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by kikuryouran
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不義妻始末

招ばれた寺の離れ座敷、平四郎は女と向かい合っていた。
昼下がりの静けさの中で、獅子脅しが石を叩いている。
「和尚様とは御昵懇とおうかがいしておりました。」
彼は女の素性さえも教えられてはいなかった。
女は三十路にかかった頃か。
目に哀しげな色が漂い、粗末な装いながら女の艶を感じさせた。
「自害に手をお貸し下さるとか。」
古賀平四郎、据え物切りを看板にして試し斬りや介錯を請け負っている。
「首一つ一両頂戴しておる。」
女が懐紙の包みを前に置く。
作法が染みた手の捌きと見えた。
しばらく考えてから、彼は包みに手を伸ばした。
「場所と時刻をお聞きしようか。」
「この裏手の墓地にて一刻ほども後。」
「どなたのご自害か。」
「お手を煩わさぬ覚悟ながら。」
女が自分の腹に拳を這わした。

まだ暮れるまでには間があった。
空は澄み切って高く、時々鳥の声が聞こえた。
和尚の配慮か墓地に人影は見えなかった。
まだ新しい墓標の前で女が端坐していた。
白単衣肌着に細帯、長い髪は櫛笄を外して紙縒りで纏めている。
すでに死に装束とわかる。
「女の腹切り、御不審でございましょう。」
「武家の覚悟なれば止める心算はない。」
「前の墓標は夫であった者。私は不義を犯しました。」
女は呟くように話し始めた。

男と共に逐電して一年ほどが経った頃、縁者から送ってきた金を持って男は姿を消した。
夫に詫びを言いたくて、彼女は戻ってきた。
「夫の手で死にたいと思いましたが、それは自分への言い訳。恋しかったのでございます。」
夫は女が逃げた後、お役を辞し縁戚の者に家督を譲った。
「女敵討ちの願いも出さず、私が戻る少し前に自害したそうでございます。」
戻ってきてその話を聞き、女は自分の罪の大きさを知った。
「不義の相手はつまらぬ男でありました。」
思い出すように彼女は言った。

夫の腹の切り様はすさまじく、腸を引きずり出した無念腹。
見つかった時はまだ息があった。
長い間苦しんで死んだ。
書き置きはなく、前に手鏡が置かれていた。

「気の弱いばかりの人でした。腹を切れようとは思いませんでした。」
よほどに私を恨んでいたのだろうと女は言った。
「もう私には、あの人に詫びて腹を切る他には道がないのです。」
前の墓標を見ながら腹を撫でた。

「そなたを恋しゅうて腹を切られたのであろう。」
「恋しゅうて・・・?」
女が顔を上げる。
「女敵討ちを願わず、恨みごとも書き遺さず腹を切った。憎かったからではあるまい。」
平四郎は目を見なかった。
「前に置かれた鏡はそなたの形見であったろう。」
「それが真(まこと)なら嬉しいこと・・・。」
女の目から涙が溢れた。
「早う行って確かめとうございます。」

本堂からのどかに読経の声が流れ始めた。
「お見送り下さっているような。」
聞き入るようにしばらく顔を上げた。
「拙者は夫殿に代わってそなたの首を討つ。」
「嬉しいこと、おかげで心地良う逝けまする。」
「きっとお待ちでござろう。」
肩越しに礼をして女は前を押し開く。
肌は白く柔らかく、乳房は程よく熟している。
刃を懐紙で巻き込み腹を揉む。
「あなた・・・。今参ります。」
それは艶めかしい声と聞こえた。
膝立ちに突き立てる刃は脇のつぼ。
「うむっ・・うむぅぅ・・うぐぅぅぅ・・。」
肉震え痙攣して手を緩めなかった。
「ううう・・・うむうぅぅぅ・・・。」
臍下を横に割く。
「あぁぁ・・・。」
前に屈んで首が伸びた。
「逝かれよ!」
振り下ろした太刀が首を切り落とした。

「いつもながら見事な腕前じゃな。」
木の陰から和尚が現れる。
「生業(なりわい)だからな。」
驚く風もなく平四郎が応えた。
「幸せそうな顔で首になっておる。」
まだ血を流す躯(むくろ)を見下ろして和尚が言う。
しばらく彼は経を唱えた。
「側に葬ってやらねばならぬ。」
「よいのか。」
「故意か失念か離縁の届けは出ておらぬ。他出していた妻が戻ってきた、かまうまい。十年もすれば全て土に戻る。一人余分でも墓の供養は変わらぬ。」
日が暮れる頃、女は夫の傍らに密かに葬られた。
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by kikuryouran | 2009-10-23 03:11 | 平四郎 | Comments(4)

女切腹

「亀山一之進妻志保、重き罪科に処すべきところ、お情けをもって切腹申しつける。」
夫一之進が凶刃に倒れ、仇討願いを出すも相手方が賄内を贈りこれを許されず。
志保は夜陰家宅にこれを襲い、討ち果たして自訴した。
家中同情の声多く、吟味の後切腹を賜う。
「切腹、有り難くお受け申し上げます。」
「志保殿、仇討願いを妨げた張本人は己を恥じて昨夜自害致した。また、賄内を贈りし者は追って沙汰を待つ身にて内々に打ち首と決まり申した。当人は切腹を願うもお取り上げにはならず、相続も許されぬと聞く。」
「有り難きお裁き、夫に良い土産でございます。」
嬉しそうに志保は頭を下げた。
「支度調えばご案内の者が参る。暫時これにてお待ちなされい。」

一人残された座敷の中、入れ替わりに女が入ってくる。
「暫く時がございます。御辞世などお残しなされては。」
文机には用意が調っている。
「今年は菊がようできました。お種になりますかどうか。」
女が障子を開け放つ。
菊が庭一面に咲いていた。
筆を取りしばらく考えた。

みだれきく つままつさとの はすこいし 
ぬれるしとねに むかえるあした

乱れ菊、夫待つ里の蓮恋し、濡れる褥に迎える朝。

「一之進様も蓮の台(うてな)でお待ちでございましょう。」

昼を過ぎた頃、志保は座に着いた。
「亀山一之進妻志保、役儀により見聞仕る。」
検死役は顔も知る日高十内。
「お役目御苦労に存じます。」
切腹刀を載せた三方が前に置かれる。
太刀を取った武士が後ろに立った。
「ご介錯致す。」
「声をかけるまで・・・。」
「承知仕った。」

細面に凛とした目鼻だち、眼差し涼しく三十路に近い女の艶。
死に化粧は薄くも紅(べに)は赤くひいた。
黒髪纏めて、討たれるうなじ首筋を出すは作法。
無紋無地の単衣袴が晴れやかに見える。

肌着残して両袖を抜く。
袴押し下げ、胸元乳房の谷間から下腹切り割く辺りまで露わにする。
手の捌き美しく迷いなく、死出旅立ちの覚悟は見る者を感じ入らせた。
瞑目して手を膝に、しばらく今生に別れを告げた。

日は小春のごとく、空高く気は澄み渡る。
小池に注ぐ水の音が静けさを増す秋の昼下がり。
しばらく時が止まった。

介錯の太刀に水打つ音が促すように静寂を破る。
いずれへともなく礼をして、押し頂き切腹刀を取る。
三宝を尻下に敷き腹をせり出す。
指先で探る切り込む辺り、見下ろして刃先を当てる。
緊張の糸張りつめて、すべての気が女の腹に集まった。
穏やかだった顔が険しくなる。

大きく息を吸い止める。
「うむっ・・うむむっ・・・。」
前に屈んで突き入れる。
痛みを堪えて揺れる腰。
顔歪み唇噛み締めて強張り震える。
握る懐紙が血に染まる。
白い肌に血が糸をひく。
「うぐっ・・くぅぅ・・。」
苦しげな呻きを上げて思わず身体が伸びた瞬間、介錯の太刀が振り下された。
ドスッ
頭部を切り離され、真っ赤な血を噴き上げ撒き散らして前に崩れた。
突き出された尻が、何度も痙攣して止んだ。
首は前に転び、髪がほどけて広がっている。
しばらく傷口から血が広がっていった。

介錯人が太刀を後ろに引いて礼をする。
「介錯見事、御苦労であった。」
検視役が立ち上がった。
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by kikuryouran | 2009-10-16 02:01 | 女腹切り情景 | Comments(7)

女の覚悟 番外


「これは情死、よろしゅうございますな。」
「いかにも情死、同意仕る。」
「ならば想いを果たさねば・・・。」
嬉しそうに女が笑った。

「苦しゅうございましょう。」
綾には手応えで傷が深いのが分かっている。
「腹切る前の試し突きなれば・・・。」
苦しげに顔を歪めながらも、流れる血を手で押さえて喜内も笑う。
「今しばし、今生の名残を惜しみたいもの。」
「お心のままに・・・。」
まだ夜明けまで時があった。

男を横たえて帯を解く。
濃い茂みに萎えている男根に手を添える。
「そのような・・・。」
「もう小娘ではありませぬ。」
側室は閨(ねや)が戦場(いくさば)と教えられた。
お疲れの時も情けを受けねばならない。
閨房の作法秘技も仕込まれた。
それは情というより役目であった。

彼女の指は巧みであった。
口を寄せる。
やがてそれは血に濡れて屹立し天を衝く。
「やっと逢えました・・・。」
女の目が潤み始める。
愛おしそうに女は男のすべてを確かめる。
男は身を委ねて不思議な感動に包まれていた。

前世からの縁(えにし)既に定まるも人はそれを知らず
男は陽女は陰、陽は陰を呼び陰もまた陽を求める。
恋情惹き寄せ、男女交合して陰陽結ぶ。
淫夢は内なる叫び、運命の導き。
陰は淫に通じるも、その性は母。
陽はその生を注いで次の世に継ぐ。
すべての点が連なり、導いた運命を彼は悟った。

彼は瞑目して横たわり、時々呻きを漏らしている。
陽根が女陰に呑み込まれる。
温かい肉襞が包み込む。
死の淵に小舟に揺れて見るは彼岸か。
快感と苦痛が織り交ざる。

花芯までも届いたそれは、過不足なく収まった。
幾世をも越えた縁と女には信じられた。
二つの肉体が完璧に結ばれている実感に酔った。
共に果てる歓びに魂が震えた。

二つの魂が結びつく。
それは情交とは異質なものに思えた。
光に満ちた天地。
荒れ狂う宇宙。
永劫に流れる時を超越していた。
噴き上げる炎に包まれ、歓喜が訪れる。
溶け合う魂が安らかな抱擁に包まれた。

「もうお楽になられませ。」
「情死であろうが。」
彼は笑った。
「わしはそなたを見届けねばならぬ。」
壁に背を預けて彼は身体を起こす。
苦痛は既になかった。
すべては夢であったかもしれぬと思った。
もう女しか見えなかった。
薄れていく意識の中で女が悶えている。
腹を割いているのか自らを慰めているのかはもうわからなかった。
彼は刃に身体を預けた。


山辺喜内の妻であった女、名は里という。
喜内殉死の前に実家に帰された。

元々町家の出であった。
「わしは今宵殿のお供をする。甥の新之助を養子に立て家督を継がせ、そなたは実家に戻す。」
里は子を授からなかった。
綾の方と共に殉死を遂げたとは後から聞いた。

夫と綾の方の仲は知っている。
「情死ではないのか。」
女の勘がそういっていた。
出自が武家の女であれば、夫は共に自害を許したかもしれぬ。
夫を恋しかったわけではない。
自害すると決めたのは女の意地であったのかもしれない。

山辺家の墓地は藩主の菩提寺にある。
喜内は藩主の側に綾の方と共に葬られた。
秋のまだ明けきらぬ朝、里は何れの場所で死ぬか少し迷った。
山辺家の墓地で死ぬか、藩主の墓地の前で死ぬか。
家の妻であった女としてか、夫と共に藩主に殉じるのかの選択と思えた。

藩主の墓の前で座を占める。
散り敷かれた紅葉が死の床になる。
ここで腹を切れば夫と共に葬ってくれるかもしれぬと思った。
綾が切腹したとなれば、それよりも見事な腹を切ってみせよう。
「私はそなた様を渡しませぬ。」
前を寛げる。
「町家の女でも腹は切れましょう。」
下腹深く突き刺して横に割いた。
抜き出さず抉って刃先を上に向け前に屈む。
刃は上に走って胸元急所まで届いた。
見事な切腹であった。

新しい藩主知成の耳に届いて下問があった。
その日の内に調べ書きと共に検死した役人が呼び出された。
「女は山辺喜内の妻であった者。喜内殿御自害の前に離別の届けが出ております。」
山辺の家は既に縁なき者と遺骸の引き取りを拒み、実家が引き取ることになっていた。

傷は臍下横に五寸、そのまま抉って上に四寸。深さは二寸臓腑に届く。
介添えの者の気配なく、膝縛らずも端坐崩さず、紅葉の褥に打ち伏すごとく。
遺し書きですぐに身元は知れた。
「御藩主様御墓前にての切腹、畏れ多いことながら見事でございました。」
「これほどの者を町家に葬るというのか。」
調べ書きを読みながら知成がしばらく考えていた。
離縁されながらも夫に殉じて操を立てるとは貞女の鑑。
殉死はご法度ながら武家は死に様が肝心、尊ぶべし。
離別されたとあっては武家の者でなく、藩主の側には葬れぬ。
彼は聞こえるように呟く。
「離別の届けは聞かぬこととして、この妻女は夫と共に殉死。」
「では・・・。」
「夫の側に葬るがよい。」
山辺の家では二人が殉死並みの扱いに面目を施した。
里の実家では、士分の妻として葬られるのを喜んだ。

これにまた後日談がある。
「お家では殉死があったと聞くが・・・。」
幕府大目付からの御調べがあった。
「いかにも先殿ご他界の折、三名の者が死に申した。実は側室綾の方と山辺なるもの情死致し、山辺の妻女は悋気の自害。外聞を憚ってそのように繕い申した。」
お恥ずかしい話でござるがと、江戸留守居役が菓子折を置いた。
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by kikuryouran | 2009-10-14 11:21 | 女腹切り情景 | Comments(2)

女の覚悟 5


城奥の離れ座敷、二人は死に装束で向かい合っていた。
「もはやここから生きては出られぬ。」
「貴女様と死ぬとは思いもよらぬことでございました。」
綾は藩内中士の娘、愛くるしい顔立ちに似合わず小太刀をよく使う。
喜内とは同門、兄妹弟子の仲であった。

「私は喜内殿に手ほどきを受けました、憶えておいでか。」
「忘れは致しませぬ。そなた様は美しかった。」
もう十年も前のことである。
その時綾はまだ十五であった。

互いに真剣を構えて向かい合った。
『共に死ぬ覚悟で打ち込め。』
小太刀は敵の懐に入るを極意とする。
それは白刃への恐怖との闘いであった。
数度の変化の後、綾は胸元深くに入って下から突き上げる。
首筋に打ち下ろされた刃が触れるほどで止まる。
相討ちの組太刀だった。
防具はない。
型は決まっているが、一瞬の狂いが二人の死に繋がる。

『太刀を見るな、目を見よ。』
白刃の下で喜内を見上げた。
残心のまましばらく見詰め合う。
目の前に肌蹴た胸がある。
男の匂いと緊張に綾は眩みそうになった。
彼の刃を受けて死ぬ誘惑に戸惑った。
相手の胴着に刃先が触れて止まるまで同じ動作が繰り返された。
彼の腹には止め損なった刃先の傷が幾つも残った。

「あれは、時にあたって死ぬ覚悟の稽古であった。」
「あの時から、私は貴方様を恋しておりました。」
「このような席でそのような。」
「まだお城に上がる前のこと、もはや殿とてお怒りにはなりますまい。死ぬる前に伝えたいと思っていました。」
綾が笑いながら言った。

「床での言葉は愛枝の内。」
そなたは死なずともよいであろうと喜内は言った。
「ただ一度、束の間の逢う瀬に私は命をかけました。」
綾の方は意味ありげに笑った。
「貴方様と共に生きとうございました。」
艶を含んだ笑みは、機微に通じた女を感じさせた。

「女は義理では死ねませぬ。」
喜内は同じ言葉を聞いた気がした。
恋しい故に死ぬと竹子は言った。
あの時、竹子は淫らに狂うていた。
しばらく彼は言葉を失った。

綾は喜内が殉死を誓ったと床で聞いた。
その時彼女は彼と共に死ぬ夢を見ながら抱かれた。
それからは夜毎思い出され、指で慰めなければならなかった。
あの時頸に当てられた刃は運命の予兆と思えた。
殉死なれば女も腹を切らねばなるまい。
腹に指を這わす。
血の予感が一層気を昂らせた。
臓腑を撒き散らして悶える姿を想像して震えた。
濡れた花弁に指が滑りこんだ。

「拙者もそなた様と死ぬを夢見申した。」
喜内は綾の目を見て言った。
あの組太刀は天啓であったのかもしれぬと彼は言った。
二人はしばらく見つめ合い頷き合った。

綾の方が小太刀を取って斜めに構える。
それは相討ち組太刀の構え。
「喜内殿、ひと手所望!」
「承知仕った。」
喜内も太刀を取り向かい合う。
「止め太刀御無用。」
呼吸を計ってそのまましばし見詰め合う。

突き上げて横に払う、身体に染みた組太刀の変化。
胸元に入って脾腹を突く。
それは自然な流れだった。
肉深く割く手応えをききながら、次の瞬間頸に刃を待つ。
「ご上達なされた。」
苦しげに顔を歪めて喜内が見下ろしている。
よろめく身体を支え抱く。
目の前に懐かしい胸があった。
男の腹に突き立つ刃を抉り抜く。
「相討ちは心得にて、身を捨てて踏み込めば勝つが本意。お見事でござる。」

血を流す腹を押えて喜内は控えた。
「あの折、拙者はこのように・・・。」
腹を割かれたい衝動にかられたと言った。
残心で見下ろし、共に果てる自分を夢見た。
苦しげに淫らな妄想も告白した。

「同じ想いでございました。」
綾はそう言いながらにじり寄る。
「これは情死、よろしゅうございますな。」
「いかにも情死、同意仕る。」
「ならば想いを果たさねば・・・。」
嬉しそうに綾が裾を開いた。

夜明け前に見届けの女が部屋に入った。
綾の方は介錯も受けずに見事な切腹。
山辺喜内は腹に突き立てた綾の方愛用の小太刀を握って果てていた。
二人共満足そうな死に顔であった。
「両名共に、殿をよほどお慕い申していたのであろう。」
遺髪を成幸の棺に納め、遺骸は共にお側に葬られた。
その後、喜内に離別された妻が密かに自害を遂げた。
これも見事な腹切りであったという。


  女の覚悟 完
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by kikuryouran | 2009-10-11 02:45 | 女腹切り情景 | Comments(5)

女の覚悟 4


先殿逝去の後、家督を継いだのは弟の成幸(しげゆき)であった。
「落ち度ではないと申しましたが。」
翌日、山辺喜内は庭で報告していた。
「見事な切腹でございました。」
「どんな女であったかな。」
何度も会った筈が印象は薄かった。
「元側小姓、山崎彦四郎の妻でございました。」
「そうか、女にも腹は切れるか。」
成幸は嬉しそうに言った。

「綾が黄泉までも供をすると言いおった。」
愛妾の名であった。
殉死はご法度と言いかけて彼は言葉を呑んだ。
法度が出された後も、それは止まなかった。
「拙者もお供仕る。」
「そうか、そちも腹を切ってくれるか。」
綾の言葉は閨の睦言、喜内のそれは言葉のはずみであったのかもしれない。

あれは確かに殉死の契りであったかと彼は思い返した。
『そちも腹を切ってくれるか。』
成幸は嬉しそうにそう言った。
俺も武士らしく死ぬ機会を得たのかと喜内は思った。
本当に綾の方も腹を切るのであろうか。
あの美しいお方と共に死ねると想像して心が躍った。

自分の覚悟を確かめた。
「俺に切れるか。」
死に恐怖する自分がいる。
固く引き締まった腹を探る。
切り割く辺りに拳をあてて這わす。
激痛の予感が走った。
『太平の世に、武士らしく死ぬ機会は少ない。』
彦四郎の言葉が浮かんだ。
俺も腹を切る。
男の誇りと尊厳に包まれた死の陶酔。
己が手で加える激痛こそはその代償であり証しであった。
生命の全てを昇華する喜びに震えた。
生への執着は捨てねばと言い聞かせた。

竹子は夫恋しさ故にと言った。
最期の喘ぎは喜悦とも聞こえて耳に残った。
綾の方を重ね合わせる。
濃い陰毛の間から鮮紅色の女陰が覗き喘ぐ。
それは悩ましくも淫らな想像だった。
思わず逸る男の徴(しるし)を握りしめた。
男根が咆哮を始める。
それは男としての叫びであった。
貫き合体して共に死に果てる妄想は、苦しくも歓びの極みを予感させた。
脳髄が痺れる。
すべての筋肉が硬直してその瞬間を待つ。
膨れ上がった男根が精水を一気に噴き出し、暗闇に白い命の水が散る。
固く結ばれた魂が白い閃光を放って砕け散った。
俺はあの女と共に死にたいのかもしれぬ。
彼は気だるい意識の中でそう思った。

それから数年が過ぎて、藩主成幸(しげゆき)急逝の報が江戸から届いた。
綾の方から喜内にお呼び出しがあった。
「喜内殿は殉死を誓ったと聞いている、今もそのお心算でありましょうか。」
「拙者の覚悟は変わりませぬ。」
「今宵、私は殿の元に参ります。共に参って下さるか。」
喜内に否応のあるはずもなく、承って城を下がった。
かねてから妻には覚悟を伝え縁戚にも話はついている。
彼はその日の内に妻を離別し家督を譲った。
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by kikuryouran | 2009-10-09 05:00 | 女腹切り情景 | Comments(2)

女の覚悟 3

男でも手を借りずに切り果てるのは難しい。
「介錯致そう。」
山辺喜内が声をかけた。
竹子はしばらく考えてからしっかりした声で答えた。
「お心遣いは有難うございますが、お手は借りずに果たす覚悟でございますれば。」
苦しゅうござるぞと言いかけて彼は口を噤んだ。
「外でお待ち申す。」
障子を閉めて彼は庭に下りた。
腹切り乱れる姿を見られたくはなかろうとの心遣いであった。
虫の声が心地よい静けさだった。
「彦四郎は幸せ者であったな。」
月を見上げて呟いた。
山辺喜内は山崎彦四郎とは同年で親しかった。

武家に衆道は珍しくなく、恥じることでもなかった。
先殿病に身罷られ、彼が殉死を申し出た時は周囲の者も驚いた。
当節殉死の契りなどを信じる者もなく、公にもできぬ。
「拙者は気が触れて死に申すのみ。皆様は知らぬことでようござる。」
名も加増も望みませぬと彼は言った。

「俺は昔、陰で色小姓と嘲られていたことを知っている。」
殉死すると宣言した日、彦四郎は喜内に言った。
その頃から武士らしく死ぬ時を探していたのだという。
「死ねる理由というのは、なかなか無いものだ。」
「妻女殿はどうする。」
「あの女ならこの世の未練にはならぬと思ったが。」
そうではなかったようだと彼は笑った。

部屋から漏れていた灯りが消えた
「いよいよのようだな。」
中の気配を覗いながら彼は不思議な妬ましさを感じていた。


支度が済むと竹子は灯りを消した。
障子を透して優しい月明かりが入ってくる。
すぐに目が慣れ、死ぬのに不自由な暗さではなかった。

肌を寛げながら帰し方を振り返る。
若い頃はあった話も二十歳を過ぎると止んだ。
話がきたのはもう三十路に近い頃であった。
彦四郎は若い頃は殿の閨小姓であったと聞いた。
武家に衆道は疵でもないと母が言った。

この太平の世では殉死など死語ともいえる。
「俺は殉死を契ってより、いつでも死ねる覚悟でおる。」
男とは不思議なものと思いながら、初めての床で聞いた。
夫の死に顔は満足そうに思えた。
それを見ながら、このように死ねれば幸せかもしれぬと思っている自分に気が付いた。

それから五年、彼女の脳裏から彦四郎は消えなかった。
顔は定かでなくなったが、最後に抱かれた時の記憶は身体に染みついていた。
死を前にした彼の情欲がそれを激しいものにしたのであろう。
彼女は夜毎思い出して身体が火照った。

腹を探っていた指が秘所に滑り込む。
周囲を包む薄暗がりが有難かった。
一気に昇り詰めようとして声を堪える。
「あなたぁ・・・。」
今参りますと言いながら腹に刃を当てた。
鋭く冷たい鋼が肌を強ばらせる。

前に屈んで突き立てた。
片手の指は濡れた秘所を探っている。
握った切腹刀は男であった。
貫く痛みが歓びに変わる予感があった。

「ああ・・・・。うむぅぅ・・。」
腰が揺れる。
「うぐぐぅぅ・・・。」
ゆっくりと刃を引き回す。
「ううむうぅぅぅぅ・・・。」
女陰を指が責め立てる。
「ああぁぁ・・・。」
膝が崩れて気が遠くなっていった。


気配で始まったのがわかる。
低い呻きと喘ぎが漏れた。
女のそれは艶とも聞こえ、猥ら声とも聞こえる。
しばらくそれが絶え間なく続いた。
喜内はそれを聞きながら股間が逸るのを覚えていた。

声が止んでしばらく待った。
部屋に入ると目が慣れるまでしばらくかかる。
灯りを点けると竹子が仰臥していた。
気を失っているがまだ息がある。

胸元はだけ裾乱れて、乳房秘所までも露わになっている。
「やはり腹を・・・。これほどに切ったぐらいでは死ねぬに。」
傷は五寸程、血にまみれているが浅いと見える。
「女の腹切りは淫ら見苦しいとは聞いていたが。」

彼はゆっくりと刀を抜く。
どこにとどめを入れようかとしばらく見下ろして考えた。
喉か、胸か、それとも・・・女の急所は子袋か。
彼は逆手に持った刀を腹に当てて一気に背まで突き通した。

「あぐうぅぅ・・・」
血が噴き出し、肉の震えが手に伝わる。
太刀を抉ると突き立った刀を握って女が眼を開ける。
「あ・あ・あ・・・・。」
見上げた目が泳ぐ。
腰を猥らに揺らせたように見えた。
しばらく痙攣を繰り返して息が絶えた。
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by kikuryouran | 2009-10-04 11:30 | 女腹切り情景 | Comments(4)

女の覚悟 2

山崎彦四郎、殿の側小姓から書院番を務める。殿逝去に際して殉死を認められ城を下がった。
今宵の内に殉死すると妻竹子に申し渡し、家人に暇を出して仮睡の後切腹を遂げた。歳は二十五、竹子を娶ってまだ一年も経たぬ頃であった。
竹子は彦四郎より三つ上の目立たぬほどの女、父は軽輩ながら槍一筋の律儀者であった。彦四郎が是非にと望んで周囲からは不釣り合いと見えた。

「彦四郎があれほど見事に致すとは思わなんだ。」
山辺喜内は言った。
「嫁ぐ前から覚悟は聞いておりました。」
女も遠くを見ながら思い出すように言った。
縁談のあった時、竹子は彦四郎に何故自分を望むかと訊いた。それほど不釣り合いだと自分にも思えたからである。
「わしは殿に万一の時はお供する覚悟。」
それでよくば来てくれるかと彼は言った。武士には当然の覚悟でも女には辛い言葉である。三日考えてから彼女はその話を受けた。
「とうのたった娘には夢のようなご縁でございました。」

その日、城から帰った彦四郎は迷いなく後の始末をつけた。すでに手筈は調っていた。
「殉死はお上のご法度なれば、公にはできぬ。」
家人すべてを遠ざけて、彼は余人の手は借りられぬと妻に言った。

仮睡の床で夫婦別れの情を交わす。
「そなたとは短い縁(えにし)であったが、わしは良い妻を得た。」
「私も幸せでございました。」
気の昂ぶりが二人を燃え上がらせた。
「お連れ下さいませ。」
「わしはお供に逝くのだ、連れてはゆけぬ。」
しがみつく竹子を抱きしめる。
命のすべてを注ぎ込もうとするように女の中心を貫いた。
それは、口には出せぬ想いを伝えようとする男の情愛を感じさせるに充分な激しさだった。
固く結ばれて、竹子は彼の魂さえも刻まれた実感に酔った。

夫を立たせて下帯をつけてやる。
まだ淫水に濡れる男の徴に口をつけて別れを告げた。

夜が明けようとする頃、竹子だけに見守られて彼は切腹の座に着いた。
大きく前を押し開き下腹を揉み撫ぜる。
切腹刀を握って前を見た。
「恐ろしいであろうが見届けよ。」
彼は名残惜しそうにしばらく竹子を見つめて、切り割く辺りに目を落とした。

竹子は不思議に恐ろしいとは思わなかった。
夫の姿を美しいとさえ思いながら見守った。
今が男の盛り、切腹は武家の死に花、彼は本懐であろう。
濃い情交の余韻に浸っていたのかもしれない。
側小姓であった頃、彼は藩内一の美形といわれた。
その男を独り占めしている女の満足感に酔った。
彼の隅々までもを自分は知っている。
指先に残る感触を思い出してまた血が騒ぐ。

腰を浮かして彼は刃を突き立てた。
「うむむっ、うぐぅぅ・・・。」
くぐもった呻きと苦しそうな喘ぎ声。
震える下腹が切り裂かれてゆくのを彼女は見詰めていた。
白い袴が血を吸ってゆっくりと赤く染まっていった。
作法通りに彼は腹を割き、自らの手で喉元を切り裂いて終わった。
血まみれでもがく夫を竹子は黙って見届けた。

「彦四郎が恋しいというのか。」
「今なれば、あの人の元に行けましょう。」
あれから機会を探していたのかもしれないと竹子は言った。

もう大きな月が昇り始めた。
部屋の中央に座を占めて、竹子は腹切る支度を始めた。
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by kikuryouran | 2009-10-01 06:17 | 女腹切り情景 | Comments(0)