愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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血の記憶

私は久しぶりに東北の田舎町に帰って来た。
父も母も随分前に亡くなり、もう縁類もほとんどいなかった。
両親の墓に花を供え、私はその町で宿をとった。
彼に別れの手紙を書いて、私は三日の間酒に溺れて過ごした。
四日目の朝私は山に向かった。

故郷の山は優しく迎え入れてくれた。
誘われるように登山道から外れて、しばらく行くと視界が開けた場所に着く。
人が来る心配はなく、私はその場所で何故か安らぎを覚えた。
疲れた私は少しまどろんで夢を見た。
一人の若者が切腹しようとしている。
場所はここに間違いはなかった。
気がつくと、その若者は私が愛した彼だった。
彼は刀をお腹に突き立てた。
ゆっくりと引き回す。
彼は苦しそうに顔を歪めた。
彼のペニスが股間に勃っている。
私は手を伸ばす。
命の水が私の指の中で何度も噴き上げ、目の前を白濁した精液が覆った。

目が覚めて私は淫夢の余韻に浸った。
指にはまだペニスの生々しい感触が残り、私の中心は濡れていた。
自然に揺れる光の中で、私はゆっくりと指を動かした。
目を瞑ると心地良く風が頬をなでる。
私は高みに昇ってゆく。
身体を反らせて魂を解き放った。

彼は私より一回り以上も下、結婚出来るとは思えなかった。
私は捨てられる予感に常に怯えていた。
惨めに彼を失うことを想像して、私は気が狂いそうになる。
この苦しみから私は逃げたかった。

用意していた短刀の刃をハンカチで幾重にも包む。
私が死ぬことで彼は解放され、私は永遠の愛に包まれる。
愛に殉じる昂揚感が私を動かしていた。
もうためらいはなかった。
「アウッ・・ゥゥゥ・・・。」
お腹に突き立てる。
痺れるような痛みが全身に広がった。
この痛みこそが彼への愛の証しに思えた。
ゆっくりと刃を横に運ぶ。
「アグゥゥゥゥ・・・。」
激痛が襲い、意識が朦朧としていく。
不思議な陶酔と充実感に包まれていた。
膝に逆立てた刃先を乳房の下に当てた。
身体を前に預けていく。
ズブッズズズと、短刀が胸に沈んで暗闇が訪れた。

病室から見える景色は、もう春の息吹を感じさせる。
私が死のうとして入った山も近くに見えた。
「もう少し発見が遅かったら助からなかったそうですよ。」
泊っていた宿の女将(おかみ)だった。
宿を出る時の様子が気になったので後から探してくれたのだという。
「死なせてくれればよかった。」
私はうそぶく様に言った。
「私も十年前に・・・。」
拳をお腹に這わしながら彼女は言った。
私たちはしばらく黙って見詰め合った。
「女将さんもお腹を・・・。」
「あなたほどは切れなかったけどね。」
彼女はそう言いながら傷痕を見せてくれた。
下腹を大きく切ったのがわかる。
「この辺りでは女でも切腹するのよ。やはり会津の血かもしれない。」
「会津の血・・・。」
その言葉に私の心は感じるものがあった。
あの時私は、お腹を切りながら不思議な既知感を感じていたのを思い出した。
あれが血の記憶だったのかもしれない。

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その夜、私は不思議な夢を見た。
何人もの若者が自決しようとしている。
ドラマで知っている会津の白虎隊だった。
一人の若者が私の前でお腹を切っていた。
顔立ちに記憶がある。
「さあ、共に逝こう・・・。」
彼は誘っていた。
私も腹に脇差を突き立てる。
痛みが広がる。
一気に刃を引き回した。

それから同じ夢を何度も見た。
数日後、女将さんがまた見舞いに来てくれた。
夢の中の若者が彼女に似ていたことに、私はやっと気が付いた。
「私も同じ夢を見るのよ。」
彼女は私を見ながら言った。
私たちは夢の記憶を語り合い、記憶を蘇らせていく。
「彼らは、生まれ変わってここでまた逢おうと誓い合ったそうよ。」
私たちは、彼らの生まれ変わりだと確信した。
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by kikuryouran | 2013-03-01 03:41 | 女腹切り情景 | Comments(19)