愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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殉国の祈り

戦局は敗色濃く、もはや神助を頼む他は手立てはないと思えた。戦勝祈願の祈祷を行うように命じられて社の神官が用意を始めた時、国主の娘の香子が訪れた。
「香子どの、神に身を捧げると言われるのか。」
「穢れた身ではございますがぜひとも・・・。」
香子は既に嫁いで、夫を戦陣に亡くしていた。
「女子(おなご)の春を知るは自然の理、御神意に背くものではありますまい。」
彼は彼女の固い決意を受けぬわけにはいかなかった。

精進潔斎の後、巫女姿の香子は神前で舞った。国随一の美形、まだ二十歳を過ぎたばかりの姿は美しく、彼女は国の安寧を願い舞い続けた。しばらくすると、心から雑事は消えて神の元に赴く思いに気が満ちていく。
祈祷を続ける神官に礼をすると、香子は身に纏う物をすべて脱ぎ落とし御簾内に入った。無垢の姿で胡座を組み、しばらく念を込めて祈りを捧げた。そこは外界とは遮られて、もう神域と言ってよかった。
「武運戦勝の祈願なれば、古式にのっとりこの身命を捧げまする。」
座を改めて、傍らに置かれた懐剣を取る。雪の肌を慰めるように撫でた。細腰に刃先を当てて突き立てる。震えるままに引き回す。血が白い肌を伝って漆黒の草を濡らした。
「この身に替えて・・・。」
香子は抜き出した刃を膝に置いて、なおも祈りを捧げた。横に割られた腹から、ゆっくりと血が簾(すだれ)となって肌を流れ伝う。
「お願い申し上げます・・・。」
目は宙を泳ぎながらも、その凛とした姿勢は崩さなかった。
やがて気が失せようとする。
懐剣を取り直して両膝立ちになる。
「お願い・・・。」
大きく振りかぶった刃を一気に突き立てる臍の辺り、ズズズゥと下に切り下げた。腹は十字に割かれて臓腑が膝間に溢れこぼれた。しばらくそのままに祈りを捧げ、ゆっくり後ろに倒れた。震える四肢を開いて目はまっすぐに天を仰いで閉じなかった。

御簾の外では祈祷が続けられていた。微かに香子の影が見えた。揺れていた影が倒れるのを確かめて御簾内を覗くと、香子はまだ痙攣を続けていた。
「お見事な。」
凄惨な光景にもかかわらず、満足そうに笑みさえも浮かべた顔が彼には美しく思えた。

香子の遺骸はそのままに、祈祷が続けられた。
翌日の朝、戦の帰趨は知らず、神官は自らも堵腹してその祈りを終えた。
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by kikuryouran | 2007-06-03 11:32 | 女腹切り情景 | Comments(0)