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ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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自決の理由(2)

二人が向かい合って座った頃には、もう空が白み始めた。
彼が眠っている間に、私はすべての支度を済ませていた。
「お前は俺を見届けてからだ。」
「一人では怖くて死ねないかもしれないわ。」
「俺は死ななければならんから腹を切る。お前は好きにすればいい。」
彼は少し怒ったように言った。

彼は素肌に着けたワイシャツの前を開け、軍服ズボンの前釦を下まで外して折り返した。
真っ白い褌が私の目を惹いた。
「苦しむだろうが恐れてはならん。お前は軍人の妻だ。」
私は黙って頷いた。
長い軍刀の刀身に手拭を何重にも巻きつけて前をはだける。
刃先は三寸余り、冷たい光を放っていた。
彼はもう私を見なかった。
俯いて切り割く辺りを確かめるように何度も揉み撫でた。
逞しく引き締まった胸と腹、刃を握り締めて腕が震えている。
彼は今、大義をなすために自分と戦おうとしている。
それは私に初めて見せる軍人としての夫の姿だった。

くぐもった気合いと共に刃が膚を突き破り、白い股間が赤く染まっていった。
私は思わず目をそむけ下を向いた。
「見ろ!見るんだ。」
震えながら彼は下腹を切り割いた。
下を向いたまま、私は彼の呻く声に長い間耐えた気がする。
膝元に血たまりが広がっていった。
「塔子・・・。」
名前を呼ばれて前を見る。
彼は刀を逆立て、刃先を喉元にあてていた。
その時彼は笑ったように見えた。
私を見ながらゆっくりと刃を喉元に突き通した。
見つめ合った一瞬が長い時間のように思えた。
彼は崩れるように前に倒れ、何度も痙攣してから動かなくなった。

私はしばらく呆然と座っていた。
喉がカラカラだった。
台所に立って水を飲んだ。
私にはもう自決するほどの気力は残されていなかった。
『お前は好きにすればいい。』
彼の怒ったような声を思い出す。
私は化粧を確かめてから参謀本部に電話をかけた。
「夫が自決しました。」
もう落ち着いた声だった。

人が来るまでしばらく時間があった。
血まみれで横たわる夫の側に座って、私は顔を見ていた。
「ごめんなさい、死ねなかったわ。」
彼が笑ったように思った。
目を瞑らせ、顔に飛んだ血を拭ってやる。
「きっと私に見せたかったのね。」
無惨に割かれたお腹を見ながら私は呟いた。
「ご立派な割腹でしたよ。」
彼は満足気に眠っているように見えた。

外からはもう動き始めた朝の気配が感じられた。
蝉の声が喧しい。
今日もまた暑くなりそうだと思った。
やがて表に慌しく車が止まった。
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by kikuryouran | 2009-08-14 00:12 | 女腹切り情景 | Comments(3)

自決の理由(1)

昭和二十年八月十五日、終戦の御詔勅がラヂオで放送されて日本中は沸き立っていた。
「俺は今夜腹を切る。」
突然帰宅した夫はそう言って片づけを始めた。
彼は参謀付きの陸軍大尉だった。
「大臣も腹を切られた。何人もが自決する。俺も死なねばならん。」
軍人の妻として私は止められなかった。

夕刻、庭を見ながら彼は酒を呑んだ。
「俺は後悔をしていない。」
私は側で黙って聞いている。
「俺は立派に死にたいと思っていた。」
しばらく考えをめぐらすように暮れていく空を見ていた。
「軍人になった時から腹を切る覚悟はあった。」
「死にたかったの?」
「最期まで軍人として全うしたいということだ。」
鼓舞するように杯をあおった。
「今死ななければきっと後悔する事になる。」
彼は自分に言い聞かせるように言った。
「お前がいてくれるから、苦しくても俺は立派に死ねるよ。」
笑いながら私を見た。
「お前に俺の魂を見せてやる。」
そう言った彼の目はもう笑っていなかった。

「お前はどうする。」
嫁いで一年、子はなかった。
両親は幼い頃に亡くなっている。兄は前の年に戦死していた。
「身寄りといってもありませんから。」
私は困ったように言った。
「そうだったな。俺は本望だがお前には可哀そうなことだ。」
彼は庭を見ながらまた無口になった。

「この二日ほど寝ていない。しくじるわけにはいかんから少し寝る。」
二時間ほどで起こすように言って彼は横になった。
酒が利いたのかすぐに寝息を立て始めた。
彼が起きたのはもう十二時を過ぎていた。
「どうして起こさなかった。」
「気持ち良さそうに寝ていたから。」
私は何度も起こそうとして起こせなかった。このまま朝まで寝てくれたら、自決は止める気がしていた。
「夢を見ていた。」
彼は私の手を取った。
「お前を抱いている夢だった。」
彼は私を抱き寄せた。
死を前にした性愛は激しいと聞いていた。
彼は貪るように私を抱いた。
息もできぬほど強く抱かれ、私は貫かれた。

私は彼のお腹に唇を押し当てていた。
ここが切り裂かれると思うと胸が詰まった。
「やはりお死にになるの?」
私は訊いた。
「死なねばならん。」
「一緒に死ねとは言って下さらないのね。」
「お前には死ぬ理由がない。」
「女は愛しているというだけで死ねるわ。」
彼は確かめるようにしばらく私を見た。
「ありがとう。」
そして口付けをしてくれた。
私たちはもう一度愛し合った。
今度は互いにすべてを確かめるように優しい愛し方だった。
「生まれ替わったら私は男に生まれるわ。」
私の手の中で男の徴は萎えなかった。
「それなら俺は女に生まれなければならないな。」
彼はおかしそうに笑った。
これほどの喜びはもう望めないと実感して私は満足した。
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by kikuryouran | 2009-08-09 21:10 | 女腹切り情景 | Comments(0)

お市御寮人

天守からは北の庄を見渡せる。
いつもはのどかな眺めが、今は夥しい旗指物に埋められていた。
「市殿、ふがいない戦でござった。」
勝家は娶った後も常に丁寧だった。
「秀吉の猿知恵には、そなた様も敵いませなんだか。」
市はおかしそうに言った。

人生五十年といわれた時代、この時勝家は六十二才、市は三十七才であった。
幼い頃より主従の間柄、嫁いで一年ばかりしか経っていない。
市にとっては、信頼できる従者というだけの男であったかもしれない。
勝家にとっても庇護者という意識が強かったかもしれない。
遠慮から肌を合わせたことはなかった。
共に死ぬ時になって、はじめて夫婦(めおと)の意識が二人に芽生えた。

「秀吉はそなた様を殺さぬと申しておる。」
「色猿のあの者がこの身体を望んでおるのはご承知のはず。身を売ってまで生きとうはない。」
誇り高い織田の血が言わせた言葉だった。
「夫二人の落城を見て、生き延びては後生を望めませぬ。」
「姫様の手をとって逝けば、お屋形様には何と言われよう。」
「鬼の権六殿もまだ兄上が怖ろしいのですか。」
信長のことである。
「いかにも怖うござる。」
二人は顔を見合して楽しそうに笑った。

七層の天守からは遠く海を臨めた。
もう暑くなる頃ではあったが、越前では気候の良い頃である。
吹き抜ける風は心地良かった。
「次の世はそなた様と添えようか。」
「共に死ぬる妻をお疑いか。」
「長政殿がお待ちでござろう。」
「妬いておられますのか、埒もない。」
市が勝家の手を握る。
「黄泉に迷いとうはない。ゆめ離して下さるな。」
「離しませぬぞ。」
勝家が市を抱き寄せた。
「拙者には過ぎた最期でござる。」
この時彼には死が甘美と思えた。

上から見下ろすと戦況が眺められる。
最後の門が破られ、敵がなだれをうって天守の一層に攻め入るのが見えた。
「戦はこれまでじゃ、火をかけよ。」
見下ろしたまま、勝家は普段と変わらぬ口調で命令を下した。
「わしは市殿と二人で果てる。皆も心のままに死ぬるがよい。」
控えていた者たちは、別れを言って下がっていった。

勝家は具足を脱ぎ市は白無垢の死に衣装、向かい合って座る。
「お供仕る。」
「妾(わらわ)は妻でございますぞ。」
「拙者にはいつまでも姫でござる。」
市は微笑みながらしばらく顔を見ていた。
「その手でお連れなされよ。」
胸を大きく押し開いて目を瞑る。
「次の世でもそなたの妻じゃ、たんと抱いて頂きましょう。」
ゆっくりと煙が立ち込めた。
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by kikuryouran | 2009-08-03 16:01 | 女腹切り情景 | Comments(0)

淀殿最期

既に秀頼は割腹を遂げている。
外からは攻め手の声さえもが聞こえて、銃声が途絶えなかった。
周囲では侍女や近習たちが次々に自害していく。
「もはやこれまでかと・・・。」
淀の方は促されて懐剣を握った。

落城は既に二度味わっている。
小谷の城では父が切腹し、北の庄では母が自害した。
不思議に懐かしく思い出された。
多くの死を見てきた。
死は常に身近にあり、縁者の多くが自害して終わっている。
自分もいつかこうなることを覚悟していた気がする。

激しく誇り高い性格は、信長と同じ血を濃く受けていたのかもしれない。
数奇な一生とは思わなかった。
悔しさ恨めしさはなかった。
ただ思うままに生きた。
すべてが前世から決まっていたことのように思えた。
炎の中で自害するこそ、自分には相応しい最期の気がした。

死ぬる前の走馬灯は廻り続ける。
周囲にはいつか父母が居た。信長が居た。勝家が居た
しかし秀吉は現れなかった。
彼には武家の誇りはわかるまい。

周囲は既に煙が立ち込めている。
背後で首討つ太刀を抜く気配を感じて彼女は叫んだ。
「下がれ!介錯無用。妾(わらわ)は長政の子、市の娘ぞ。」
懐剣に身体を預けた。
苦しくはなかった。
腕に力を込めて抉る。
彼女は満足げな笑みを浮かべて前に崩れた。
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by kikuryouran | 2009-08-02 06:50 | 女腹切り情景 | Comments(0)

切腹座の女

春うららかな日が差している。空は青く、遠くに鳥の声がのどかに聞こえた。
私は単衣白無垢の死に衣装、黒髪は束ねて後ろに流している。
導かれて庭に入ると白砂が敷き詰められ、周囲は無地幔幕で囲まれて畳二枚に白布が敷かれている。
控えている数人の武士に、私は一人一人丁寧に黙礼をして座に着いた。

二間ほども離れて床几に腰掛け、検視役は憐れむように見下ろしている。
「その方儀、お情け以って切腹申し付けられる。」
「女の身に過分のお情け、有難くお受け申し上げます。」
「望みなれば格別に真剣を下げ渡す。心して仕遂げられよ。」
介添え役が切腹刀を三宝に載せて前に置く。
凍りついたような静寂と緊張が流れた。

死ぬることを怖ろしいとは思わなかった。
腹を割いて、見苦しくのたうつ姿を想像して恐怖した。
胸の鼓動が大きくなり血が逆流した。
息苦しさに大きく息を吸う。

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「ご介錯いたす。」
背後から声がかかり、気配で刀を抜くのがわかった。
「ご造作をおかけ申します。お情けにて賜った切腹、声をかけるまでお待ち下さい。」
私は肩越しに礼をして言った。
「承知仕った。存分にいたされよ。」
頼もしい声だった。

かねてからの覚悟、切腹を願った。
異議を唱える者はあったが、奥方様の口添えがあった。
『奥仕えの女なれば侍並みに。』
『それほどに申すならば形ばかりは許さぬ。真剣にて致させよ。』
殿様は怒ったように言われた。
『そなたなら男共の鼻をあかしてくれよう。』
私は奥方様に覚悟と共に礼を述べた。

しばらく瞑目して気を静める。
単衣の袖を抜き肌着の襟に手をかける。
秘めた肌を開くためらいに指が震えた。
周囲の者達が息を殺して見守っているのがわかる。
『肌露わすを恥じてはならぬ。』
父はそう言って励ましてくれた。

手習いの通り胸を押し開いて前肌露わす。
腰紐押し下げ、下腹までも充分に寛げた。
春の気が心地良く肌をなぶる。
切り割く辺りを確かめるように撫ぜ揉んだ。
もう見事に腹を切ることだけしか考えなかった。

切腹刀を押し戴き、膝割り腰下に三宝を敷く。
顔を上げ、刃先を当てると鋼の冷たい感触が腹から腰を痺れさせた。
気が満ちて前屈みに膚を割く。
ゆっくりと血が噴くのを見ながら、これほどのことであったのかと思った。
腕に力を込めて一気に突き立てた。
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by kikuryouran | 2009-08-01 05:46 | 女腹切り情景 | Comments(0)