーンについては、少年一人が衣服を脱ぎ、上腹部(下腹ではありません)を曝け出す場面はありましたが、すぐにカメラが移動して、お腹に向ける刃の切っ先すらも見られませんでした。でも、それらしい掛け声だけはあって、それと分からせておりました。
西郷邸の方は、自害の覚悟を決めた千重子が、裾の乱れを防ぐために、子女の足を縛るところまでで、自害の有様は一切ありませんでした。事が終って、土佐藩の隊長、中島信行が邸内に入って、まだ息のあった細布子のとどめを刺してやる有名なシーンは、何故か中島の代わりに、新撰組の土方歳三が入ってきて、右の耳の下の咽喉(頸動脈)を突いて死に切れないでいる細布子の最期を看取る(介錯はしなかった)というストーリーにすり代えられていました。床に投げ出された血染めの懐剣だけが、僅かに悲劇を偲ばせるものでした。Kiku さまが「行きずりの介錯」でお書きになった場面です。

Commented by 玉梓 at 2013-01-12 10:53 x
勿論、商業テレビの限界だと思いますし期待する方が悪いのだと思います。何と言っても痛ましい出来ごとであり、謹んでご冥福をお祈りいたしますが、熱い思いをかけて見守っていた者にとりましては、甚だ心残りのシーンでした。
Commented by kikuryouran at 2013-01-13 23:47
年末年始のドラマは見ていません。
最近の作品では、そういう意味で期待できなくなりました。
過去のものでも印象に残っているものはどんなものがあるのでしょうか。
小説、劇場映画、TVドラマ、一般メディアの作品、俳優、作家等、お薦めのものがあれば教えて下さい。
Commented by 玉梓 at 2013-01-30 22:20 x
Kiku さま
夕刊に、札幌市厚別区で起こった次のような事件の報道がありました。今朝(1月30日)午前10時ころ、20代の男から緊急連絡があり、警察が行ってみると、市営住宅の部屋で、そこの住民とみられる40代の女性が全裸で死んでおり、脇に交際相手と看られる男が腹部を刺して倒れていたそうです。女性の腹部には刃物による深い傷(複数)があったそうで、男は病院に搬送されましたが、生命に別条はないとのことです。現場には血のついた包丁とナイフが落ちていた、とあります。
これだけの記事ですが、玉梓は、これは明らかに男女の切腹心中事件だと思います。女が全裸であったことから察すると、同時に切腹を始めたのだと思います。また、女は腹部以外に傷が無いことが挙げられます。二人の年齢差から看て、おそらく若い燕を愛するあまり、女性が誘って切腹しあったのに違いありません。素敵です。男が死にきれずに警察に届けたのは聊か心外で、残念です。
Commented by kikuryouran at 2013-02-01 03:59
切腹心中であったかどうかはわかりませんが、もしもそうなら・・・。
私が思ったのは、もしも私たちと同じ嗜好の人であるなら、この種のサイトも見ていたかもしれないということです。
ここも見に来ていた方かもしれないと思うと身近に感じますね。
女性が遂げられたのは男の介添えがあったのかもしれない。
男は後から一人で切腹しようとして死にきれなかった。
彼も切腹にこだわったから失敗したのかもしれない。

     合掌
Commented by 玉梓 at 2013-02-01 19:28 x
札幌の事件は、その後の追跡報道がありません。切腹事件であったかどうか、たしかに分からない部分もあります。Kikuさまが仰るように、もしこのサイトを見ていた方であったら、と思うことは、素晴らしいことだと思います。
男が介添えしたのかもしれない―素晴らしい発想です。いろいろと想像が果てしなく拡がって行きます。日常の生活のなかで、切腹の美風が脈々と残っていると思うと
なんだか嬉しくなってきます。
Commented by kikuryouran at 2013-02-02 01:35
全裸であったことから、性的プレイが昂じてという想像もできる。
だとすれば、このサイトの愛読者であった可能性は高い。
想像は広がりますね。
by kikuryouran | 2013-01-08 05:31 | 心中情死 | Comments(14)