愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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秋の宵

障子を開け放った庭に小さな菊が群れている。
秋とはいえ、日中はまだ汗ばむほどであった。
それでも時々爽やかな風が流れる。
「今年は菊がようできた。」
仏壇の前で死に装束の孝子は庭を見ながら呟いた。
日は傾いて庭の影も伸びた。
旬日前、夫は既に殉死を遂げている。

嫁いで十年余り、自分ももう三十路にかかろうとしていた。
子を一人産んだが幼いうちに死なせている。
あの子が生きていたら、自分は死ななかったであろう。
殿様が江戸表でご病死され、その側近であった夫はその場を去らず殉死したそうだ。
かねてから夫の覚悟を聞いていた私は、当然のごとくにそれを聞いた。

絶望故ではなかった。
夫を恋い慕ってでもない気がしている。
殉死と聞いて夫が羨ましかった。
幼い頃から死に様が大事と教えられ、これほどの死に場所はない。
今なら男のように自分も美しく死ねる。
後どれほど生きたとてこれほどの時はあるまい。
生に未練はなかった。
死ぬとなると、雑事が多い。
後の始末に追われて時が過ぎた。
すべてを片づけて、もうこの家には自分だけになっていた。

縁側の障子を閉めたて座を占める。
女の自害は胸を突くが定法と教えられてはいるが、男のように腹を切りたいと思った。
しばらく思案してから帯を解き、下腹までも前を大きく寛げた。
切り裂く辺りを探り揉む。
膚は白く武を好んで脂肉は少ない。
乳房は柔らかく程よく張る。
女の芯から昂ぶりがたち始めた。
男は女の淫気を知らぬ。
武家の女でも手淫ぐらいは知っている。

夫との最後はいつだったか。
江戸のお勤めに出る時だったから、もう一年も会ってはいなかった。
顔を思い出そうとして、思い出せぬ。
指が濡れた陰部の洞を探る。
その指先が夫を思い出させた。

庭から入る障子越しの日差しがもう日暮れを感じさせている。
孝子は大きく息を吐いた。
懐剣は九寸五分、薄刃ながらも頼もしい重さ。
刃先二寸余り残して白布で幾重にも巻いた。

嫁ぐ前に女でも腹切る作法は教えられた。
『腹は腰で切るものぞ。』
形を示して母は私に手習いをさせた。
手の運び様、腰の使い様、切腹は武家の当然心得ることだった。
懐剣に擬した扇子をお腹に押し当てた。
怖ろしいとは感じなかった。
その頃はまだ未通の血が不思議に騒いだのを憶えている。

何度も腹を揉む。。
肛穴を閉じ前屈みに刃先を当てて引く。
膚が破れて鈍い痛みが広がった。
傷は浅くも指がねっとりと血に濡れる。
頭が真っ白になり、股間に熱い液体が広がるのがわかった。
それが淫汁なのか失禁なのかは分らなかった。
畳に柄を立ててのしかかり、身体を懐剣に預けようとする。
しばらくためらいの間があった。
歯を食いしばって手に力を込める。
「ウグッ、ムウウウ・・・。」
脳天までも響く激痛と共に、ズブッと刃先が食い込むのがわかる。
持ちあげた腰を揺らすと、腹は一気に切り裂かれた。

しばらく気が絶えて、気がつくと血の中に伏せる自分がいた。
時々激痛が襲うがそれも間遠になっていく。
すでに腹は充分に割かれて死が近づいているのがわかる。
障子を透して入ってくる明かるさはもう月の光になっている。
心地良い静けさだった。
やり遂げた安堵感に包まれていた。
明日の朝には人が来ることになっている。
それまでにはすべてが済んでいる。
薄れていく意識の中でとりとめもなく短い夢を次々と見た。
緩やかに訪れる魂の肉体との別離は心地良いものだった。
それは情交の後の気怠い眠り入る時を思わせた。
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by kikuryouran | 2011-11-05 05:54 | 女腹切り情景 | Comments(13)