愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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武家の妻並み

薩長の兵はあと三日で城下に入る辺りまで来ていた。評定の結果降伏開城と決まって、伊右衛門は処々への挨拶を済ませて下城した。
帰宅途中に山辺仁左衛門の屋敷に立ち寄った。
「評定では無礼な物言いもいたした。一言詫びを言いに寄った。」
「幼い頃からそなたの気性は知っておる。忠義の心は痛いほどわかっておった。」
それだけ言葉を交わして屋敷を出た。
「伊右衛門様はどのようなご用件で。」
「今宵腹を切るのであろう、別れを言いにきたのよ。あやつは篭城交戦の旗頭であった。惜しい男じゃが、死んでもらわねばおさまらぬ。」
仁左衛門は部屋に入ると、降伏恭順申し入れの案文を作り始めた。

江藤伊右衛門はもう五十も近い。惜しい命でもなかったが、切腹を前にしてまだ書き遺さねばならぬ事があるように思えて文机に向かっていた。
「入ってよろしゅうございましょうか。」
部屋の外から声がかかった。喜代の声だった。
「お供をお許し願いたく・・・。」
部屋に入って喜代は言った。伊右衛門はしばらく黙って顔を見ていた。
「わしと共に死んでくれるというのか。」
「旦那様ご切腹の後、お後を追う心算でございましたが・・・。」
「そなたはまだ若い、生きる手立ては考えてある。」
「私とてもはや三十路の半ば、子も無く、女としては想いを遺すほどでもなく。」
伊右衛門は止めたが喜代は譲らなかった。
「お叱りを覚悟で申し上げます、お側で果てとうございます。」

喜代は百姓の出、幼い頃から奉公に出た。亡くなった奥方に武家の作法を仕込まれて、一度嫁いだが破鏡を見た。この家に戻ってきた時、奥方は病の床にいた。娘のように喜代は奥方を世話をし看取った。妻を亡くしたやもめの寂しさ、ほどなくして伊右衛門の手が付いた。周囲も奥方並みと認めながら、身分違いゆえ妻の座を望めず、それまでと変わらずに仕えていた。

夜陰半ばを過ぎた頃、江藤伊右衛門は仏間に入る。喜代は後ろから従っていた。
「そなたは妻並みに弔うように書き置いた。」
「それを励みに立派に果てましょう。次の世には奥様がお待ちでございましょうが、なにとぞお側に。」
「奥はそなたを可愛がっていた。連れて逝けば喜んでくれよう。」

伊右衛門は作法通り見事に腹を切った。左の脇から臍の下際辺りを右脇まで切り、抜き出した刃を首に当てて血脈を裂いた。おびただしい血が噴いて前に崩れた。
喜代は黙って見ていた。苦悶しながら腹を切り割く姿を見ているのは辛かったが、武士として苦痛と闘う姿に感動さえ覚えていた。耳を覆いたくなる呻き声、震える肩。どれほどの時が流れたのか、伊右衛門が血の中に突っ伏して呻き声が消え動かなくなるまで、喜代は身じろぎもしなかった。静けさが部屋を満たした。伊右衛門は不思議にも満足げで苦悶の色は見えなかった。喜代は顔についた血を拭ってやり、しばらく愛おしそうにその顔を見詰めた。

「身分卑しく、最期まで妻にとは望めなかったのが心残りながら、お側で果てられ幸せでございます。」
虚しくなった伊右衛門に呟きながら、喜代は懐剣の鞘を払った。武家奉公の覚悟は教えられている、自害の心得も聞かされていた。膝を縛り、胸に刃先をあててしばらく迷った。
『武家の者と余の者の違いは腹切る覚悟ぞ。』旦那様はそう言っておられた。私も死ぬる時は腹を切りたい、腹を切ればお武家として死ねる。喜代は常々そう思っていた。
「旦那様、女の腹切りは見苦しいとお叱りなさいましょうか。」
膝を縛った紐を解き、喜代はもう迷うことなく胸元を押し開いて下腹までも露わにした。指が胸元谷間から撫で下ろす。肌が女であることを思い出させた。男はこの乳を吸い身体を押し開いて情を注いだ。自分は女としてそれを受け入れた。指が交わした情を思い起こさせた。名が欲しいのではなかった。腹を切ればこの男と同じ世界に行けると思うと死は甘美とも思えた。
「見苦しくとも腹切り、武家の女として死にとうございます。奥方様にはばかりはあれど、もう妻並みは嫌でございます。」
緊張で身体全体が震えていた。脇からゆっくりと腹を割いた。痺れるような痛みが腰全体に広がった。苦しくは無かった。気が昂ぶり、涙がこぼれて止まらなかった。
「これで私もお武家に・・・、次の世では、奥方様には負けとうはございませぬ・・。」
今はもう伊右衛門に添うているような気がした。腹切る痛みが心地良くとも覚えて手を休めなかった。右の脇まで切って刃を抜き出した。
「旦那様、腹切ってお側に今・・・。」
遅れてはならぬ、前に屈んで刃先を胸に貫いた。
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by kikuryouran | 2007-02-07 03:37 | 心中情死 | Comments(0)

切腹心中始末

江戸外れの湯治場で男女の切腹死体が発見された。ところの目明し銀次が子分と共に駆けつけた。
「心中でござんすね。身元のわかるものは始末したのか見あたらねぇ。」
「二人とも腹切ってとなれば武家者だろう。どこの家中かわかれば俺達には手は出せめぇが、よほどに身元を知られたくなかったんだろうよ。」
「それじゃぁ、このまま・・・。」
「ほうっておくわけにもいくめぇ。浪人なら俺たちの持ち分だ。」
男はまだ二十歳そこそこか。前髪を落としていても、まだ若いと見える。女はもう年増と見えて三十路にもかかろうか。死に装束の心算か色物は身に着けず、男は単衣肌着に下は越中、女は長肌着に腰布を巻いている。血が散り飛んで赤く染まり、死に衣装も華やかに見えた。
前肌はだけて両の乳房までも露わながら、女は膝を縛って、裾乱れずに前に伏せっていた。仰向けに寝かせて傷を検める。
「血の乾き具合からやったのは夜明けの前頃だろうな、いい女がもったいねぇ。しかし見事に切ったもんだ。脇から臍の下一寸ばかり、右に割いて七寸、切り上げて二寸。深さは一寸を超えているようだが、さすがにはらわたまでは届いちゃいねえな。胸を突こうとして急所を外し、抉って心の臓に届いたようだ。並みの覚悟じゃこれほど切るのは難しかろう。」
横たわる女の膝元縛った紐を切り放つ。遠慮もなく前を開くと、濃い繁みが血を含んでいる。脚を開かせて女陰の中に構わず指を入れた。
「まだ生温かいぜ。男の臭いも残ってらぁ。子を産んだ身体じゃねぇな。尻の穴からは血が漏れてねぇ。やっぱりはらわたまでは刃は届かなかったようだな。しょんべんも糞もそう漏らしちゃぁいねぇようだが・・・。俺も女は嫌いじゃねぇが、こいつを見るとしばらく抱く気が起きねぇ。因果だがしようがねぇ。」
銀次はぼやきながら傍らの手桶で手を洗った。
「男の傷は深いぜ。腰の上辺りに二寸も入って、斜め上向き、臍まで切って抉って下向き、一気に縦に切ったんだろう。傷がふんどしにかかるほどだ。鍵に裂いた傷口が開いて、はらわたまでも見えてるぜ。これだけ切るのは並大抵の痛みじゃぁねぇ。こりゃぁ苦しみなすったろう。若いながら立派にやんなすった。お侍でも、なかなかこうはいかねぇもんだ。見ねぇ、ここにためらい傷がある。これほどできたお人でも、ひと突きでとはいかなかったんだろう。三突き目あたりで弾みをつけて突き込んだ。勢い余って深腹になったんだろうが。」
男の裾を撥ねると、股間を包んだ白布も赤く染まっている。
「ふんどしからはみ出すほどに見事なマラをお持ちだぜ。この道具に女が惚れたが身の破滅ってぇわけだろうが。どういうわけか、男はおっ立てたまま死んでることが多いようだ。死ぬ前に思う存分想いは遂げてるんだろうがな。これだけ切るとふんどしの下も血まみれで見る気もしねえぜ。」
ぼやきながら男のふんどしを外す。
「おや、こいつは・・・。」
怪訝そうな顔で男の股間を見ていたが、尻の辺りを指で探った。
「この男は後ろの道具も使ったようだ。男相手の陰間のように、尻の手入れをしているようだぜ。」
血と汚物の異臭に顔をしかめながら、銀次はしばらく考え込んでいた。
「絵師を呼びな、半端なのはいけねぇ、駄賃を払うからきっちり似顔を書ける奴だ。」
心中者二人を並べて絵師に似顔を書かせた。体つきを写させて、体の黒子や古傷を確かめて書き留めた。
「親分、これだけじゃぁ身元はわからねぇでしょうね。」
「この二人はれっきとしたお武家だろうよ。生半(なまなか)であれほど見事に腹は切れねぇ、よほどの心得と覚悟だぜ。女は年増といってもあれだけの器量、いい女だったろうよ。肌の手入れも並みじゃぁねぇし手も荒れてねぇ。大身の奥勤めの女だろうよ。男もありゃぁ、女にしてもいいほどの男だ。女道具の中にゃぁたっぷりと男の匂いが残っているから、惚れあっての心中だ。そのお侍が尻の手入れとなりゃぁ、前髪は落としていても殿様お手付きじゃねぇかと思うんだが。」
目明し銀次は歩きながら話し続けた。
「女は直参旗本かお大名の奥向きの女。男は殿様のお側で仕えていた若侍。それもお大身だろうよ。下手をすると、女は奥方様かご側室なんてぇこともあるかもしれねぇ。ここは江戸から外れた辺り、手に手をとってここまで落ちて、身元のわかる物を始末してということだろう。相対死にはご法度だが、どこの者かつきとめても俺達町方は手が出せめぇ。つきとめられた方も迷惑だろう。あれだけ立派にやんなすったが、表向きは行き倒れとでも始末してやるのが情けだろうよ。しかしうまくいけば瓢箪から駒、お大名となれば突き止めるのは難しいだろうが、おもしれぇことになるかもしれねぇな。」

数日が過ぎて、銀次は船宿で大身旗本の用人と会っていた。
「お屋敷じゃぁまずいと思いまして、こんな場所にご足労願いましたんで。身元の知れねぇ行き倒れと表向きにはしておりやすが、先日相対死にがござんして、もしやご存知寄りのお人かと思いやしてね。」
懐から似顔絵を出して前に拡げ、用人の顔を覗った。
「いえね、ご存知ないなら結構で。相対死には天下のご法度、表に出ればお困りの方もいるかと思いましたんで。」
すでに調べはついていた。ここと思う屋敷を似顔絵を持って当たらせると、二日も経つとすぐに身元が知れた。男は大身旗本の小姓上がり、女はその奥を任されていた女。不始末ゆえに前後して暇を出されたという小者の話だった。
用人は、苦い顔をして大枚の金を置いた。
「わしには心当たりのない顔立ち、当家には関わりのない事。しかし行き倒れとは気の毒な話、供養になりと使うてくれぬか。その似顔絵は当方に貰い受ける。」
「それはご奇特なお志で。ですが、この似顔絵はいささか元手がかかっていますんで。」
用人は渋々懐から金を足した。
「では、この似顔絵はお渡しいたしやす。ですが、その行き倒れが持っていた物はこちらで預かっておりやす。このまま何事もなく済めば手前で処分いたしやすが、もしも万一あっしの身に何かありましたら、どこかのお方がお腹一つ召しても追っつかねぇ事になりましょう。」
銀次の目が鋭く光って、前に置かれた金を懐にしまった。

「あの若侍は殿様の小姓上がり。お殿様は衆道の好みがあって手がついた。よほどにいい尻だったんだろうよ、小姓元服の後もお殿様はお側に置いた。若侍は元服しても尻の手入れはおこたれねぇ。その侍が奥の女に手を出した。もしかすると、女が惚れたのかもしれねぇな。こんな話は隠せるもんじゃねぇ。殿様の耳に入って、お手討ちになる直前に姿をくらました。内密に追っ手をかけたが表に出れば家の傷、下手に手はだせねぇ。あの二人にしても落ちてはみたが、縁者に類が及ぶのを怖れて、身元を隠して二人で詫び腹ってぇ心算だったんだろうが。おかげでしばらくは楽が出来るぜ。」
銀次は懐の重さを確かめながら、ほくそ笑んで家路についた。
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by kikuryouran | 2007-02-02 10:27 | 心中情死 | Comments(0)