愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
プロフィールを見る

<   2006年 11月 ( 3 )   > この月の画像一覧

衆道禁断 前編


申し渡し

「其の方ども、衆道禁断のお触れを承知ながらの公言許しがたし。重き罪過にてお仕置き仰せ付けられるところ、お慈悲をもって切腹賜る。有難くお受け致されよ。」
「有難くお受け仕る。お触れは承知ながら情抑え難く、秘しての振る舞いは潔しとせず。お仕置き覚悟の契りでござれば、切腹賜るは有難き限り。衆道想いに殉じて果てるは本懐でござる。」
既に装束調えて、並んで受ける切腹の沙汰。月宮兵庫は悪びれた風もなく答えた。後ろに控えるのは佐倉京弥、殿お小姓組にて美童の誉れも高かった。
「京弥殿、そなたもよろしいな。」
「兵庫様言上の通り、我等は同心。若輩ながらこの度の仕儀、私も同罪は覚悟のうえ。切腹有難くお受け申します。このお方のお情けに殉じて、腹切り果てるは喜びにございます。」
「兵庫、そなたはこの太平の世に良い死に場所を得た。京弥の心栄えも見事なものじゃ。羨ましいとさえ思える。」
検視申し渡しの武士は感に堪えぬように二人を見た。

此の頃当藩では、武家衆道男色の禁令が出されたが長年の風潮はなかなか納まらなかった。
「京弥殿、拙者は無骨ゆえ麗句は知らぬ。ただ一途、そなたを懸想致しておる。想いを遂げれば死すとも悔いぬ。」
「兵庫様、衆道禁止は当家のお定め。そのように申されても・・・。」
兵庫は無骨者として自他共に許すが、信義に厚く藩内での信望も厚かった。その兵庫から命も捨てての懸想と聞いては、京弥も心動かぬはずはなかった。
「命を賭けてのお覚悟と聞いて、命惜しさにお断りも出来ませぬ。」
京弥はただ一度肌を許した。

藩目付に密告があり、兵庫は取り調べを受ける事になった。
「そなたにはすまぬが、命惜しさに口を閉ざすなどわしには出来ぬ。潔くお答え申す。」
「若輩ながら私も武士、契った上は悔いは致しませぬ。お咎めを蒙るなら潔く共に。どこまでもお供致しましょう。」
京弥は十六、若いながらも文武に才を認められて想いを寄せる男女も多かった。兵庫は目付の調べにありのままを述べ、京弥も契りを隠すことなく裁きを乞うた。

悔いぬ覚悟

二人は裁きの沙汰を待つ間、兵庫縁類の屋敷に預けられた。その家の主は旧知の仲、屋敷の中の離れ座敷に二人を押し込めた。
「そなたらは共に切腹を願うたとか、数日でお沙汰はあろう。人は遠ざけてあるゆえ心置きなくお過ごしなされよ。」
その家の主は情を知る者であった。思いもかけず、二人は共に過ごすこととなった。常住に不足はなく、二人だけの時は幸せだった。互いの想いを語り合い、確かめあった。

数日が経ち、夜に入ってその家の主人が訪れた。
「お裁きが決まったそうな。明日お使者が来られて、即日この家で切腹賜る。家中立会いを望む者は、臨席許されるそうな。」
「それはまた有難いご配慮、心がけて致しましょう。」
「お望みあればお聞きいたしておく。」
「お世話になり申した。我等両名もはや覚悟も確かめ望みとてはござらぬ。明日は並んで腹切り果て、想いを遂げるのみ。お情けあるお取扱い、死すとも忘れませぬ。有難うござった。」
「今宵は人を寄らせませぬ。二人だけで今生の別れを惜しまれるがよい。」
彼が去ると二人だけになった。秋の頃とて虫の声が静けさを際立てた。障子を開けると月が出ていた。

「京弥殿、わしは覚悟の上での懸想、想いを遂げて悔いはない。どのようなお沙汰あるとも、腹切って死ぬる所存であった。そなたまでもお咎めを受けたが悔やまれる。」
縁側に立ち、兵庫は月を見上げたまま呟く様に言った。
「命を懸けて望まれるなど、男としてこれほどの幸せはございませぬ。私とて悔いるものではありませぬ。」
京弥はきっぱりと言い、二人は無言になった。

京弥は、兵庫の背中を見ながら自分の気持ちを確かめていた。想いを打ち明けられて、その人となりに接する内に心許した。衆道の何かは知らぬ、ただこの人に身を預けて死ぬるなら本望と思えた。命懸けるほどの我が身への想いに、覚悟定めてもう迷う事はなかった。武士は死に際散り様が大事と教えられ、生ぬるき太平の世に、このような仕儀ながら切腹賜り死に場所を得た。これも運命寿命であろう、此の人と腹切り果てるなら悔いはないと覚悟も固まった。

もう秋も深かった。月明かりの庭を見ながら兵庫は思いを巡らしていた。我が身は覚悟の上の懸想、京弥はまだ春秋も知らぬ身で、健気にもこのわしと共に腹切り悔いぬと言うてくれる。若いながら、才も並のものではないと承知していた。彼には想いを寄せる者も多いと聞く。その京弥を道連れに腹を切れるとは、これほど幸せな死に場があろうかと思った。兵庫には死が甘美と思えた。月を見上げながら彼は腹切る京弥の姿を思った。
「そなた、腹を切るのは怖ろしゅうないか。」
彼は言いながら振り返った。
「兵庫様と共にであれば・・・。」
京弥が見上げて応える。
「この場で切ってみよ。」
しばらく顔を見合し、京弥は頷くと前を寛げた。夜目にも白い胸元から下腹までも寛げて、傍らの扇子を執り下腹に突き立てる。
「このように・・・。必ずし遂げますゆえ、若輩者とのご懸念は無用。」
扇子の要は柔らかい肌に食い込み、顔は見上げて苦痛をこらえ歪む。力任せに下腹を這わせると扇の骨は折れて砕けた。白く柔らかい膚に赤くも筋を残していた。
「必ず後れはとりませぬ。ご心配ならばこの場でお手にかけられよ。」
京弥は目に涙を浮かべていた
「いや、心配したのではない、そなたの切腹姿を思うてみたゆえ。わしも負けずにせねばなるまいな。」
彼は京弥を見詰めて笑いながら腹を撫でた。

「水を使おう。そなたも脱げ。」
月明かりの下、井戸端に出て二人は水をかぶった。
「きれいな月でございますな。満ちております。」
京弥は兵庫に背を抱かれながら見上げて言った。
「満願成就の月であろう。明日はそなたと共に腹を切る。」
「私に切れましょうか。」
「不安か?そなたなら見事に切れよう。」
胸を抱く手に力を込められ、後ろから伸びた手がふぐり袋を優しく握った。兵庫のものは既に屹立して腹と背に挟まれていた。両手を後ろにまわして腰を抱き寄せ京弥も想いをあらわす。押し付けられた男根の形が背に感じられて首を回して唇をせがんだ。抱かれた身体が震え硬直して、指の中で精を吐いた。
「兵庫様・・・。」
指はゆっくりしごいて吐き出させてやる。痙攣しながら背を押し付けて、京弥は後ろ手に抱く腰に力を込めた。背肉にはさまれて、兵庫も震えて果てるのがわかった。
「京弥・・・。」
向かい合い抱きあうて口を吸う。残り雫を垂らしながら男がからみあい、合わされた胸が逞しかった。月が恥ずかしそうに雲間に隠れた。


衆道者切腹

庭は十間四方ほどの広さ、武家の庭にて飾り拵えなく、日々鍛錬にも用いられている。その中央に晴れやかな切腹座が拵えられていた。一段高い座敷に検視役と共にこの家の主が座り、周囲には立会いを望んだ者達が並んでいた。
「家中立会いを望む者多く、見届けを許し申した。さよう心得、見事に致されるよう。」
控える二人の衣服は白の死に装束裃袴、京弥はまだ前髪の小姓髷、兵庫は無骨者の面構えながら三十路前の男盛り。晴れ晴れしい婚礼とさえ思えた。
「申し遺す事あれば聞き置きとらす。」
「衆道男色のお咎め蒙り、我等両名これより切腹仕る。」
「其の方ども、介錯は断ったそうな。衆道覚悟がどれほどのものか、見届け申す。」
「ご検分の方々に申し上げる。我等想い秘するを潔しとは心得ず。これにて想いを遂げまする。衆道お心のある方は手本に致されよ。」
周囲を見渡し、家中立会いの者たちに礼をして別れを告げた。京弥も周囲に顔を上げ言葉を継いだ。
「武家に衆道は古来よりの慣わし、兵庫様をお慕い申して、契りに殉じ死ぬるは男子(おのこ)として過ぎた幸せ。若輩ながら腹割きお供仕る。」
声音涼しく凛として述べれば、その若衆ぶりの華やかさを知る者皆、美しさに息をのんだ。

互いの脇差を取り違えて拵えた切腹刀が各々の置かれた。
「京弥、そなたの腰にありしそなたの魂、腹切り裂いてわしの想いを遂げさせよ。」
「兵庫様、あなた様の御(おん)魂にてわたくしも・・・」
向かい合い、兵庫が裃はねて諸肌脱ぎ、腰下までも脱ぎ落とすと、逞しくも引き締まった半身が露わになる。京弥も倣い肌をあらわす。鍛えられたと思える身体は逞しくも、日に照る雪の肌柔らかに、まだ幼さの名残りを感じさせた。
各々前の切腹刀を逆手に取る。腹撫で揉みながらしばらく見詰め合い、今生の名残りを惜しんでいるように見えた。秋の日はうららかに、しわぶき一つない緊張と静寂が覆う。
人々は二人の姿に見入っていた。それは晴れやかな儀式とも思えて、悲壮と感じる者はなかった。
「さあ、京弥参るぞ。」
兵庫が押し出した腹に突き立てた。一瞬苦悶の色を浮かべながらも、気遣うように京弥から目を離さなかった。
「うむうううう・・・・。京弥・・・。」
京弥も倣って突き立てる。
「兵庫さま・・・。」
前髪が揺れ、腰の悶えも艶かしく、滴る血が膝間を濡らす。しばらくそのまま見詰め合った。やがて互いに頷いたかと見えると、一気に切り裂いて、溢れる血汐が膝元を染めていく。苦しげな声が重なり、臍下を一文字見事に割いてにじり寄る二人。かねて通じていたかとみえて、膝交え胸合わせて血塗れた刃先を互いの胸にあてる。刃突き出すよりも胸押し付けて互いの刃を受けると見えて、脇下より互いに腕を回し、首を交わして抱き合えば、互いの胸を切り裂きながら背までも貫く。抱き合うて一つになり、支え合うてしばらく肉震え、やがて動かなくなった。

腰に覆うた装束は赤くも華やかに染まって、二人は抱き合い倒れぬままに動かなかった。
検視役が座敷から降り近付いて確かめる。
「幸せそうに果てておる。誰ぞこの姿を写させよ。」
検視の武士は懇(ねんご)ろに合掌し、そう言い置いてその場を離れた。こと切れたまま、二人が抱き合い倒れぬままの姿を見ながら、立ち会うた人々はしばらく動けなかった。


陰腹(かげはら)

「京弥の切腹は見事であったそうな。」
庭を歩きながら、藩主幸孝が思い出したように呟いた。京弥切腹から、もう数日が経っていた。
「介錯受けず刺し違え、倒れぬままに逝かれたとか。衆道者らしき最期であったと聞いております。」
側に付き添う小姓が答える。京弥とは同じ小姓組として親しい者であった。
「検視役は誰であったか。」
幸孝はそれだけ言うと部屋に入った。
数日後、庭散策の幸孝の前に武士が控えていた。
「先日お尋ねであった、京弥切腹を検視した者でございます。」
側から小姓が声をかけた。
「お庭歩きの最中ゆえ、親しくお言葉をかけられるがよい。京弥殿最期の様子をお話しなされよ。」
顔を上げた武士の顔は、なぜか血の色が薄いように見えた。
「京弥殿御最期はお見事にて、姿絵に残しております。」
後ろに控えた若侍が、一枚の絵を小姓に手渡し幸孝に見せた。二人が肌露わに、抱き合い刺し違えて果てている姿であった。下絵は立ち会うた武士が描き、絵師の手で彩色施されていた。
「先日、お定めに背いて月宮兵庫、佐倉京弥衆道の情を交わし、両名共に切腹致させました。拙者、役儀により検視仕りました。」
報告する武士の顔から血の気が引いていく。側に控える若侍が言葉を継いだ。
「申し上げます。この者、陰腹致しましてございます。その絵に添えた書状は此の者が書きましたもの。命を捨てて殿へのお願いでございます。」
黙って幸孝は目を通した。
「衆道禁止を改めよと申すのか。」
武士が苦しげに身体を起こして前を開く。腹に巻いた白布がすでに赤く染まっていた。
「拙者、秘かに衆道をたしなんでおりましたが、ご両人の潔い最期に立会い、己を恥じましてございます。衆道は武家には古来よりの慣わしにて、衆道契り禁断のお定め、なにとぞご改変下さいます様お願い申し上げます。」
幸孝を見上げながら、彼の顔は苦しげに歪んでいた。後ろに控えていた若侍が、前押し開いて脇差を抜く。
「拙者からもお願い申します。御免!」
腹に突き立て一気に切り割けば、血が噴き出し膝間は赤く染まっていった。
「念者で・・・ござれば・・・。」
幸孝は、苦しむ二人をしばらく見下ろしていた。
「介錯してつかわせ。」
それだけ言うと、彼はその場を離れた。


衆道の覚悟

その前夜、森田嘉平は山﨑市太郎をよんだ。
「明日、内密に殿にお庭でお目通りし、かの二人の切腹の様子を言上することになった。」
「あの姿絵をお見せなさいますのか。」
「うむ、あの絵をご覧に入れれば、衆道の真髄をお汲みいただけよう。」
嘉平は前に広げた絵に見入っていた。
「あの者らは幸せそうに目を瞑っておった。お咎めを怖れて、隠れてそなたと交わる自分をわしは恥じた。わしは殿に衆道禁止をお解きいただく様にお願いしようと思う。」
彼は文机に置いた手紙を目で示しながら言った。
「わしが衆道者とわかれば、そなたに疑いがかかろう。すでに妻は里に帰らせた。あの者はわしの性癖を感じていたゆえ、抗うことなく去んだ。わしは陰腹して殿にお目にかかろうと思う。」
「陰腹を・・・。」
二人はしばらく無言で見詰めあった。
「殿への直訴は重い法度、これまで欺いた詫びもある。衆道者にはよい死に花であろう。しかし、そなたにお咎めが及ぶと思うと心苦しい。そなたの同意がなくば取りやめねばなるまい。」
「それを確かめるためにお呼びなされたのか。」
市太郎は黙って腰の脇差抜き出し、前をはだける。落ち着いた様子で下腹までも露わにした。嘉平は黙ってそれを見ている。腹切る手順を落ち着いた様子で進め、刃先をまさに突き立てんとして市太郎は顔を上げた。目から涙がこぼれていた。
「悔やしゅうございます。あなた様がそれほどの覚悟を固めて、私への迷惑などと。共に腹切り死ねと言われるならまだしも・・・。私の気持ちをそのように・・・。この場でお確かめなさるがよい。」
「もうよい、わかった。許してくれ。明日、そなたに介添えを頼みたい。」
「介添えでございますか。」
「腹切るだけなら助けは頼まぬが、陰腹となれば一人では心許無い。付き添うてもらえぬか。」
しばらく無言で見詰め合った。
「いかにも承知いたしました。お供仕ります。」
市太郎は脇差を鞘に納めた。

翌日,お目通りは昼前の時刻、登城前に陰腹を切った。陰腹は、深く切ってはお目通りまでも体力が保たない。傷口が狭くても浅すぎても傷改めで恥となる。割腹して止血をし、下着衣服を着けねばならない。市太郎に付き添われて、嘉平は下帯だけの姿で腹を切った。刃先を計って八寸ほども切り裂くと、白い下帯が見る間に赤く染まっていった。
「苦しゅう御座いましょう。お気を確かに。」
「浅く切ったゆえ腹内には届いておらぬ。」
嘉平は気丈に答えた。市太郎が止血をし、晒布で腹を幾重にも固く巻き込む。血の臭いをさせてはならぬ。立たせて、血を吸ったふんどしを外し用意の水で血を拭う。苦痛をこらえる嘉平の顔から血の気が引いてゆくのがわかった。股間を洗われ、市太郎の眼前に血濡れた陰茎が膨張して固くも屹立していた。
「お放ちなさるか。」
「このような時に・・・。」
嘉平が恥ずかしそうに笑った。

衣服を着けて青ざめた顔に紅を差してやる。登城姿になると、さすがに気が引き締まり、外見からは普段の様子に見えた。
「お気を確かに。」
「最後に放ったゆえ保たぬかもしれぬ。」
顔を見合わせて二人は目で笑い合った。


振袖小姓

その夜、幸孝は床に入って眠れなかった。
「あの絵を・・・。」
「お眠りになれませぬか。」
隣室で仮眠をとっていた小姓が現れ、京弥最期の姿を前に広げる。幸孝は起き上がってしばらく見ていた。
「あの者らは・・・。」
「両人とも私が手で介錯し、仰せの通り、目付には殿様お手討ちなされたとだけ申しておきました。」
幸孝は前の絵から目を離さなかった。

小姓は介錯した二人を思い出していた。
「お情けにて介錯許されました。お覚悟を。」
脇差を抜き、苦悶の呻きを漏らす市太郎の前に刃を見せた。
「かたじけない・・・。なれど・・、嘉平殿を先に・・。すでにお苦しみ長うござる。」
彼は腹に刃を突き立てたまま、前の嘉平を案じるように見た。すでに緊張の糸が切れたか、嘉平は前に屈んで苦しそうに肩を震わせている。片手で振り上げた脇差を嘉平の首筋に討ち込むと、首が前に折れて血を噴いた。
「ありがとうござった。拙者もお手を借り申す。」
市太郎は前に首を差し出し、小姓の振袖が翻って庭の芝生に赤い血が飛び散った。

京弥最期の絵を幸孝は魅入られたように見詰めていた。腰に纏うた衣服は血を吸うて赤く染まり、若者の肌は白く柔らかで清い。抱き合い刺し違えて恍惚と果てる姿からは、壮絶悲壮ながら、淫ら絵の妖艶さが放たれていた。彼とて衆道男色を知らぬことはない。
「命を賭けても悔いぬほどのものか。」
幸孝は顔を上げて呟いた。夜陰の事ゆえ宿番小姓は振袖をそのままに袴を脱いでいた。
「そなたもこのように死ねるか。」
「・・・。」
主の淫情を感じながら、彼は腹切ってみせよと命じられているように思えた。京弥の笑う声が聞こえた気がした。意図を測るようにしばらく主を見詰めて、若者は腰紐を緩め振袖の前を寛げた。肌着までも押し開けば、柔らかい内肌が覗く。胸元から下腹までも露わにして、腰の脇差を前に置く。
「私とてあのように果てられればと・・・。」
幸孝はその時、この若者にこのまま腹切らせたい誘惑に襲われていた。臍下を割いて苦しむ姿を想像して、残酷猟奇の昂ぶりを抑えられなかった。
「わしが望めば切るか、その腹を。」
「お望みならば・・・。」
胸元を探り、押し出した下腹を揉みながら主の顔を見る。若者の目もまた淫靡な光を放ち始めていた。揉みしだかれる腹の下で、男根が突き上げているのがわかる。息苦しいほどの緊張が二人を包んでいた。
脇差の鞘を払い袖に巻き込む。幸孝は黙って光る刃先を見ていた。夜着の裾を押し上げて彼の男根もすでに帆を張っている。
「もうよい、来(こ)よ。」
刃を投げ出して小姓がにじり寄り身を投げた。
[PR]
by kikuryouran | 2006-11-05 16:16 | 男色衆道 | Comments(0)

衆道禁断 後編

首にての約定

数ヶ月が経った頃、江戸幕府大目付の使者が藩に入った。
「幸孝殿、家事取締り不行き届きにより切腹致されますように。さすればお情けにて家名の存続を許されます。」
大目付からの使者が口上を述べた。
「当藩の不祥事は既にお上に届いております。これは内々のお沙汰、言い訳あれば評定所にて申し開きなさるがよい。なれど、罪状明らかとなればお家断絶改易は免れぬところ。明日にもご返答下さる様に。」

「殿、聴き質しましたところ、藩内に通じる者がいるとしか・・・。」
「隠密がいるというのか。」
「事を構えてもすでになす術なく、おいたわしきながら、お覚悟の程願わしゅう。」
幸孝はしばらく考え、やがて顔を上げて言った。
「今宵の内に腹するとお伝え申せ。明日は首にてお目にかかるとな。」
「承知いたしました。」
重臣の武士が下っていった。
「あの絵を見たい。わしも腹を切ることになったわ。」
かの小姓が、京弥最期の絵を前に広げた。
「わしもこれほどに死ねようか。」
「殿・・・。」
「そなたも死ぬるか。」
二人は見詰めあい頷きあった。

夜に入って藩主幸孝は白裃で広間に現れた。重臣達を始め主だった家臣が居並び、奥方も別れを惜しむ。
「すでにそなたらも知る通り、わしは衆道男色を禁じたが、京弥を初めとして幾人もの衆道者が想いをあらわし死を選んだ。」
あの後、幾組もの衆道者が名乗り出て切腹を願い、想いを遂げていた。
「家中の騒ぎがお上の耳に達して、内々のお沙汰を受けた。この腹一つで家が存続するならば想いは遺さぬ。この者も連れて参る。」
側に控える小姓を目で示した。彼はきらびやかな振袖袴に身を包んでいた。
「この振袖は拝領のもの。不束ながら殿様のお供を致します。」
前髪立ちの小姓髷初々しく、美童といってはばからぬ。死出の旅には不似合いとも見えるが、そのあでやかさは誇らしげとも見えて、女も及ばぬ華やかさであった。


藩主切腹

藩主自害とはいえ内々の沙汰、従うのは小姓が一人。見送られて人を遠ざけた離れ屋に入った。既に用意は調えられて、座敷には白布が敷き詰められ、中央には三方に載せられた切腹刀が置かれている。幸孝は落ち着いた様子でその前に座した。
「最期はそなただけになったな。」
「お供が叶い嬉しゅうございます。」
「なにやら京弥が招いているような。あの絵を見てから、わしも腹切る予感がしていた。」
「あの夜から、私もそのように・・・。」
あの時、彼は主人の腹切る予感を感じて、あのように切腹の覚悟を伝えたのかもしれない。
「衆道者の妖気にあてられたか。」
幸孝は苦笑しながら言った。
「京弥が祟りかもしれぬな。」
彼は懐から絵を取り出し拡げた。
「お持ちになりましたか。」
その絵は拙いとも見えて、見ていると吸い込まれそうな気がした。
「美くしゅうございますな。」
「うむ。いかにも見事な。」
絵の巧拙か、描かれている衆道者の最期を言ったものか、二人はしばらく絵を見詰めて頷きあった。
「あれから、腹切り死ぬるを夢見るようになりました。」
「わしもな。やはり誘われているのであろう。」
あの夜以来何度も切腹する夢を見た。落城と思われる時もあれば正式な切腹場のときもある。裸で腹切る夢さえもあった。不思議にも苦痛はなかった。夢の中の切腹は甘美にも快感だった。目覚めると男の印が固く、いつも精を放っていた。
「夢のようにはいくまいが・・・。」
呟きながら幸孝は腹を撫ぜた。
「御介錯仕ります。」
「ほどよいあたりでよい。」
「承知いたしました。」
作法通りの手捌きで前を寛げる。切腹刀を執り腹を揉む。後ろに立つ小姓が太刀を鞘走らせ、息詰まるほどの緊張が部屋に漲った。
京弥が前に座っていた。ゆっくりと前を寛げ、美しく引き締まった腰を捻って切腹刀を突き入れる。突き立てた刃を握って妖艶な笑みを浮かべた。
「殿、おいでなされよ。苦しゅうはございませぬ。」
「見えるか。京弥じゃ。」
「はい、確かに・・・。」
「お迎えに参りました。さあ・・・。」
幸孝が誘われるように腹に刃を突き立てる。
「うむっ、うむううう。」
前に屈んで震えながら引き回す。白布にゆっくりと血が広がっていった。苦痛に揺れる肩先を見ながら、太刀を振り上げる。呻き声を聞きながら間合いを計った。声が喘ぎに変わって首筋が前に伸びた瞬間、一気に太刀を振り下ろした。中ほどまで腹を切り裂いた刃を握ったまま、幸孝は前に崩れた。血が前の絵に飛んで赤い染みをつくった。


 友

山内小十郎、歳は京弥と同年、昵懇の仲だった。
「京弥、お調べを受けると聞いたが噂は真実(まこと)か。」
「あの兵庫様に命を懸けてと望まれて、お断りもできなかった。」
「兵庫様は切腹を願うたそうな。」
「俺も切腹を請う心算だ。面白い世でもない、腹を切って死ぬのもよかろう。あのお方と共にであれば死ねる。」
京弥は腹を撫でながら言った。

「もう、そろそろか。」
文机に向かって書き物を認めていた幸孝が顔を上げた。
「はい、そのような時刻かと。」
京弥が切腹している頃かと訊かれたのはすぐにわかった。
「側に使う者ゆえの気遣いはいらぬ。当人どもが切腹を望むならそのようにと答えたが。」
「京弥ならば見事に致しましょう。」
しばらく考え込んで、幸孝はまた筆をとった。

「小十郎、腹の切り方を知っているか。殿のお側に仕えて、事あるときの覚悟がなくてはならぬ。」
彼は前を寛げて腹をあらわした。
「京弥、そのような座り方ではなるまい。お前には腹など切れぬ。」
「切れぬかどうか、見ているがいい。」
小十郎は、脇差を抜こうとする京弥をあわてて止めた。もう一年も前の事だった。

「泳ぐか。」
帯を解いて、ふんどしだけで京弥は川に飛び込んだ。
「向こう岸まで泳ごうぞ。来ぬか。」
夏の盛り、小十郎も追うように飛び込んだ。泳ぎ疲れ、下帯を枝に干して岩に寝そべった。
「お前、大人みたいだ。」
股間を見て京弥が笑った。俺は自分のものを手で隠しながら彼のものを見た。二人とももう股間は黒々とした草叢に覆われて男の印が顔を覗かせていた。

小十郎は、彼との思い出にしばらく耽った。お前はいつも美しく、俺の畏友であり憧れだった。いつの頃からか、戦国の世であれば、俺はお前と契ったであろうと思っていた。俺は己を慰める時、お前を思った。
「京弥、俺はお前と共に腹を切りたかった。」
「迎えに来たではないか。」
彼は笑っていた。


 小姓の腹

山内小十郎、歳は十六、間もなく小姓を辞し元服の予定であった。性は温厚学に才を感じさせた。佐倉京弥とは同年、朋輩として殿に仕えた。武に才をあらわした京弥に比べて、目立たぬがその器量は周囲も認め、殿もまた行き届いた気配りを愛でた。やがては共に、殿のお側でその才気を開かせようと思われた逸材であった。
佐倉京弥が衆道禁断の触れに背いて切腹した後、数組の衆道者が名乗り出て切腹を請うた。衆道者切腹は藩の裁量ながら、幕閣中枢に幸孝を快く思わぬ者が居たことから、大目付はこの騒動を機にその抹殺を企てた。幸孝はその裏の意図を感じて覚悟を固めた。

家中の者が様子を窺いに来た時には、既に幸孝の首は肩先に置かれて白布かけられ整えられていた。そのまま大目付の使者を招き入れて確かめさせた。
「さすがに幸孝殿、感服仕りました。これにてお家は安泰でございましょう。しかし、御介錯も見事と拝見仕った。」
「介錯は側小姓の者。介錯とはいえ、主に刃を加えた上はと自害いたしました。」
案内の侍が隣室の襖を開けると、きらびやかな振袖姿の小姓が部屋の隅に座したまま、身体を折って臥せっていた。
「血の流れるを嫌いましたか、得物は細身のものを使い、浅くも臍の辺りを脇から脇、一文字に切り割いて衣服整え、胸元急所を貫いておりました。」
「いかにも見事な・・・。」
衣服に乱れなく、胸元に突き立てた短刀を握り締めて、美しいままに眠るごとくの姿であった。

幸孝の死に姿を整えて、小十郎は隣室に入った。同室にては、大目付ご検死にはばかりがあってはならぬとの配慮であった。部屋の隅に座し、用意のものを前に置いた。鎧通しとも呼ばれるもので、身幅細く重ね厚い。長さは尺ほどで腹を切るのには扱い易い短刀であった。
「京弥、見ていよ。俺もすぐ・・・。」
袖を抜いて肌着を押し開く。胸元から下腹までも露わにして短刀を取った。脇から臍の辺り、浅くも広く切り裂くと、流れる血を下着が吸った。苦痛といえるほどもなかったが、さすがに息が荒くなり手が震えた。振袖に手を通して衣服を整える。胸元を軽く開いて急所を探り、下着を通してゆっくりと貫いた。出血は肌着がほとんどを吸った。胸骨をすぎて心の臓に刺し入ると痙攣と苦痛が全身を走る。そのまま一気に前に伏した。ぐぐぐぐっと刃先は背に届くほどに沈んだ。痙攣を繰り返しながら、彼は京弥の夢を見ていた。明るい日の下で、二人は笑いながら駆けていた。


 高校生心中

「俺、土蔵で見つけたこの絵を見てからおかしいんだ。お腹を切る夢ばかり見る。」
親友のリョウが、心配そうに横から覗き込んだ。
「武士が刺し違えている絵だな。なんだか引き込まれるような気がする。」
「俺の家系は切腹した奴が多い。大きな事件や戦争がある度に誰かが腹を切る。若者や女さえもがいたという。」
「お前も腹を切るというのか。」
「この絵を見てからそんな気がしてしかたがない。」
「お前が腹を切るなら、俺も付き合ってやるよ。気のせいさ。」
リョウは笑いながら顔を上げた。

ひと月ほど経った頃、彼は真剣な顔で言った。
「俺もあれから夢を見る。」

「やはり、こうなる運命だったんだな。」
「俺がお前にこの絵を見せたばかりに・・・。」
「いや、怖くはないし不思議にいい気分なんだ。こんな風に死ねるのは、きっと幸せなんだと思う。」
「俺も一緒に逝くよ。」
「そうだな、きっとお前も腹を切らねばならなくなる。」
俺達は山に入った。一時間ほど登ると周囲を見渡せる高台に出る。誰も来ない俺達だけの秘密の場所だ。突き出した岩場は後ろを囲まれて、八畳ほどの広さがあった。生まれ育った町が広がっていた。秋の空は抜けるように高くて日差しは暑いほどに感じた。
「お前がいてくれて嬉しかった。こんなに幸せな気分で死ねる。」
「あんな絵を見せなければよかった。」
「運命さ、きっと生まれる前から決まっていたことなんだよ。生まれ変わっても会えるかな。」
「会えるさ、きっとまた一緒に笑い合える。」
どちらからともなくしっかりと抱き合った。

制服は赤いネクタイに紺のブレザー、胸にエンブレムが縫い付けられている。上着を脱いでネクタイを外す。座って蔵から持ち出した短刀を各々に持った。素肌に着けたワイシャツのボタンをすべて外して裾を後ろに撥ねる。ズボンの前を開くと白い下着が覗く。向かい合って腹を揉んだ。リョウが短刀を突き立てた。
「さあ、逝こう。」
俺も突き立てて横に引く。苦痛はなかった。夢の中のように気持ちよかった。下着を突き上げて股間が帆を張る。俺はにじり寄って彼の男根を握り締めた。彼も俺のものを握ってくれた。
「いい気持ちだ。」
「ああ。」
片手は屹立したものを握って、片手に握った短刀を互いの胸にあてた。身体を押し当てると刃先が胸に沈んでいく。
「ああ、逝く。」
俺達は精を吐きながら互いの胸に身体を預けた。

「俺はお前と死ぬ夢を見たよ。」
「ああ、俺もだ。いつかきっと俺達はこの絵のように・・・。」
絵の縁に付いた染みが真っ赤な血の色になった気がした。見上げると今日もまた空は透き通るような空だった。放課後の校庭からは、いつものように野球部の練習する声が聞こえていた。


       完


あとがき

武家の間では男色衆道は古くからありました。男性同士が愛し合うことが、まだ社会にも受け入れられていたようです。しかし一部の藩ではそれを禁じたことがあり、それに背いて切腹した者がいました。この話は、実際に衆道により切腹させられた者があったという話から生まれました。

京弥への兵庫の気持ちは男女の恋心に近い。京弥は男色者ではありませんが、その気持ちにほだされて抱かれるのです。しかし、一度契った上は違えぬのが武士、罪を問われて言い逃れはしません。潔くも兵庫と共に切腹します。
刺し違えるというのは相手を刺すのではなく、相手に身を投げて刃を迎えると聞いたことがあります。刺されるのではなく、相手の刃に自分の身体を押し当てるというのです。
互いに押し合えば支えあって倒れない。肌を重ねて抱き合ったまま、倒れずにこと切れた姿は美しいと思えます。

検視役森田嘉平は、二人の最期を絵に残します。その時はまだ陰腹までもは考えていなかったでしょう。彼は藩主に拝謁の機を得て、直訴しようと決意します。衆道停止(ちょうじ)といっても、家中では薄々誰と誰がとは知っていたでしょう。嘉平が衆道者として直訴をすれば、市太郎もまたしらをきり通すほどに卑怯ではないのは嘉平も承知しています。嘉平は計画を打ち明けた時から、市太郎に共に死んでくれるかと言っているのです。市太郎が介添えするということは、共に死ぬという暗黙の合意が成立したということです。

嘉平と市太郎を手討ちとしたのは、衆道者の切腹とは公表したくなかったからです。しかし、二人の切腹は藩主幸孝にもその想いは届いた事でしょう。絵を見るうちに、その妖気に導かれるように小姓の肌の色香に気付かせられます。

大目付の使者はあくまでも正式に切腹を求めるものではありません。今幸孝さえ切腹すればそれで事を収めてもよいとの、幕閣の意向を打診するものです。切腹すれば家臣たちは浪人せずにすむ。幸孝は抵抗もせず受け入れます。彼は自分が切腹しなければならない運命と予感していたようにも思えます。

小十郎は京弥とは親友ですが男色の関係はありません。しかし、京弥を思い出して、彼と衆道を契りたかった自分の気持ちを思い知ります。彼の切腹には、死に姿を凄惨でなく美しくとの意図を感じます。彼は京弥と無心に戯れていた頃を思い出しながら死んでいきます。

高校生の二人は京弥と小十郎の生まれ変わりと思えます。親友の二人が一枚の絵を見つけて同性愛の感情に目覚めます。本当に二人が切腹するかどうかはわかりませんが、気だるい放課後の教室で、二人は言葉もなく見詰め合うのです。

連載を前後編に纏めてアップしました。細部を少し書き直しております。
[PR]
by kikuryouran | 2006-11-04 23:25 | 男色衆道 | Comments(0)

奉公覚悟

「小夜、そなたに切腹を命じます。この場にて潔く果てますように。」
「承知仕りました。」
女は平然とした足取りで庭に下りた。
「見苦しくは御座いますが、御免くださいませ。」
女ばかりが見守る城の奥庭、腰元衣装の帯紐解き緩めて肌着姿になった。
「桔梗、介錯を。存分に致させよ。」
桔梗と呼ばれたのは女ながらも太刀打ちの上手(じょうず)、たすきを架けて小夜の後ろに立つと、側から太刀が差し出される。
「姫さまお声にて介錯仕ります。存分に致させよとのお言葉、よろしければお声をおかけなさいませ。」
「承知いたしました。お手を煩わせ申し訳御座いませぬ。」
身体を捻じって会釈をすると、前肌開いて膝を割る。形よく整うた乳房がこぼれ、白くも引き締まった下腹まで充分に押し開いて懐剣の鞘を払う。
「姫さま御意により、切腹仕ります。」
凛とした声音涼しく、整った顔立ち瞑目して胸元から下腹際までも撫で下ろした。頂に桃色の果実固く清らかに乳房微かに震えて、息づく窪み愛らしくも乙女の肌がおののきを感じさせた。刃の先一寸を残して、懐紙に巻き込まれた刃を握り締めて腰を浮かす。
「いざ!」
見詰める姫に会釈の後、勢い付けて突き立てる脇の壷。
「うむ、うむうううう。」
気合いとも呻きとも聞こえて、美しい顔が歪み、腰尻揺らせて引き回す臍の下辺り、切り後から白い肌を伝うすだれの血。桔梗は手馴れた様子で、介錯の太刀緩やかに垂れてその機を覗う。

小夜に落ち度があったわけではなかった。その日、姫さまの前で武家奉公の覚悟を問われた。
「覚悟はただ、女にても腹切る覚悟一つ。御意あればいつにても。」
しばらく顔を見ていた姫さまが切腹を命じたのであった。

小夜は腹一文字に切り裂いて抜き出した刃を、袖で拭い鞘に納めた。手をつき屈んで首を前に伸べる。
「お願い・・申します。」
苦しげに後ろへ声をかける。御殿髷に結い上げた髪少し乱れて、白くもたおやかな細首は汗を噴いて震えている。
「お覚悟!」
ゆっくりと振り上げた白刃が一閃して首を刎ねた。血が飛沫き首が飛んで、残された胴がしばらく痙攣して止んだ。
「覚悟、確かに見届けました。」
姫様は何事もなかったように席を立たれた。

「そのように理不尽な。」
次第を聞いて、小者が声を荒げた。
「いや、それでよい。武家奉公はかくのごとしじゃ。理は知らぬ、主に死に場所を与えられて死ぬる。それでよい、教えた通りようしたな。」
娘の亡骸を受け取って、初老の武士は小夜の首を愛おしそうに撫でた。
[PR]
by kikuryouran | 2006-11-02 09:56 | 女腹切り情景 | Comments(0)