愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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詫びの腹 (仮題) 2

人里離れ周囲には人の気配もない一軒家、駆け落ち者には格好の棲家だった。ここに流れて来て半年が経っていた。ここでは人目を気にせずに愛し合えた。貧しくてもそれが嬉しかった。

「ここに来てから喜びを知った気がするの。」
女が男の背を流しながら言った。
「俺は女の業を知った気がする。」
笑いながら男が応えた。抑えられていた本能が、ここでは全てが開放された。訪れる者もない二人だけの世界、どれほど愛し合っても倦むことはなかった。
「もう終わるのね。」
愛しそうに女が男の背中を抱いて言った。
「始まるのだ、これから永劫の時が。罪を犯して浄土は望めぬであろうが、もう離れぬ。」
「地獄でもいいのです、共にいられるなら。」
「わしとてお前とならば業火も厭わぬ。」
向き合うて貪る様に口を吸うた。
「どうしてここがわかったのでありましょう。」
胸に抱かれて女が聞いた。
「知り人に見られたのかもしれぬな。」
「お知らせ下さったのは、何方から。」
「わしの縁者が知らせてくれた。その者には以前金の無心をしておったのでな。」
「追っ手はどなたが参られますのか。」
「与四郎殿が来られるとか。同行まではわからぬ。」
「夫が参りますのか。」
女は考え込むように目を落とした。
井戸端にもう陽は落ちようとしていた。
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by kikuryouran | 2006-07-28 03:50 | 女腹切り情景 | Comments(0)

詫びの腹 (仮題) 1

部屋は6畳ほどの広さ、二人は向かい合って座した。
「あの時と同じだな。二人で死のうとした。」
「そうね。二人とも若かったわ。」
数刻も後には、二人の腹切り果てた姿が横たわっているはずだ。

不義の恋に身を焦がして、共に死のうと覚悟を決めた。助け舟を出す者がいて、二人で落ちて三年が経った。男は妻を、女は夫と子を残していた。貧しかったが幸せな日々だったが、ついに国許に居所が知れた。書状が届いて追っ手がすでに発ったという。男は逃げようと言ったが、女はしばらく考えて逃げぬと言った。
「もう充分に生きたと思う。そろそろ詫びねばと思っていたの。」
「お前がその覚悟なら異存はない。追っ手を待って討たれるか、詫びて死ぬるか。いずれにしても、離れまい。」
「明日にも追っ手は着きましょう、今宵の内に手を取りおうて・・・。」
それで二人の末は決まった。

死に支度は簡単なものだった。家財とてない仮住まい、みすぼらしい衣類は捨てて新しい肌着下着を用意した。最期はかくやと常からの覚悟、苦しくても男は脇差女は懐剣を手放さなかった。
「やはりお腹を召されますのか?」
「ああ、やはり腹を切ろうと思う。最期は潔く終わりたいからな。俺はいつも思っていた、お前に俺の切腹を見届けて欲しいと。女房殿への詫びもある。お前を幸せに出来なかった俺の気持ちもある。せめて死ぬ時は男として腹を切りたいと思っていた。」
「私は充分に幸せだったわ。お詫びは奥様にだけしてあげて下さればいいわ。」
女は男の顔を見て言った。
「私も奥様への詫びと共に、夫や子への詫びをせねばなりませぬ。女ながらも腹切り詫びとうございます。」
「お前まで腹切り死なせることになってしまった。」
「きっと奥様の罰(ばち)が当たったんでしょう。貴方と一緒に死ねるんなら、私は後悔なんてしていない。どうせあの時死ぬ気だったんですから。三年儲けたようなものですよ。」
二人は見詰め合って微笑み合う。
「あなたは後悔しているの?」
「悔いはない、しかし疲れた。いかにも潮時かもしれぬとは思っていた。」
「愛想を尽かしておられましたのか。」
「いや、この辺りで共に死ぬのも良いかと思うていた矢先であった。」
「私も同じ、そろそろと・・・。」
二人はしばらく見詰め合い、頷き合って笑った。
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by kikuryouran | 2006-07-23 20:39 | 女腹切り情景 | Comments(0)