愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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女の覚悟

城中離れ屋の庭は数百の菊に彩られている。
夕刻、障子を開け放って女が一人庭を眺めていた。
「今年は菊がようできた。」
一人の武士が入ってくる。山辺喜内、殿の側近くに仕えている。
「ほんによう咲きました。」
女は髪を纏めて白無垢単衣、覚悟の衣装であることは一目でわかる。

数日前、藩主の幼い姫が逝去されると女は切腹を強く願った。
「姫のことは致し方のなかったこと、そなたを責める者はおらぬ。」
「流行り病とはいえ、姫様ご他界は御側に仕えていた者の落ち度でございます。お詫びは一命をもってせねばなりませぬ。」
固い決意は翻らず、再度の願いは聞き届けられた。
「殿は当節見事な覚悟と仰せられ、姫様のお側に葬り末長く香華は絶やさぬとのお言葉であった。」
「有り難き御配慮、御礼申し上げます。」
彼は見届けの使者であった。

五年前、女の夫は殉死を遂げていた。
「彦四郎の最期も見事であった。」
それが夫の名であった。
「死ぬる機会を逸してはならぬとは夫が常々申していたこと。」
「いかにも武士の心得ではあるが・・・。」
「あの人はきっと機会を探していたのでございましょう。」
夫亡き後、女は律儀が取り柄と見込まれて姫のお側に取り立てられていた。
「そなたも夫に倣うと言うのか。」
「女にはこれほどの機会は望めませぬ。」
「女だてらに名を惜しむか・・・。」
彼の言葉には揶揄の色が感じられた。
「この世に残す名はいりませぬ。夜毎恋しゅうございますゆえに。」
しばらく俯いていた女が恥ずかしそうに言った。

「この度、やっと心が晴れる思いでございます。」
「夫の元へ行くと言うのか。」
「夜毎に思い出されて。」
顔を上げた女は微笑んでいるように見えた。
これまで目立つほどの女ではなかった。
しかしその時一気に色香を放ったように思えた。
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by kikuryouran | 2009-09-27 00:51 | 女腹切り情景 | Comments(0)