愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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会津の女

短刀を前に置かれて、私は仏壇の前に座らされた。
「あなたには会津白虎隊の血がながれているのよ。さあ、男らしく切腹してお詫びなさい。私も腹切り、ご先祖様にお詫びいたします。」
厳しい声でそう言うと、母は胸元を寛げて懐剣を抜いた。まだ幼かった私は、光る刃を見ただけで震え上がって泣き出した。彼女も泣きながら、肌蹴た胸に私を抱き締めてくれた。

「あなたはあれから、やっと私の言う事を聞いてくれるようになったわ。」
母は笑いながら言った。
「本気じゃなかったんだろうけど。」
「私は本気でしたよ・・・。」
彼女の目はもう笑っていなかった。
「あなたとは十歳ほどしか違わなくて、私も若かったわ。あなたがなついてくれなくて随分悩んだものよ。本気だったわ、あの時私は。一緒に死ぬ心算だった。」
彼女は私から目を逸らせた。
実母は私が幼い頃に亡くなり、私が七歳になった頃彼女が嫁いできた。私はなつかずに、ひどい悪戯をして彼女を困らせたのだった。
「特攻を志願したよ。もう会えないと思う。」
何気ないように私はポツリと言った。
「あなたも逝ってしまうのね。死ぬべき時に死ねるのは、きっと幸せなことなのでしょうね。」
まるで予想していたことのように彼女は応えた。
「あなたには幸せになって欲しい。再婚すればいいよ由美子さんは、まだ若いんだから。」
私は彼女を、まだ母と呼んだことはなかった。
「私はお父さんを愛していたわ、そしてあなたも。私たちは死ぬ機会を探して生きているのかもしれないわね。」
軍人であった父はすでに戦死していた。
「僕はきっと、あなたを想いながら死ぬよ。」
「あなたは本当のお母さんを知らないものね。私はあなたの母親になれて幸せだったわ。」
彼女は淋しそうに笑った。

私を送り出した翌日、彼女は自決した。
「これをあなたに届けて欲しいとだけ書き遺してありました。戦死されたお父上をよほどに慕っておられたのでありましょう。」
身憶えのある懐剣だった。刃の根元にはまだ血がこびり付いていた。
「母上は見事に割腹を遂げられました。」
「あの人は会津の女でした。」
知らせに来た男は納得したように頷いた。

空に上がると太陽が昇り始めた。友機と共に洋上に出ると、もう誰とも会うことはないのだと思った。単調なエンジン音と振動が、私を心地良い魂の世界に誘ってくれた。
計器の前に置いた写真が微笑んでいた。彼女が悶えながら柔らかなお腹を切り割く姿を想像した。
「お母さん・・・。」
「やっとそう呼んでくれたわね。」
彼女は母というにはまだ充分に美しかった。
「あなたと一緒に死ぬわ。きっと今が私の死ぬべき時なの。武人の妻として母として、会津の女として。」
私は膝に置いた懐剣を握り締めた。『理を問うてはなりません、死ぬべき時に潔く死ねばよいのです。』あの人はいつもそう言っていた。そうだ、殺すために戦うのではないのだと思った。
遠くに敵艦の影が見えた。高度を下げ、エンジンを全開にして操縦桿を固定した。
「私も今逝きます。」
風防を機銃掃射が襲う。視界を覆う大きく黒い影が近付いてくる。私は柔らかい胸に抱き包まれて満ち足りた気分だった。
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by kikuryouran | 2007-04-26 14:20 | 女腹切り情景 | Comments(0)

城主情死

「奥方様もはやこれまで、お覚悟願わしゅう。殿が天守にてお待ちにございます。」
まだ敵の姿は見えなかったが、城内はすでに騒然としていた。弾ける鉄砲の音と怒号の中を、奥方は天守に向かった。
「討って出る者自害する者、もはや思いのままに果てよ。階段は外して敵を上げるな。首を渡してはならぬ火をかけよ。」
夫は慌しく下知をしていた。
「お待たせいたしました。」
「おお、来たか。武運もこれまで、生害致す。」
既に甲冑具足を解き、夫は覚悟の様子で妻を迎えた。天守には二人だけが残され、階段が外された。
「しばし時がある。今生名残り、そなたと最期のひと戦(いくさ)を所望じゃ。」
「この期に及んでそれは豪気な。お相手仕ります。」
奥方は裾を広げて横たわり、夫を受け入れた。
「最期のお情け、嬉しゅうございます。」
短くも心のこもった情交だった。二人は束の間死への恐怖を忘れ、共に旅立つ喜びを確かめた。
「生涯最後、最良の喜びでございました。」
「わしもよ、そなたの肌がこれほどに心地良いと初めて知ったわ。」
「いま少し、命が惜しゅうなりました。」
「いかにもな。次の世では永劫睦み合えよう。」
二人は嬉しそうに笑い合った。すでになだれのように敵の押し寄せる音が聞こえて、下からは自害する声が重なり聞こえている。部屋には煙が漂い始めていた。
「面白かったな。」
「楽しゅうございました。」
見交わして笑みがこぼれた。

夫の握る短刀を導いて身を投げかける。顔が近付いて、手を添えて引き寄せる。刃が肉を裂き臓腑を抉った。破瓜の男根が荒々しく侵入して、目の前に真っ赤な花が咲いたことを思い出した。逞しい肉棒が暴れ狂い身体の中を掻き回す。猥らな妄想と狂気に捉えられて、握った刃に力をこめた。
「あううーーーっ。」
激痛にすべての筋肉が痙攣し悲鳴を上げた。流れ出す血が気を奪う。死の安らぎと恍惚の中で気が失せようとしていた。
「もっと強く抱いて・・・。」
男が抱き締め、一気に貫いて歓喜の奈落に突き落とした。

下からはもう声は聞こえなかった。突き立てた刃を狂ったように走らせると、激痛が全ての苦しみを消した。腹を切り割いて、苦痛の後に朦朧と快楽(けらく)の時が訪れる。身分も名利も失せ、死ぬる時はただ男ただ女。今生が夢か幻かは知らず、女と共に果てた記憶がよみがえる。

めらめらと音を立てて炎が周囲に上がり始めた。壁に背を預け、男は横たわる女を見ながら股間の肉棒を握り締めていた。女陰に呑み込まれる夢を見た。赤い淫花が開いて男を包み込む。心地良い温もりに包まれて安らかな陶酔に満たされた。懐かしい女の声が聞こえて快感が突き上げた瞬間、火薬に火が入って轟音と共に天守は砕け散った。
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by kikuryouran | 2007-04-17 15:04 | 心中情死 | Comments(0)

桜幻想

散る桜の花びらの中で、女は樹に背をもたせて立った。私は引き寄せられるように近付いて腰を抱いた。
「これがきっと運命だったの。おねがい・・・。」
見詰め合いながら、彼女は短刀を持つ私の手を自分の腹に導き、身体を摺り寄せてきた。女が私を抱く手に力を込めたのがわかる。私は唇を寄せて身体を押し当てた。刃が肌を裂き肉を貫いていく。美しい顔が苦痛に歪みながら痙攣して吐息がもれた。
「あっ、あああ・・・。」
二人で重ね握る短刀を横に引いた。生温かい血が溢れて足元に伝い落ちる。私と樹にはさまれて女は喘ぎ震えを繰り返した。
私は女を樹に背をもたせて腰を落とさせた。彼女は笑みを浮かべて私を見ていた。見詰め合いながら私は前に座し、腹に短刀を突き立てた。

目を覚ますと女が覗き込んでいた。
「よく眠っていたわね。」
「桜を見ながら寝てしまった。」
大きな桜が空を覆うほどに咲き、白い花びらが風に漂っていた。私はその下でしばらくまどろんだようだ。
「夢を見たよ。君を殺して俺は腹を切った。」
「ここは民話の多いところなの。昔この桜の下で、腹を切った女と武士がいたそうよ。この桜は心中桜とも切腹桜ともいわれてるわ。」
女は前の桜の樹を見ながら言った。
「昔、この下の湯治場で逗留していた武士が女と恋に落ちたの。女はこの地方の豪族の妻だった。」
「それでここで心中したのか。」
「桜の舞う下で二人はお腹を切り、その血を吸ってこの桜がつける花が赤く色付いたそうよ。」
「きっときれいな光景だったろう。」
「あなたと一緒にここで死ぬのも悪くないわね。」
それは夢の中で私を見詰めた女の目だった。広がる山裾の中腹に立つ桜の樹の下で、私は女と並んで横たわり、見上げる枝が花びらを散らし続けるのを見ていた。
「俺達はその生まれ変わりかもしれない。」
私はふと想い付いたことを言葉に出した。
「何百年も経って、また巡り会ったのかもしれないわね。あなたは私のためにお腹を切れる?」
彼女は私を見て言った。
「君こそ・・・。」
見詰め合いながら二人は手を握り合った。
「心中桜か。俺たちには相応しいのかもしれないな。」
見上げると、春の空に花びらが誘うように舞っていた。
その時、一陣の風が通り過ぎて私は目を閉じた。

「私はここでお腹を切ります。」
女が桜の根方に佇んでキッパリと言った。
「わしも腹を切る。」
傍らに立つ侍が抱き締めて言った。
彼らには私は見えなかった。きっとこの桜の下で腹を切った二人なのだ。自分は夢を見ているのだと思いながら、少し離れて私は見ていた。
桜のはなびらが一面に散り敷かれている中に向かい合って座ると、女は大きく前を押し開いて懐剣を抜いた。白い肌からこぼれるほどの色香が漂う。
「幾度生まれ変わろうと、またここで・・・。」
「うむ、必ずな。」
男が頷くのを見て、女はのしかかるように懐剣を腹に突き立てた。悩ましい喘ぎ声を漏らし、腰が艶かしく悶え揺れた。
「ああ・・・、うむううう・・・。」
流れ出す血が膝元に広がってゆく。女が腹を切るのを見届けて、男も見事に腹を切った。武士がにじり寄り女に重なり倒れると、はらはらとはなびらがその上に降り続けた。血は土に吸われ、はなびらが褥のように覆い包んだ。

目を覚ますと誰もいなかった。桜だけは相変わらず花びらを降らせていた。根元に女の姿が幻のように浮かんで、誘うように私を見詰めていた。
「君はこの桜の精霊なのか。」
どこまでが夢かと思いながら、私は彼女の意図を悟った。
「腹を切れというのか。切腹すれば君の側に行ける。それでいいんだね。」
女が微笑みながら頷いた。

桜の根方で座って前を押し開く。短刀の鞘を外して腹を揉んだ。もう理由などどうでもよかった。これが夢かどうかさえもわからなかった。ただ腹を切るのだという想いだけがあった。不安も怖さも感じなかった。自然に身体が動き、不思議な満足感に包まれていた。
「そうだ、すべては夢ではなかった。生まれ変わった魂の記憶だった。」
時空を超えて魂の軌跡を見たに違いないと確信した。腹を切る、それが自分の魂に刷り込まれた運命と思えた。
女を見ながら俺は腹に短刀を突き立てた。精霊が私を抱き包んだ。苦しくはなかった。これも夢かもしれないと思った。心地良い昂ぶりが全身を走った。力を込めて腹を割くと、目くるめく絶頂が訪れ、桜のはなびらが降る中に魂が弾け飛んだ。

遠野の里には数々の不思議な伝説が残されています。この話は心中桜とも切腹桜とも伝えられる桜の樹から連想した幻想のお話です。
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by kikuryouran | 2007-04-08 17:29 | 心中情死 | Comments(1)