愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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カテゴリ:白虎隊( 7 )

白虎隊の少年たち


少年たちの身体は薄く、まだ男の身体にはなっていなかった。
それでも彼らは立派に死のうとして、腹を割いた。
儀三郎と和助は彼等にとどめを刺してまわった。
「みんな武士として立派に死んだ、もう俺たちだけだ。」
二人は抱き合い腹を刺し違えて、胸を合わせた。
互いの震えをききながら、支えあっていつまでも崩れなかった。

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by kikuryouran | 2015-07-19 05:17 | 白虎隊 | Comments(0)

白虎隊屠腹

傷を負った者もいる。
周囲は敵に囲まれていた。
「もう逃げるのは嫌だ。俺はここで自決する。」
和助が言った。
「俺も生きて捕らえられたくはない。」
源七郎が同意した。
「俺たちは会津の白虎隊だ。」
周囲で十人余りの少年が頷いた。
気の合う者同士で思い思いに散った。

潔く諸肌脱いで腰まで落とす。
まだ少年の薄い身体だった。
「介錯を頼む。」
腹に突き立てて引き回す。
振り下ろした太刀の下で真っ赤な血が噴き上げた。

あちこちから叫び声や呻く声が上がった。
刺し違えて抱き合う者がいる。
死に切れずに呻く者もいた。

「儀三郎、最期までお前と一緒だったな。」
「俊よ、俺はお前を・・・。」
「わかっていたさ。」
俊彦が笑った。
「次の世でも逢おうな。」
「ああ、約束だ。」
しっかりと抱き合った。

向かい合い、互いを見ながら腹を切っていく。
「最期は刺し違えよう。」
「心得た。」
もう周囲から呻く声も聞こえなくなっていた。

宗社(そうじゃ)亡びぬ 我が事おわる
十有九人 腹を屠(ほふ)ってたおる
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by kikuryouran | 2011-05-22 16:21 | 白虎隊 | Comments(5)

会津女自刃

「竹子様は見事なお討ち死にでございました。」
弓子は俯いて言った。
「首を渡してはならぬと言われて、優子殿が掻かれたそうでございます。」
深雪は苦しげに唇を噛んだ。
「お城に戻れましょうか。」
不安気な声で辰子が言った。

逃げ惑い追われる内に女ばかり三人が山中に取り残された。幼い頃から知る会津の山も、踏み入ると方向を見失った。弾けるような銃声が遠くで聞こえる。山に木霊してどの方向から聞こえるのかはわからなかった。薩摩言葉の男達が下の道を通っていく。周囲を木立に囲まれた窪地に潜んだ。

「このままでは・・・。」
「白虎隊の方々は潔く自刃されたと聞きます。」
「そなたの許嫁もおられましたね。私の弟も・・・。」
空はまだ明るかったが、もう日が傾き始めていた。
「生きて陵辱を受けてはなりませぬ。よろしいですね。」
二人を見ながら弓子が言った。ここで死ぬ同意を求めているのは二人にもわかった。
弓子は二十歳、嫁いでいたが夫は二日前の戦闘で討ち死にを遂げている。深雪は十八、白虎隊士の許嫁があった。辰子はまだ十六だった。幼い頃から会津の地で育った顔馴染み、知らぬ仲ではなかった。水筒の水で布を湿らせて顔を拭った。それがせめての死に化粧だった。
「辰子さん、あなたが先に・・、見届けて私たちも。」
「はい。」
辰子は稽古袴に脇差を腰に帯びている。男勝りの性質であった。
「弓様、腹をしとうございます。」
「お希みならばなさいませ。後のお姿は整えましょう。」
嬉しそうに頷いて、辰子は座を正し前を押し開いた。まだ幼い胸だった。腰の紐を緩めて腹を露わにする。汚れを知らぬ白い肌が哀れさを誘う。刃先三寸残して脇差を懐紙で巻き込んだ。
「昨夜、母と姉が自邸にて自害致しました。武に疎く、戦えぬゆえ足手纏いになってはと・・・。」
「そうですか、あの方は私と同年でありましたが。」
「女ばかりの家でございましたので、せめて私だけがご奉公をと参じましたが、お役に立てず無念でございました。」
「お心は届いておりましょう。」

辰子は見事な切腹だった。脇から臍の下辺りを大きく切り割いて、胸に刃を抱いて前に臥せった。近くにいるかもしれぬ敵を気遣い、呻く声も殺していた。
「この人の父上も、京で見事にお腹を召されたと聞いています。」
弓子はまだ痙攣を続ける辰子を見ながら言った。
「まだお若いに・・・。」
「又八郎殿を慕っていたそうでございます。」
「深雪さんは、啓次郎殿とはもう契られましたのか。」
許嫁の名を上げて顔を見る。
「はい、出陣の前夜に杯を交わして・・・。」
恥ずかしそうに顔を染めて下を向いた。
「そう、それはよかったわ。」
女と生まれて、春を見ずに死ぬのはやはり不幸なことですものと弓子は言った。
空が赤く染まっている。戦の音はもう聞こえなかった。

「夫も待っていてくれましょう。」
「お優しい方でございましたね。」
「気のつかぬお人でありましたが。」
弓子が思い出したように笑いながら言った。
「お幸せでございましたのね。」
「子を産みたかったわ。」
女だけのたわいない会話がしばらく続いた。いつかもう月が出ていた。

深雪は男袴に刺し子の稽古着を着けていた。
「これは、啓次郎様が普段お使いであったものを頂きましたの。」
「それはなによりの死に衣装ですのね。」
弓子は袖丈一尺五寸ばかりの縮緬を着て義経袴の姿。
「私は竹子様に倣いましたの。あの方は美しいお方でしたわ。」
向かい合って座り脇差を抜いた。近付いて膝を交えた。
「さあ、参りましょう。」
二つの影が重なった。しばらく呻く声が聞こえて静寂が訪れる。月の光が三人の女を優しく照らしていた。
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by kikuryouran | 2007-12-02 13:51 | 白虎隊 | Comments(0)

会津白虎隊自刃

彼らは初めて参加した戦闘で、多くの者が死ぬのを見た。恐怖が少年達の誇りと自信を萎えさせ、雨がまた疲れさせた。ぬかるみを歩く足音は重く、時々遠くで砲声が聞こえた。
「死ぬ時は手を貸してくれるか。」
源吉は歩きながら誰にともなく言った。周囲の者達は聞こえなかったように黙って歩いた。
「安心しろ、死ぬ時はみんな一緒だ。」
前を歩く駒四郎が振り返らずに言った。

飯盛山の中腹から立ち昇る煙が望めた。それは既に城が落ち、城下が燃えているように見えたという。孤立した少年達には、会津の武士としてもう死ぬ道しか残されていないと思えた。話し合い自決しようと決まって、彼等は思い思いに散った。

「銃撃されて俺は怖かった。足がすくんで前に進めなかった。」
源吉は下を向いて駒四郎に言った。小さな声だった。
「俺も怖かった。自決すると決まって、俺はほっとしたよ。」
二人は顔を見合して笑った。互いに隣で震えていた姿を思い出した。
周囲ではもう自決の声が上がり始めた。
駒四郎が脇差を抜いて諸肌脱ぐと、源吉もそれに倣った。まだ充分男にはならぬ柔らかく薄い胸だった。左手で互いに肩を抱いた。
「これで俺たちも立派な会津の侍だな。」
刃先を上に向けて、互いに臍の上辺りにあてる。チクリとした痛みと共に刃のひやりとした感触があった。
「腰を引くな、一気に深く突く。いいな。」
膝を絡ませ、顔を上げて互いに頷く。
股間にむず痒い感覚が走る。尻の穴に力を入れた。男の徴(しるし)が帆を張った。
「お前のものが立っているぞ。」
駒四郎が笑った。
「お前こそ。」
源吉がむきになって言い返す。
「いくぞ!」
「おお!」
腕に力を込めると生温かい血が手に伝った。激痛が襲う。前の顔も歪んでいた。力を込めて胸を合わせていく。刃が上に走って胸の骨を断つ。心の臓を切り裂いて、二人の背に刃先が突き抜けた。

「俺は死にたくない。」
取り囲まれて、彼は泣きながら言った。
「会津には卑怯者はおらぬ。いてはならぬのだ。」
立ったまま両腕を取られて腹を露わにされた。
「立派に死なせてやる。」
「俺は嫌だ、死にたくない。」
無理に脇差を握らせた。
「俺達も一緒に死ぬんだ。」
「見ろ、みんな立派に死のうとしている。」
口々に励ましてやる。手を添えて腹に突き立てた。
「母上・・・。」
四人がかりで押さえつけて首を切り落とした。

座して諸肌脱いだ少年が脇差を腹に突き立てている。泣きながら引き回す。
「うむううう・・、あうううううう。・・・。」
前に屈んで肩を震わせた。
「いいか。」
後ろに立つ武治が刀を振り上げた。しばらく震える首筋を見下ろして討てなかった。
「きぇぇい。」
悲鳴のような気合と共に振り下ろした。首が前に落ち、頭部を失った身体は真っ赤な血を噴き上げながら横に倒れた。

勝三郎は深く腹を切り割いて臓腑が溢れた。茂太郎が介錯をしようとしたが、苦しみもがいて首が定まらない。
「おい、手を貸せ。」
近くで腹を切ろうとしている喜代美を呼んだ。
「足を押さえていろ、首を落とす。」
近くにいた二人も手を貸した。大柄な勝三郎を何人もで押さえつける。仰向けに寝かせて馬乗りになり、茂太郎は両膝で肩を押さえた。喉元に太刀をあてた。
「今、楽にしてやる。静かにしろ!」
見上げた勝三郎が、頷いて目を閉じた。身体の重みを太刀に預けて首を押し切った。首がごろりと落ちた。

新太郎は一人離れて座った。周囲を見渡して、誰も自分を見ていないのを確かめた。
肌を寛げて腹を揉む。小さな声で女の名を呼んだ。男の根が目覚めていた。袴の割れ目から手を入れて握り締める。目を瞑ってゆっくりしごいた。心地よい快感が込み上げた。
「義姉さん・・・。逝きます。」
もう一度名を呼んで、ふんどしの中にしたたか吐いた。悪戯をしたように周囲を窺った。
袖で刃を包んで握る。抱えるように腹に突き立てた。横に割いてから胸に刃先をあて、前に伏した。

肩に傷を負い、片手の利かぬ虎之助は手を借りていた。腰まで脱ぎ落として両膝立ちになった。
「いいか。」
向かい合わせに片膝立てた八十治が刃を胸にあてた。虎之助が手を添えて脇腹に導いた。
「腹を・・・、頼む。」
まだ肉の薄い少年の腹だった。
「苦しむとも、大きく切ってくれ。会津の武士として死にたい。」
「わかった。身体を離すな。」
虎之助が腹を前に押し出す。身体を寄せて八十治の腰紐を握った。八十治も膝立ちになって抱き寄せながら突き立てた。抉りながら斜めに割く。肉の喘ぎを感じながら、胸を合わせて刃に力を込めた。膝に生温かい血が降りそそいだ。
「うむううううう・・。」
「虎、苦しいか。」
「うぐううううう・・・・」
虎之助がしがみつくように八十治の腰を抱いた。腹は深く裂かれて、傷口からぬめぬめとはらわたが溢れた。苦しむ胸を貫いてやった。

腹を揉みながら、源七郎は前夜の事を思い出していた。
彼が出陣前に帰宅すると女が待っていた。
「あなたを男にするように、母者殿に頼まれました。」
女は彼を優しく導いて交わった。
「会津の武士として、立派に死んでくれよとのお言付けでございました。」
余韻の中で抱きながら女が言った。奥の部屋で、母は既に自害していた。
「母上・・・。」
彼は腹を切りながら女の肌を思い出していた。男が屹立していた。それはまさしく母に抱かれている夢だった。

「次の世でも逢おうな。」
「ああ、きっと逢おう。」
藤三郎が腹に刃を立てた。雄次も遅れじと突き立てる。見詰め合いながら引き回す。
にじり寄って互いの胸に刃をあてた。
「いこう!」
「うむ!」
相手の持つ刃に身体を投げ出すように刺し違えた。

貞吉は腹に突き立てようとして躊躇い傷を幾つも付けた。苦しむ声があちこちで上がり始めていた。父の顔が浮かんだ。遅れてはならぬと思った。自分だけが生き残る恐怖が頭をかすめる。死ななければならぬと思った。
喉元を突き上げた。口の中が込み上げる血の味であふれた。力を込めて突き入れた。気が遠くなった。母の顔が浮かぶ。姉が笑っていた。

儀三郎は周囲を見渡した。まだ元服前の少年ばかりだった。刺し違えた者、切腹して介錯を受けた者、ほとんどの者がもう見事に死んでいた。流れる血を草が吸い土が吸った。
「会津の武士か・・・。」
苦しむ声が聞こえた。既に腹を切った和助だった。
「あの握り飯は美味かったな。」
抱き起こすと楽しい夢を見るように彼が言った。
「ああ、美味かった。」
顔を合わせて笑った。昼に食べたことを言ったのか、遠い昔のことを言っているのかはわからなかった。胸を突いて止めを刺した。

座を占めて諸肌脱いだ。落ち着いた様子で袖を裂いて刃を巻き込む。
「人生 古より誰か死無からん 丹心を留取して 汗青を照らさん。」
腹を揉みながら文天祥の詩を口ずさむ。
伸び上がって腹に突き立てた。腰を揺らしながら横に割いた。
幼い頃から親しんだ美しい会津の風景が脳裏に浮かぶ。笑い戯れる顔が次々と通り過ぎた。
抜き出して教えられていたように胸元を貫きながら前に伏せった。

遠くで弾けるような銃声が聞こえた。風が通り過ぎて木洩れ日が差した。静寂に包まれて、もう何も動かなかった。
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by kikuryouran | 2007-11-30 04:26 | 白虎隊 | Comments(0)
隊長の日向内記以下、指揮を執れる者はいなかった。二十人ほどの若者が車座になってこれからの思案に各々が意見を述べた。
「山を降りれば地理もわかる、知り人もいる。味方の隊に合流して戦おう。」
「隊長を探そう。きっと近くにいるはずだ。」
言うだけ言うと皆黙り込んだ。
しばらくの沈黙が続いた後に儀三郎が立ち上がった。
「見る通り、すでに城下は火に包まれ、お城からは煙が上がっている。手傷を負った者もいる、疲れて動けぬ者もいる。俺も今一度戦いたい、しかし今敵に遭遇すれば生きて捕らえられるやもしれぬ。それだけは会津の武士として許されぬ。」
聞いている者たちから嗚咽が漏れ始めた。その後の言葉は全員が考えていたことだ。しかし言い出せなかった。
「辱めを受け名を汚してはならぬ。若輩とはいえ俺達は会津武士として戦に加わり、今ここに居る。会津の名を汚してはならぬ。潔くここで・・・。」
彼はそこで言葉を切って、覚悟を確かめるように一人一人の顔を見た。誰もが目を合わして頷いた。それを確かめてから大きく息を継ぎ、彼はしっかりとした声で言った。
「俺はここで死ぬと決めた。」
「俺も腹を切る。」
「俺もここで。」
次々に声が上がった。もう迷う者はいなかった。

飯盛山中腹の高台。そこからは会津の城下とお城が望めた。若者達は居ずまいを正し、お城に向かって別れを告げ、城下に別れを告げた。
「始めよう、次の世でもまたここで会おう。」
儀三郎が言うと、仲の良い者達が二人三人と周囲に散っていった。散った辺りで各々が死ぬ支度を始めた。しばらくざわざわと話す声が聞こえていた。腹の切り方を教えている声も聞こえた。傷ついている者は介添えや介錯を頼んでいた。共に死のうとする相手を探している者もいた。死ぬと決まって緊張が解けたのか、笑う声さえも聞こえて普段のままのざわめきだった。傷ついた者たちは手を借り、刺し違える者は手順を確かめていた。
儀三郎は、黙ってそれぞれが支度をするのを見ていた。儀三郎の側に和助が近付いた。
「にぎやかだな、一緒に死なぬか。お前となら気持ちよく死ねそうだ。」
「死ぬのに気持ちよくもないだろう。」
儀三郎が笑いながら言うと和助も笑った。
「俺に異存はない、少し待ってくれるか。仕損じる奴もいるまいが、傷ついた者もいる。確かめてから逝きたい。」
「最後までご苦労な役回りだ。つき合わせてもらおう。」
藩校日進館で幼い頃から共に学んで、気心もわかった者ばかりだった。指揮官達とはぐれると、儀三郎は信望もあり、自然に彼がまとめる役になっていた。
「お前は想い遺す事はないのか。」
周囲に気を配りながら、和助に訊く。
「俺は医家の出だ。会津の武士として死ぬなら本望かもしれん。」
「お前らしくもない、俺達には武家も医家もあるまい。」
「俺もそう言ってはきたが、元からの武家者にはわからぬかもしれぬ。死ぬとなると武家の者より武士らしく死なねばと思っていた。」
和助はそういいながら辺りを見た。
「石高はあるがほとんどが士分の出だ、どのように死のうとな。」
「潔く死ぬ。それでいいのだろうが・・・。」
儀三郎は言い返そうとしてやめた。自分は家名を傷つけぬために死ぬ。和助は武士として死のうとしている。
「俺は立派に腹を切りたい。お前の側でなら、立派に腹を切れそうに思う。」
和助の目はもう笑っていなかった。
「わかった、誰よりも見事に腹を切らせてやる。」
「最期までお前には世話をかける。」
二人は笑いながら手を握り合った。

散った者たちの中から呻き声が上がった。手を添えられて腹を切る者がいる。
「腕に傷を負いながらも、腹を切ると言ってきかぬようだ。」
後ろから二人が支え、一人が手を添えているのが見えた。違う辺りで、諸肌脱いで腹を切っている者がいる。既に臥せっている者もいた。
「和助、一巡りしよう。付き合ってくれるか。」
儀三郎が立ち上がると和助も後ろから従った。喉を突いて呻く者がいた。刺し違えて重なっている者もいた。今まさに腹を切って苦しんでいる者もいる。そこここで聞こえていた呻く声が少しづつ消えていった。若者たちから流れ出す血を、緑濃い夏草が吸った。既にし遂げている者には手を合わせ、苦しんでいる者には手を貸してやった。
元の場所に戻って来た時は、二人の手は血に赤く染まっていた。周囲からはもう呻き声も聞こえなくなっていた。倒れ伏す体もほとんど動かなかった。
「静かになったな。皆立派に会津の武士として死んだ。もう後は俺達だけだ。」
二人は草の上に座ると、諸肌脱いで腰まで充分に脱ぎ落とした。

篠田儀三郎、供番篠田兵庫二百石の次男として生まれた。幼い頃から信義に厚く、十一歳にして藩校日新館に入り、学によく才をあらわし周囲から信を集めた。
石田和助、父は侍医石田龍玄、若松の城下に住居し、和助はその次男として生まれた。母は産後の肥立ちが悪く、和助五歳のときに没した。幼時から縁者の家を転々として生母の愛を知らなかった。十歳にして藩校日新館に入り性剛直、酒をよく嗜んだ。武家の子弟の多い朋輩からは、時に身分を謗られたという。
「儀三郎、これで俺ももう武士として・・・。」
「ああ、お前が見事に腹切ったことを皆に話してやる。和助、母者にも会えるな。」
武家の厳しいしきたりの中で育てられた生徒の多い日進館では、彼は異端といえた。酒も呑むし遊びもするが学もよくできた。一時継母との折り合いが悪く、酒に溺れて生活を乱したことがある。
「堅物のお前が、俺のようなひねくれ者に心をかけてくれた。あの時、お前のおかげで俺は立ち直れた。」
周囲が離れていく中で、儀三郎は友として彼を見捨てなかった。
「俺はお前の豪放さを羨ましく好きだった。憧れていたといってもいい。」
「あの時から俺は、お前を終生の友と心に誓った。」
もう誰一人聞く者もない、心許した友の会話だった。
「和助、わかっていようが逸って深腹はするな。最期は刺し違えよう。」
「心得た。」
互いに見交わしながら、これから切り割く腹を撫で揉む。儀三郎は細く、和助は柄も大きい。共に鍛えられたとわかるが、肉薄くまだ幼さを感じさせる身体だった。さすがに二人の顔から笑いが消え、互いに緊張するのがわかる。
「生まれ変わっても友でいてくれるか。」
和助が思い詰めた声で言う。
「女に生まれれば妻にもしてやる。」
儀三郎が微笑を浮かべて応えた。
「女か、それもいいな。」
和助は呟きながら刃先を腹にあてた。
「いくぞ、後れるな。」
儀三郎がのしかかるように脇に突き立てる。和助もそれに倣った。二人は苦痛に歪めながらも顔を反らさなかった。身体を揺らしながら、そのまま一気に切り割いた。
「うむっうううう・・・・」
腹から抜き出した刃を持ち直す。
「和助、出来たぞ、見事な切腹だ。さあ、刺し違えよう。」
互いに胸に刃を受けようとにじり寄る。引き寄せ肩を抱き合って胸を合わせた。
「俺は女に決めた。妻に・・・妻に・・・、儀三郎・・・。」
「ああ、約束する、約束するぞ、和助・・・。」
耳元で囁き合って二人は抱く手に力を込めた。

時は慶応四年八月二十三日、飯盛山は蝉の声が喧しかった。
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by kikuryouran | 2007-01-07 10:22 | 白虎隊 | Comments(0)

白虎隊残照

彦四郎と祐之進は坂道を登り、やがて本道を外れて松木立の中に入っていった。山はもうすっかり秋の景色だった。視界が広がる辺りで、手に持った花を置いていく。
「虎之助と駒四郎はこの辺り、武治はここで腹を切った。」
「貞吉が見つけられたのはこの辺りだった。」
周囲を一巡りすると、花はそこここに彩りを添えた。残った花を真ん中に置いて香を焚いた。煙が花を置いた辺りをゆっくりと漂っていった。
「早いものだ、もう三ヶ月も経とうとしている。俺達も会津を追われる。」
「俺は一緒に腹を切りたかった。」
二人はしばらく物思いに耽った。
「新太郎は最後まで落ちようと言って不覚悟者とまで言われたそうだ。離れてこの辺りで一人で死んだ。あいつは命が惜しかったんじゃない。俺たちは一緒に死のうと誓っていた。あの時俺が一緒なら、真っ先に腹を切ったろう。」
彦四郎は新太郎が死んだ場所に座り込んで震える口ぶりで言うと、堪えられずに声を上げて泣き始めた。
「新太郎の腹は立派だったよ。手を頼まずし遂げていたそうだ。あの泣き虫がよくやったと思う。」
泣き続ける彦四郎から離れて、祐之進は城の方角を見ながら慰めるように言った。
新太郎は小柄でよくからかわれた。教練でも皆に遅れてよく泣いた。彦四郎が彼を庇っていたのを祐之進は思い出した。
「恥ずかしいが、俺は新太郎と契っていた。」
彦四郎は頬を染めて下を向きながら言った。衆道男色というものがあるのは知っていたが、祐之進はそれがどういうものかはよくわからなかった。ほとんどの者は、軟弱と言いながらもまだ知らぬ女への興味を自慰でごまかしていた。
「俺達は抱き合い交わった。笑うだろうな。」
自嘲気味に言う彦四郎を見ながら、祐之進は股間が疼くのを感じた。それから二人はしばらく無言になった。
「あいつは女のようにきれいな顔立ちで学問もよくできた。俺達はあいつをよくからかったが、嫉んでいたのかもしれぬ。あいつはきっとお前を思いながら腹を切った。」
「今でも恋しくて新太郎の夢を見る。あいつは立派な会津の武士だったよ。」
「俺は儀三郎を好きだった、織之助も捨蔵も和助も。あいつらといると楽しかった。出陣の時、一緒に会津の武士として死のうと誓い合った。そして俺だけが生き残った。こいつらが死んだと聞いて俺は死のうとして止められた。犬死にだと言われたよ。しかし犬死にでもよかった。あの時すぐに俺も死ぬべきだった。」
聞かすともなく祐之進は話しながら、花が置かれた場所をひとつひとつ確かめて歩いた。
「ここが悌次郎と源吉、ここで源七郎と勝三郎と雄次。」
一巡りすると、もう一度数を数えて漏れのないのを確かめた。
「与四郎、俺はこれから腹を切る。後れたがやはりここで俺も死のうと思う。」
泣いていた彦四郎が顔を上げた。
「祐之進・・・。」
秋の日はもう傾こうとしていた。

祐之進は諸肌脱いで周囲を見渡した。懐かしい顔が笑っていた。
「みんなが迎えにきてくれている。藤三郎も茂太郎もいる。喜代美も俊彦も。お前には新太郎しか見えぬのではないか。」
「馬鹿を言うな、俺にも見えるぞ。勝太郎も八十治もおるわ。」
二人は顔を見合して笑った。
「これで、俺達もみんなと会えるな。」
「負けぬように腹を切らねば笑われよう。」
「お前と新太郎はからかわれるだろう。」
「かまわぬ、もう隠さぬ。俺は新太郎と契った仲じゃ。文句を言う奴がいたら叩きのめしてやる。」
彦四郎は嬉しそうに笑った。祐之進は新太郎の顔を思い浮かべて羨ましいとさえ思った。
「さあ、逝こう。皆が待っている。」
二人は脇差を懐紙に巻き込んで腹にあてた。

山の端に日が沈んで雲が赤く染まった。暮れ残りの日が落ちて月が昇る。会津の町に灯が燈り始めた。静寂に包まれた飯盛山の一角高台に、見事に腹掻っ捌いた若者が二人臥せっていた。



作者注
この話はあくまでフィクションです。実際の白虎隊の方々の名前を使わせては頂きましたが、彼らの名誉を傷つける意図はなく、若くして会津の士魂に殉じた若者達を悼み、その死に赴く心情を表そうとしたものです。筆者の筆拙く、ご不快あればお詫び致します。
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by kikuryouran | 2007-01-04 15:50 | 白虎隊 | Comments(0)

はなむけの情け

戦支度の三人の若者は山小屋でしばしの休息をとりながら無言だった。味方を見失い、山を彷徨ってすでに周囲は敵に囲まれていた。
「俺達と歳も違わぬ会津の若者は、敵に囲まれて腹を切ったそうだ。我等も腹を切ろうではないか。」
「俺達はいいが、徳子殿がおる。」
「女でもそなた等よりは年嵩ぞ。腹を切るに不足はないわ。」
徳子と呼ばれた若者が言い返した。女ながら剣に覚えもあり、男袴に髪も結い直して凛々しい戦支度であった。

会津の近藩でも若者達が死を賭して参陣した。徳子は十八男勝りの性格、子供の頃から男にひけをとらなかった。信二郎は二才下、小十郎もまた同年、三人は幼い頃からの馴染みだった。喧嘩もしたが仲もよく、兄弟のように育った。二年前、徳子は家中の武士に嫁いだが、夫は一年ほどして京で横死を遂げ実家に返されていた。藩存亡の時至り、信二郎小十郎は若者男子として、徳子は婦女子として戦に身を投じたが、乱戦に追われる内にいつか三人だけが取り残された。
「この上はどこまでも生死を共にしようぞ。」
信二郎の言葉に二人は頷き、行を共にしてここまできた。追われるように山に入って日も暮れかけ、山小屋を見つけて休息をとった。外は微かな月明かり、灯りを覆って漏れぬように気遣いながら息を潜めた。

各々出陣する時から生きては帰らぬ覚悟、一度死のうという言葉が出るともう覚悟は定まった。
「私は女の身、敵に捕らえられ辱めを受けてはなりませぬ。ここで腹切ると決めました。」
「徳子殿が同意なら異存はない。俺もここで潔く腹を切る。」
「よし決まった。三人共にここで腹を切ろう。」
三人車座で見交わし、覚悟を確かめ手を取り合った。
「私が年長、女の身で死に遅れてはならぬゆえ先に参ります。」
男姿の徳子が胸元押し開き、下腹大きく露わにすると、前の二人が驚いた風に見詰めていた。
「幼い頃は共に裸で泳いだ仲、女の身体が珍しいのか。」
徳子が笑いながら二人を見た。
「私らはまだ女を知りませぬ。」
二人は目を反らして俯いた。
「弟とも思い、気安いばかりにこのように。そなたらは女の肌を知らず死ぬのか。もう立派な男(おのこ)であろうに。」
徳子はしばらく考えてから腰紐を解き始めた。
「私は既に後家の身の上。よければ、今生名残りに抱くがよい。」
袴下着も脱ぎ落とし、脱いだ着物を敷いて横になった。二人は顔を見合し、躊躇い下を向いていた。
「知らぬ仲でもない。ましてや共に死のうとするのではないか。信二郎殿からおいでなさい。小十郎殿は呼ぶまで外に。」
名指されて信二郎がにじり寄り、小十郎は外に出た。
徳子は優しく教え導いて体を開いた。決して淫ら心からしたことではなかったが、夫を失ってから一年の歳月、涸れた草木が水を吸うように若者の精を吸った。二人の若者は交互に何度も果て、やがて三人は重なり抱き合ってしばらくのまどろみを見た。
月が傾き、夜明けが近いと教え急かせた。身仕舞い正した徳子が、改めて切腹の支度をする。
「今生のはなむけでした、そなたらはもう男(おのこ)になられた。立派に最期を飾られよ。先に参ってお待ちしております。」
凛々しいと見えた男姿も今は艶かしく、二人に見守られて前を寛げる。胸元からこぼれる乳房肌露わに押し開いて、未練見せずに脇に突き立てた九寸五分苦しげにも引き廻す。言葉なく二人は見詰めていた。
「あむぅぅ、むううう・・・。」
徳子は抜いた刃を前に体を起こし、膝に手を置き背を立てた。臓腑はあらわれぬほどながら切り口広く、脇から脇に八寸ばかり、臍下は血に濡れて見事な切腹。
「見るほども怖ろしくはありませぬ。最期は武士の情け、二人の手で送って下さるか。」
苦しげな声で二人を見る。信二郎が背から支え抱き、小十郎が前から胸に刃を当てる。導きながら急所を教えて小十郎を抱き寄せれば、刃は胸の谷間を裂いて心の臓までも貫いた。挟まれ抱かれ、徳子は肉震わせ声を殺して虚しくなった。

徳子の横たわる姿を見ながら、二人は女の匂い柔肌、交わり果てる時の苦しいほどの快感を思い出していた。
「楽しかったな。生まれ変わっても俺はこのように生き、このように死ぬ。」
「幼い頃から俺はこの人を姉とも思い、憧れていた。」
「俺もだ、美しい人であった。また会えると思えば、黄泉とても怖ろしいとは思わぬ。」
「負けずに腹掻き切って果てようぞ。」
どちらからともなく頷き合い、向かい合って諸肌脱いだ。まだ十六の身体は幼さを残しながらも、すでに胸は男の逞しさを感じさせた。
「後れるな・・、逝こうぞ。」
信二郎が腹に脇差突き立てて顔を歪めた。小十郎も負けじと脇に突き立てる。
「うむっ・・、うむうううう・・・。」

月傾き空白く明け始めて、武運ここに尽きるを知る。
腹割いて友逝き、また腹を割く朋に倣う。
生を享けて十有余年、今まさに義に殉じて刃を執る紅顔の若者。
武士として死ぬるを望み、腹を割くは美しくもまた悲壮。
夢は故郷に遊び、また友とまみえんと腹を屠る。
既に情を知る男(おのこ)勃ちて逞しく、血は淋漓流れて白き肌を伝う。
「さあ、刺し違えて共に逝こうぞ。」
「また次の世で会おう。」
「ああ、必ずな。」
苦はすでに消え、情を交わす喜びを思い恍惚の境。
来世を約して迎え導く血濡れの刃が、互いに抱き寄せる胸を切り裂いて背までも貫いた。

名を残せし白虎隊と共に、残さぬながら名を惜しんで幾多の若者が屠腹して終わる。
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by kikuryouran | 2007-01-02 16:59 | 白虎隊 | Comments(0)