愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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カテゴリ:男色衆道( 10 )

 殉死相続

「俺は殉死する。」
妻の伊久と弟の小市朗を前にして伝八郎は言った。
彼は藩主貞憲の側小姓として衆道寵愛を受けていたことがある。数日前その貞憲が病で身罷り、伝八郎はすぐに殉死を願い出ていた。
「もう十年も昔、俺は殿に殉死を誓ったことがある。閨の戯言とあの方はお忘れであったかもしれぬ。しかし俺は忘れたことはない。」
この頃、衆道男色は隠すことではなかった。伝八郎にお手が付いたことは家中で知らぬ者はない。
「俺は良い死に時と思うている。」
見事に死んで、色奉公だけの者ではないことをあらわしたいと言った。妻である伊久は、彼が男色者でないことを充分に知っている。殉死となれば武士の妻として止める理由はなかった。
「小市朗、そなたは伊久を妻にして家を継ぐがよい。ご重役親類衆、伊久の実家にも話はつけてある。」
家督を継いで義姉を妻にするのは珍しいことではない。小市朗はまだ二十歳前だが既に元服も済んでいる。伊久は三つ上だが子はなかった。彼女は黙って頷いていた。
既に決められたことに二人は否応もなかった。

翌日、伝八郎は二人だけに見守られて切腹の座に着いた。
「俺はこの時を待っていたのかもしれぬ。」
呟きながら大きく前を寛げる。胸板と締まった腹を大きく露わにした。
「小市朗、わしの首がそなたの初陣じゃ、しっかり討て。」
切腹刀を取って、後ろに立つ弟に声をかける。
「稚児小姓と嘲られてはならぬ、充分にする。声をかけるまで待て。」
「兄上、承知いたしました。ご存分に。」
「伊久、そなたに見せる武士の最期じゃ見届けてくれ。」
「拝見いたします。」
前に座った伊久は目を逸らさずに答えた。
「お心遺しなく、ご立派になさいませ。」
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伝八郎はもう前を見なかった。見下ろしてしばらく確かめるように腹を揉んだ。
声をころして腰の際から下腹を大きく横に切り裂いた。
「うむううう・・・ぐううううう・・・。」
白い袴が赤く染まっていく。全身から汗が噴いた。尻に敷いた三宝が音を立てた。
抜いた刃を臍の辺りに突き立て、縦に切り下げる。傷口が開いてはらわたが溢れようとする。手で押さえて前に屈んだ。
「小市郎・・・。」
苦しげに名を呼んで首を前に伸べた。
「兄上、お覚悟!」
小市郎が腰を落として振り下ろす。肩口から首が折れる。一気に血が噴き前に座る伊久にかかった。

「お見事な。」
検死に訪れた目付役が感嘆の声を上げた。首を肩口に置かれて、伝八郎は血だまりの中で伏せっている。
「殉死いたされた方は五名。一等見事な致しようと心得る。小市朗殿の手並みも見事。色稚児よと陰口を言う者はもうおるまい。」
それは伝八郎が陰では男色小姓であったことを嘲られていたことを示していた。
伊久はまだ血を浴びたままの姿で座り続けている。それは夫を見送った妻の鑑と見えた。
「伊久殿もよう見届けられた。伝八郎殿から既にお届けは出されておる。後は良いように。」
全てを心得たように彼は言った。

すぐにも内輪で仮の杯事を行い、小市朗は家督を継いだ。殉死となれば武士として祝うべきこと、喪は形ばかりのものだった。
「義姉上、兄上を恋しゅうはございませぬか。」
「小市殿、もうそのように呼ぶのはお止めなさい。」
「義姉上こそ・・・。」
「そうでしたね。」
笑いながら顔を見合す。夫婦(めおと)になってもうひと月が過ぎようとしていた。しかし二人だけになるとまだ癖はなおらなかった。
「前(せん)のお方は・・・。」
彼女は前の夫をそのように言った。
「前々から、貞憲様に万一の時は殉死すると言われていました。」
「その時は介錯を頼むと私には。」
「ほんに見事なご切腹でありました。腹切る時を待ち望んでおられたのかもしれませぬ。」
壮絶な切腹が思い出された。
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「貴方の事を好きかと訊かれたことがあります。」
「何と答えられた。」
「その時は、虫の好かぬお方と。」
笑いながら女は甘えるように顔を寄せてくる。閨では女が導いた。やがて主客は転倒する。男は自信を覗かせて組み伏せる。女は好む愛技を教えながら、身体を開いて身を任せた。

三月ほどが過ぎて、女は体に変調を覚えた。
「俺の子か、それとも兄者の・・・。女には誰の子かわかると聞く。」
切腹前夜、此の世最後の名残りを惜しんだことは小市朗も知っている。
「死ぬる前の精は濃いという。」
「五年添うて前のお方とは子は出来ませんでした。不義の子かもしれませぬ。」
伊久は笑いながら言った。
「わしの子だというのか。」
それは殉死前から既に男女の仲であったことを意味していた。
「兄上はご存知であったろうか。」
「不義者とわかってお譲りにはなりますまい。」
自信ありげに女は言う。
「いずれの子でももうよいではありませぬか。今は確かに夫の種でございますよ。」
腹を撫ぜながら女は微笑んだ。
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by kikuryouran | 2008-11-06 12:20 | 男色衆道 | Comments(0)

衆道殉死陰花散る

某日鍋島支藩を預かる鍋島直之が切腹を遂げた。最期を見届けて間を置かず、小姓山内京弥が追い腹を切った。立ち会うたのは近習役の武士であった。

「殿様お仕舞いなされた上は、殉死仕ります。」
「殉死と言われれば止めも出来ぬ、見事に義理を立てられよ。後の世までも名が残りましょう。」
「有難きお言葉なれど義理ゆえではございませぬ。恥ずかしき淫情断ち難きゆえの追い腹でございます。」
「君臣の契りよりも濃い恋情と言われるか。」
殿は三十路前、武家らしくも多感なお方であった。この頃、武士の衆道男色は公然と恥じるものではなかった。京弥は十六、城中知らぬ者なき美童、想いをかける男女も多くを数えた。
「心よりお慕い申しておりました。」
「衆道の情に殉じるか。それも士道であろう。」
京弥は、落ち着いた様子で脇差を懐紙に巻く。前肌押し開けば、まだ幼さを残す骨立ち、女とも見まがうほどの雪の肌。腰紐解き緩めて、白き下帯繁みまで押し下げれば、若衆の色香はここに極まると見えた。

『腹切りお供いたします。』
想いを凝らし、慰むように腹を撫で揉みしだいた。絞り閉じた陰花が疼く。あの方にすべてを捧げる、この腹を切って。衆道は命を捧げる契りであった。
一気に突き立てると、激痛が腰に広がる
「うぐうううう・・・。」
苦痛に歪む顔は艶かしく、悶える腰尻から淫靡の気が立ち昇る。
「殿を、殿をお慕い申して・・・。」
あとはもう言葉にはならなかった。
「うむううう・・・むうううう・・・。」
肉を震わせ切り割いてゆく。血が噴き赤き大輪を咲かせた。
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すでに刃は脇までも届いて、膝間は血に染まっている。
「お若いに見事な腹。介錯仕ろう。」
「ご無用に・・・。」
ゆっくりと抜き出した刃を胸元にあてがい、倒れ伏せば背までも通る。血の海に屈み伏して、しばらく背を震わせていたがやがて途絶えた。
「まさしく情に殉じた腹であった。よほどに熱く情を交わされたのであろう。」
恋情に男女の別なく、男色衆道が公然と世に容れられた頃であった。
義理ゆえの殉死にあらず、次の世までも継ぐ情愛に駆り立てられた切腹も多かったという。
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by kikuryouran | 2008-06-08 07:48 | 男色衆道 | Comments(0)

衆道者奇談 (五)

あとがき

この話は、一年以上前に書いて「切腹ゴッコ」さんのブログに掲載していただいたものです。私が話を書いて「切腹ごっこ」さんに挿絵を描いてもらいました。今回、うちでアップするのに文章に手を入れましたが、大筋はほとんど変えていません。ゴッコさんの絵に男性器が露骨に描かれていますが、不快に感じる方があるなら申し訳ありません。これは私がわざと露骨に描くように依頼しました。

稚児というのは平安の頃からあったものです。寺院や武家の女性の入れぬ場所で、男の子が幼い頃から修行を兼ねて日常の奉仕をしました。稚児の上限は十七~十八歳ぐらいまでといわれて、必ずしも男色の奉仕者であったわけでもないのです。寺でも有髪のまま、男ばかりの世界で華やかさを競ったといわれます。
いわゆる小姓というのは、常に武将の身辺の用事を務め、警護の役目もありました。その中でも特別に寵愛を得た者は夜伽の相手もしました。主人の性欲の処理、セックスのお相手をしたわけです。これが「稚児小姓」です。この頃、男色は恥ずべき行為ではなく、歴史文献に残る男色恋愛も少なくはありません。色稚児が職業的に成立していたかは筆者の想像ですが、江戸の頃には男色を専門にした男娼がいたのは事実ですから、戦国の頃になかったとも言えないように思います。

信長の行った根切り(皆殺し)は凄まじく、捕らえた者は戦闘員か否かを問わず、幼児さえも助ける事を許しませんでした。歴史に残る比叡山掃討はあまりに有名です。
戦場での略奪陵辱は茶飯のこと、生きて捕らえられれば辱めを受けて殺される。雇われ雑兵には軍律などは期待できません。根切りとなればその恐怖は想像を絶するものだったでしょう。陵辱を怖れ、自害した者も多かったといいます。
戦国の頃、主家が滅亡して決まった主(あるじ)を持たずに、金で雇われる流れ武士がいました。彼等は逃げる術も心得ていなければ生き残る事はできなかったでしょう。

胡蝶丸は死を覚悟して、その恐怖を紛らすように自慰をします。死を前にした昂揚が命の燃焼を誘うのは本能かもしれません。男であることの主張であるのかもしれない。死なねばならぬなら男子(おのこ)として死にたいと男性のシンボルを握りしごき精を散らす。蔑まれて生きてきた彼にとっては、腹を切って死ぬのはせめても男としての魂の救いであったのかもしれません。

胡蝶丸が切腹して果てたいと思ったのは、源吾に腹切ると誓わせた武士の生まれ変わりだったのかもしれません。あるいはかの武士の魂が乗り移ったのかもしれない。いずれにしても、彼が源吾に運命的直感を感じるのは、潜在意識に刷り込まれた前世からの因縁であったと思わせます。
胡蝶丸は元々同性愛者ではありません。色稚児は生きる手立て、女の相手もしたかもしれない。衆道契りを結んだ経験から、源吾は男色に偏見がなかったと思えますが、彼も男色者ではありません。死の予感と男同士の交わりから、抑えていた過去の記憶がよみがえり始めます。胡蝶丸が源吾の記憶をより鮮明に浮かび上がらせる。過去の記憶と胡蝶丸の存在が絡み合い、導かれるように源吾は腹切る覚悟を求められます。

衆道というのは、武家の間で行われた男性同性愛の事といわれますが、戦場で生死を共にする契りであったともいわれています。互いに男として生命の飛沫を迸らせて契り誓うのです。互いの血を吸って交わす、義兄弟の誓いがイメージとして近いかもしれません。片方が女性的に受け入れる男性同性愛のセックスとは、趣を異にする交わりであったのではないかと思われます。

源吾は勇敢な戦闘者です。体中の傷がその勇敢さを示しています。しかし彼には、自分が腹も切れぬ卑怯者との負い目がありました。忘れようとして心の底に沈めていた記憶があります。胡蝶丸の手で男根(おとこね)をしごかれ、男同士の交わりから腹切る契りを思い出します。胡蝶丸のものを含んだ時には、彼もすでに運命的な出会いを感じていたのかもしれません。戦場でなで斬りに殺される予感から、彼の腹切り死にたいという願望がよみがえり始めます。しかし、源吾はすぐには気付きません。胡蝶丸を誘いながらまだ生きる道を探そうとします。若者が嬲(なぶ)られ辱められて殺されるのを見て、胡蝶丸に男として誇りを失わずに死なせてやりたいと思います。その時彼の脳裏に過去の自分と胡蝶丸が重なります。彼に切腹を遂げさせることは自分自身の負い目を消すようにも思えます。

源吾は胡蝶丸に衆道契りを求めます。それは彼を自分と同化させる儀式と思えるのです。胡蝶丸もそれを感じとり受け入れます。彼は性の奉仕者としてでなく、一人の男として源吾に契り応えたといえます。男女の性交は、互いの情愛を交わし確かめる行為といえますが、彼らのそれは互いの覚悟を確かめ魂を同化させる儀式だったといえます。その時二人の魂は重なったでしょう。互いの生を共有していると実感できたのです。

腹を切るには相当の気力と体力を要するといいます。意思はあっても、色稚児であった胡蝶丸には切腹は難しかったでしょう。源吾に励まされ、彼の中に潜む血の記憶が彼に切腹を遂げさせます。彼らはこの時、別の肉体を持ちながら既に魂は一つに溶け合っていました。周囲を囲む魂に見守られて、本懐通り男子(おのこ)として胡蝶丸は死を迎えます。源吾は彼の最期を見届け、宿年のわだかまりが解けた思いの中で死を迎えようとします。

源吾の最期を見届けた武士は、衆道を知るとみえます。彼の「羨ましい」という言葉に、契りを交わしながらも想いを遂げられなかった過去を感じさせます。源吾と契りを交わした武士が乗り移っていたのかもしれません。源吾の命が消える瞬間、すべての魂が重なり溶け合います。

彼らにとって切腹腹切りは、男としての誇りを保ったまま死に臨む唯一の方法と思えるのです。腹に刃を突き立てる時、既に此の世のすべてのしがらみ屈辱は消えて、男として死に立ち向かうピュアな精神だけが彼らを支配するのです。自らの肉体に加える苦痛こそは、ただ無垢な魂を昇華させるための闘いであったように思えます。

筆拙く、このような言い訳を付け足す事をお許しいただければ幸甚に存じます。
最後にこのような拙作に連載挿絵の労をお取りいただいた「切腹ごっこ」様に、感謝の言葉を述べさせて頂きます。ありがとうございました。


       kiku 拝
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by kikuryouran | 2007-12-09 04:44 | 男色衆道 | Comments(1)

衆道者奇談 (四)

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 衆道者切腹

二人は新しい下帯だけを着けて向かい合い胡座を組んだ。
「そなたはこれを。」
源吾が自分の脇差を差し出した。
「わしはそなたの短刀を使わせてもらおう。」
鞘のままに各々膝前に置いて見詰め合う。
胡蝶丸はすでに色稚児とは見えなかった。か細く見えた身体が頼もしくも凛々しく見えた。
「胡蝶よ、これは情死ではない。そなたはもうわしと同心、男として衆道契りに殉じて死ぬる。最期は刺し違えて共に逝こうぞ。」
「私は男子(おのこ)として、契りに殉じ腹を切ります。」
しっかりした声で前を見て礼をした。

源吾にはすべてが夢のように思えた。俺は今衆道に殉じ、この若者に腹切らせるために死ぬる。生きたいと思って生きてきたのではなかった。死ぬ機を求めて彷徨っていた。そしてやっと辿り着いた。何もかもが今終わる。これでいい、これであの方との約束も果たせる。

胡蝶丸は見下ろしながら腹を撫ぜ下ろした。
『今自分は男子として死ぬる。』そう言い聞かせて下腹を揉んだ。色稚児と蔑すんだ者たちの顔が浮かんだ。かって見た腹切る若者を思った。あのように今死ねる。鞘を払い刀身を懐紙で巻いた。男の証しが誇らしげにまた勃起していた。息苦しい緊張にすべての筋肉が硬直し震えていた。息が出来なかった。大きく息を吸う。張りつめた静寂の時が流れていた。その時胡蝶丸は不思議にも懐かしい思いに捉われた。

ぎこちない手の動きが、激痛への怖れと闘っているのをうかがわせた。胡蝶丸の白い肌が紅潮してゆく。細腰伸ばして腹を撫ぜ揉む姿はさすがに哀れとも見えた。源吾は黙ってそれを見ていた。遠い記憶が浮かぶ。そうだ、やはりこれはあの時の俺だ。源吾は心の中で叫んでいた。あの時俺は恐ろしさにかられて逃げた。恐怖が蘇る。彼は自分を励ますようにふぐり袋を握り締めた。

胡蝶丸が腹に突き立てようとする。虚しく肌に傷をつけて刃先は跳ね返された。幾度も突き立てようと試みる。腕が震えてためらいの傷をつけるばかりだった。
「恥ずかしゅうございます、私にはやはり・・・。」
悔しさに涙がこぼれた。
「切れませぬ・・・。このような軟弱者、いっそ楽に殺して下され。」
下を向いて嗚咽を漏らした。

源吾が前の短刀を取る。布で巻き込み握り締めた。両膝立ちに伸び上がる。もう迷いはなかった。すべての筋肉に力を込めた。下腹を撫で揉む。一瞬懐かしい顔を見た。自分の前で見事に腹を切っていった人々が誘っていた。
『源吾、男子(おのこ)として果てよ。』
声が聞こえた気がした。
「見よ胡蝶。」
源吾が叫んだ。呼ばれて顔を上げる胡蝶丸。その刹那、源吾は両手で振りかぶった短刀を腹にたたきつけた。白い股間が一気に赤く染まっていった。
「後れるでない、造作もないこと。そなたの想いも見せてもらおう。」
苦痛に顔を歪めながら、前を睨んで声を震わせる。
「うむぅぅ・・・、さあ・・胡蝶・・・男子であろうが・・・。」
「源吾様・・・。」
伸び上がり、腹に突き立つ短刀を握ったまま源吾は目を離さなかった。しばらく二人は見詰め合った。
「契ったであろう、死に遅れては・・ならぬ・・・。」
逞しくも厚い胸板が震えて汗を噴く。
「契った・・・。死に遅れる・・・。」
胡蝶丸の心の中で何かが弾けた。不思議な光景が浮かぶ。周囲の人々が次々と腹を切っていた。男も女も腹切り悶えていた。源吾の中の記憶だと胡蝶丸は直感した。源吾が目で頷いた。
「そうだ、そなたはわしだ。あの時のわしだ。切れ、切るのだ。死に遅れてはならぬ。」
すべては錯乱の中の夢であったのかも知れない。

胡蝶丸は見詰め合ったまま膝立ちになる。操られているように両手で握り締めた刃を腹にたたきつけた。刃先は肌を突き破って肉を貫いた。激痛が走った。
「あううううう・・・。」
唇を噛み締めて叫びをこらえる。突き立つ刃を握って、膝立ちに若者の肉のすべてが震え痙攣していた。血がゆっくりと滴り始める。
「それで・・・よい・・。ようした・・・。」
二人はすべてを共有しているのを感じていた。心が通い合い一つになった。源吾が満足そうに顔をほころばせる。
「共に逝こうぞ。」
源吾の膝間にはすでに血溜まりができている。腰を頼んで右に割いた。傷口が開いて、臓物さえもが溢れ垂れた。
「うむうううう、むうううう。さあ、わしに倣うて・・・。」
励まされて、胡蝶丸も腰悶えさせながら引き回す。
「あううう、うううう。」
身を捩じらせ、喘ぎ呻いた。
「胡蝶・・・。見事ぞ、見事な切腹ぞ。」
源吾がにじり寄り、胡蝶の腹に刺さった脇差を引き抜いた。胡蝶丸も源吾の腹から短刀を抜き出す。互いの胸に刃先を当てた。これが最期としばらく見詰め合う。
「逝こうぞ。来(こ)よ。」
胡蝶丸が見上げながら身を投げる。源吾が胸板突き上げると、骨を断ち肉を裂く手応えを感じて刃先は背までも貫いた。胡蝶丸の目が満足そうに腕の中で見上げていた。
「これで・・・、これでもう・・・。」
男として散る甘美な死が胡蝶丸に訪れようとしていた。突き上げる快感が全身を貫いた。何度も精を放つ。抱きしめられて、彼はゆっくりと闇に包まれていった。

刺し違えるはずの短刀が、胸肌を裂いただけで胡蝶の手からこぼれて転がった。胸に脇差を突き立てられたままの胡蝶を横たえる。血達磨になりながら源吾は死に切れぬまま残された。
「やはりわしは、楽には死ねぬか。胡蝶の顔を見ながら逝くのが幸せかもしれぬ。」
転がった短刀には手が届かず、脇差は胡蝶を貫いて抜きもならず。流れ出す血が力を奪っていく。やっとすべてが終わったと思った。激痛に襲われながら安堵で満ち足りた気分だった。
意識が朦朧としていく。寄り添うて死が訪れるのを待つ。眠るごとくの顔を見ながら美しいと思った。見ているだけで心が安らぐ。
「待っていよ、わしもすぐ行く。もう離さぬ。そなたはわしをここまで導いてくれた。」
源吾は愛おしそうに髪を撫でた。二人の魂が溶け合う気がした。苦しみはもうなかった。安らかな静寂の中で気が失せていく。いつか外が白み始めた。


 衆道者の最期

騒がしい足音で源吾は気が醒めた。まだ自分は生きているのか。身体はもう動かなかった。周囲を目で探る。雑兵と目が合った。
「見ろ、まだ息がある。」
足で蹴られて仰向けにされた。
「腹を切ったようだがふんどしが緩んでおるわ。」
あざ笑うように、槍の穂先で血に染まった下帯を跳ね除けられた。源吾は虚ろに見上げているしかなかった。
「若い方は見事に果てているとゆうに、こ奴はマラを立てて死に切れぬような。」
見下ろす雑兵たちがどっと笑った。血まみれの男根が天を衝いて猛っていた。
「尻を突いて果てさせてやれ。」
また笑い声が響いた。源吾は四肢を開いて見下ろされていた。
『そうじゃ、胡蝶は見事に果てたであろうが。わしの身体はどうしようとも構わぬ、胡蝶には触れるな。』
男たちに言おうとしたが声にならなかった。

「笑い声が聞こえたが・・・。このようなところで何をしている。先に進まねば斬り捨てる。」
武士が入って来て一喝すると、男たちが慌てて出て行った。一人残った武士が周囲を見渡す。胡蝶を見、源吾を見てさすがに様子がわかる。
「衆道念者でござるか。」
優しい眼差しで武士が言った。源吾が目で頷いて笑う。
「羨ましいご最期じゃな。」
しばらく見詰め合って心が通うた。
「介錯仕ろう。」
見下ろして、武士が槍先を源吾の喉元にあてた。
『かたじけない・・・。』
声にならぬが、見上げて礼を送り目を閉じた。

源吾の脳裏を一瞬の内に夢が駆け抜けた。微笑む胡蝶が現れる。衆道契りを交わした武士が現れ胡蝶丸と重なった。周囲に幾つもの懐かしい顔が笑っていた。
「源吾、ようした。待っていたぞ。」
逞しい体に抱きしめられ貫かれた。快感が全身を走り抜けた。

鈍い音を立てて槍が喉元を貫いた。その瞬間、源吾は目を一杯に開いて武士を見上げた。仰け反りながら口から血が溢れ出す。何かを伝えようと唇を震わせたように見えた。股間にそそり立つ男根が命水を噴き上げて宙に放った。拡げた四肢を痙攣させながら放ち続け、やがて満足そうに目を瞑った。
「仔細は知らぬが衆道者(もの)には幸せな最期、さぞや縁(えにし)の深い二人であろう。両人ともに、満足そうな顔で果てておられる。蓮の台(うてな)で仲睦まじゅうお暮らしなされよ。」
心の込もった合掌をして武士は部屋を出ていった。
外では、侍達が待っていた。
「何をしておられた。手柄に遅れましょうぞ。」
「よいわ、すでに勝ちは決まった。根切りの手伝いなどはしとうない。ここには誰も立ち入らせてはならぬ。火をかけよ。」
「何を見られた。」
「男が見事に腹を切っておった。」
足軽が周囲から火を放つ。燃え落ちるのを見届けるまでその武士は動かなかった。見上げるともう日は高く、山頂の本堂からも黒煙が上がり始めた。



        完
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by kikuryouran | 2007-12-08 02:40 | 男色衆道 | Comments(0)

衆道者奇談 (二)


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 男子(おのこ)として死ぬる

山のあちこちに打ち捨てられた宿坊修行場が点在している。空が白み始める頃、二人は小さな宿坊に入った。いずれは四方から攻め登られて焼かれようが、二人だけの時をしばし過ごせれば充りた。
「疲れたであろう。しばらく休もう。」
源吾が太刀を抱いて板の間隅に座り込むと目を瞑る。側に添うて若者が腰に手を回した。

どれほど眠ったものか、源吾が目覚めるともう日は高く、すでに若者はいなかった。昨夜の事を思い出す。『二人だけで死ぬるか』などと、女ならまだしも、初めての色稚児にどうしてあんな事を言ったものか。直前まで落ちる算段を考えていながら、どうかしていると自分でも思う。
一人なら落ちる自信はあった。これまでも囲みを抜けて何度も逃げている。しかしあのような者と共にでは落ちられまい。あの時なぜかあの若者が愛しくて、俺はああ言わずにはいられなかった。あの稚児はどうしただろう、逃げたのか。

若者が入って来る。昨夜の稚児とわかるまでしばらくかかった。身なりも昨夜のそれとは違っていた。
「お目覚めでございますか。よう眠っておられましたので、戻って食べるものなどを少しばかり。」
昼間に見る彼は屈託もなく笑って普通の若者に見える。夜の顔を思い出そうとしたが今は素面、あの妖艶さは窺えなかった。年齢はと思う。昨夜は幼くも見えたが十六、七にもなっていようか。
「そなた、歳は?」
「もう十六になりました、稚児というにはもはや・・・。」
声までが違うように思えた。世慣れた様(さま)は、生きてきた世凌ぎをしのばせ、それ以上は訊けぬ雰囲気を感じさせた。習い性になっているのか、さすがに気が行き届いて世話をする。知らずに会えば夜の顔など思いも寄らぬ。言葉や物腰も、どこにもいる律儀な若者としか見えなかった。それでやっと気がついた。昼の顔では目立たぬがこの若者は見かけた顔、源吾はすれ違うばかりで気にも止めなかった。

「裏に井戸が。汗をお流しなされては。」
周囲を木立に囲まれて木々の間から裾野が広がっている。まだ日差しは強かったが、木陰を流れる風は、もう夏も終わろうとする爽やかさを感じさせた。近くで戦があるとは思えぬのどかさだった。
汗と埃にまみれたものを脱ぎ捨て、源吾が水をかぶると側から若者が垢をこそぎ落とした。身体に残る傷痕を、一つ一つ確かめるように指でなぞり由来を訊く。笑って答えずに源吾は身体を預けて立っていた。厚い胸、引き締まった腹と尻、太い脚、すべての筋肉が鍛えられ張り締まって、恥部を隠そうともせず立つ姿は頼もしく見えた。
「様子はどうであった。」
「ふもとの砦がまた落ちたとか。皆酷い殺されようだそうでございます。明日にも四方から攻め寄せられるとの噂でございました。」
「もうひとたまりもあるまい。死人の山であろうな。」
他人事のように源吾はつぶやいた。
尻の谷間を洗われて男根が反応を示した。顔を見合わせて二人が目で笑う。
「昨夜は世話をかけた。そなたも脱ぐがいい、背を流してやろう。」
若者はしばらく躊躇い、何度も促されて裸になり背を向けて立った。細い腕と脚、なで肩で尻も小さい。荒事に向いていないのは一目でわかる。女かと思えるほどの白い肌、夜目には妖艶とも見えた身体が、明るい日の下では頼りなげに見える。恥ずかしそうに下を向いた。
「背を流してもらうなど・・・、初めてでございます。」
前を向かせると前を手で隠していた。
「恥ずかしがることもなかろう。互いに舐め合うた仲ではないか。」
笑いながら水を頭からかけると、彼も嬉しそうに笑った。初めて見る笑い顔は、明るく好もしかった。立たせて身体を拭ってやる。
「面白いものだ、この細い身体で道具はわしよりも立派なものを下げておる。」
見比べながら源吾が面白そうに笑った。若者のそれは堂々と濃い叢から垂れて既に男であることを主張し、まだ大人になれぬひ弱な身体が不思議な均衡を感じさせた。源吾は隅々までも拭ってやる。若者の汗の匂いが鼻腔をくすぐる。彼は抗いもせず、黙って源吾から目を離さなかった。
「この身体が間もなく虚しゅうなるとはな。無惨な・・・。」
「死なねばならぬなら、腹を切りとうございます。」
独語のように若者が言った。
「健気(けなげ)なことを・・・。苦しいぞ。」
「せめて最期は男子(おのこ)として恥ずかしゅうなく果てたいもの。私には無理でございましょうか。」
顔に真剣な想いがこもっていた。
「私は幼い頃より、男らしくは生きられませなんだ。せめて最期はと・・・。」
源吾は不思議なものを見るように若者を見た。
「男子として恥ずかしゅうなく果てたいとか・・・。」
以前に自分も同じ言葉を言ったことがある。同じことを考え、果たせなかった。この時彼はこの若者に自分との運命を感じた。
「この腹を切ろうというのか・・・。」
若者の腹に指を這わす。筋肉を感じさせず脂肉もない薄い腹だった。指で押すと腸(はらわた)の弾力さえも感じられた。中央の窪みはきれいな形をしていた。すぐ下には濃い草むらと男の証しがある。昨夜のことを思い出して手が伸びる。握って顔を上げた。若者は源吾から目を離さずに立っていた。
「切れるか。」
「はい。」
それだけ言って若者は頷いた。源吾は無言で細い身体を抱き寄せる。柔らかい女のような身体だった。彼の手を取って自分のものを握らせた。

そうだあの時と同じだと源吾は思った。あの人は同じように抱いてくれた。同じに訊かれて同じ答えをした。この若者はあの時の俺だ。俺を抱いた胸は逞しく、この指の中で男根は膨れ勃って固くなった。男の匂いとはち切れるように盛り上がった肉の感触を思い出した。
「源吾、怖れてはならぬ。腹切り男子(おのこ)として果てよ。」
あの人はそう言って俺の前で腹を切った。流れ出す血が広がり臓腑が溢れた。最期に俺と目を合わせて首を落とされた。血が噴き上げ、目の前に首が転がった。俺はその時恐怖に襲われた。周囲の人たちが次々と腹に刃を突き立てた。女さえもが見事に腹を切った。呻く声と血の匂い。死に遅れてはならぬ。見下ろす腹にあてた刃が震えた。男として果てねばならぬという思いと、死ぬる恐怖とが闘っていた。心の底に抑えていた記憶が蘇った。

心地よい風が流れてせせらぎの音が聞こえていた。遠くでのどかに山鳥が鳴いた。源吾のものを握って、腕の中に若者がいた。
「腹切りて死ねば男として最期を飾れようが。」
「共に死んで下さいますのか。」
源吾は答えなかった。若者は源吾の肉棒を握り導き、刃のごとくゆっくりと自分の腹に這わした。源吾も彼のそれを握って下腹にあてる。互いに目を見て離さなかった。握り締める男根が硬度を増して腹を突く。交差させ互いに己の腹に這わした。差し違えているように覚えて、源吾は腹を突き出し握る指に力を込めた。
源吾はこの若者を愛しいと思った。悶え苦しむであろうが、せめて望みのままに死なせてやりたい。この若者と共に自分も腹切り死にたいと思った。魂が呼び合うとはこのようなものかとおぼろげに感じていた。
握り合い見詰め合って立ち尽くしていた。遠くで地鳴りのような戦(いくさ)の音が聞こえてきた。山に木霊する弾ける銃声も二人の耳にはもう入らなかった。貪り合うように口を吸いもつれ合った。指の中で男根が膨れ上がり、互いの腹に命水が弾け散った。


 稚児の覚悟

「様子を見てくる。必ず戻る、待っていよ。」
夕刻になって源吾が出て行った。彼は薄暗い宿坊に一人残された。

幼い頃より稚児を仕込まれ、色を生業(なりわい)にして世を渡った。慰めた男は数も知れぬ。放つが欲の男ばかりを見てきたゆえか、人の情など信じなかった。そんな自分があの人を見て心魅かれた。ただ一度竿を咥えて命を預けるなどと、不思議な縁(えにし)と思うしかない成り行きといえた。

慰めに口を使うは普段の手管、しかしあの人のものを含んだ時は何かが違った。心の中の糸が切れた気がする。血が逆巻き、気をやる自分にうろたえた。普段なら口で受けても吐き捨てるが、あの人のものは貴いもののように思えて身内に入れた。男の命を注がれた気がした。あの時、共に死ぬる予感があったのかもしれぬ。
堅気には侮られるが常の身で、あの人の言葉には蔑む気持ちは感じられなかった。横たえられ開かれて含まれた。戯れにはあったことでも、あれほどに心こもって扱われたことはなかった。身をまかせ心が溶けた。なぜか涙が溢れて止まらなかった。
『二人だけで死ぬるか』などと思いもかけぬ言葉が、なぜかあの時心に響いた。

戦が続く狂気の世、死は常に身近かにある。いつどのように果てようとも覚悟はあった心算でいた。世を捨てて、それゆえに逃げ遅れたといってもよかった。そんな自分が嬲(なぶ)り殺しにされる姿を想像した。根切り虐殺となれば容赦もない。名のある者は死に場を与えられても、力ない者は慰め物、裸に剥かれ犯されて殺される。そのような光景は幾つも見ていた。見目良い者は死骸になっても辱められた。色稚児とわかればなおのこと、女以上に辱められいたぶられる。死ぬる覚悟はあったが、嬲(なぶ)られて殺されるのは嫌だ。

死を前にして、たとえ味方とてもすでに狂気、突然に踏み込まれて蹂躙されるかもしれなかった。灯りが外に漏れるのが怖くて、暗闇の中で部屋の隅にうずくまっていた。もう生きる事は考えていなかった、ただ死に方だけを考えていた。

前の戦(いくさ)で敗れた武将が両軍の見守る中で切腹し、その傍らで若者が腹を切った。白き肌を諸肌脱ぎ、誇らし気に見渡して腹に刃をあてる。美しいと思った。羨ましかった。死ぬるならあのように死にたいと思った。突き立て悶える様は悩ましく、真っ赤な血が若者の膝を染めた。見事に腹切る姿を人々は声もなく見守った。自分が腹を切っているような気がして身体が震えた。彼に倣って自分の腹に指を這わした。気が昂ぶり男根が突き上げていた。彼は見事に腹切り果て、皆が感嘆の声を上げた。その瞬間、精を放った。彼の悶える声が耳に残った。

自分もあのように死にたい、あのように・・・。闇の中で思い出し、男の印が痛いほどに帆を張った。自分のような色稚児が切腹などと、望んでも出来ぬことと思っていた。しかしあの人の側でなら・・・。抱かれながらそう思った。自分でもあの人の側でならきっと立派に腹を切れる。着物の下で腹を撫でてみる。血が騒いだ。互いの男根を腹に這わした感触が蘇る。指が握り締めたものを思い出した。あの時確かに切腹すると心に誓った。

色稚児は、客を喜ばせるためにいくことはあっても、芯から気をやってはならぬと教えられた。昨日から自分はどうかしていると思う。自分が抑えられなくなっていた。前を開いて握り締める。肉塊は指の中で熱く猛っていた。目をつぶると、晴れやかな切腹座に自分が居た。腹切る刀が冷たく光る。怖かった、怖かったが雄々しき男根は自分が男であることを思い起こさせた。自分もあの若者のように腹を切って死ぬ。果たせばもう侮られまい。体中を血が駆け巡る。片手で腹を揉みながらゆっくりとしごき始める。頼もしい顔が浮かんだ。
「源吾さま・・・、参ります。」
切腹刀を突き立てた瞬間、快感が走った。手が激しく擦りしごいて、一気に噴き出した男の命が宙に散った。暗闇の中でいつまでも全身の筋肉が硬直し震え痙攣していた。

暮れた静けさの中でもう虫が鳴き始めた。男はなかなか戻ってこなかった。これほどに遅いのは、置き去りにされたのかもしれない。あの人一人なら落ちられたのかもしれぬ。『共に死んで下さいますのか』と訊いたが答えてはくれなかった。暗闇の中ではわずかな時が永遠とも思えて、男がもう戻って来ないのではないかという不安と闘っていた。
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by kikuryouran | 2007-12-06 02:04 | 男色衆道 | Comments(0)

衆道者奇談 (一)

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夜の見張り

僧兵数千が守る比叡の山も信長軍に囲まれて既に孤立していた。山の要所にある砦は次々落とされ、すでにこの砦にも残る者は少なかった。山間に吹く夜の風はもう秋の気配を感じさせている。源吾は一人で夜の見張りに立っていた。金で雇われる渡り武士、負ければ命の保証はない。周囲の繁みには敵の物見が潜んでいるかもしれなかった。彼はどう落ちるかと考えながら辺りを見回していた。
『負けと決まれば命まで賭ける義理もない。俺一人が消えたとてもう気に止める者もあるまい。』
砦内から忍んで近付く影がある。戦場には不似合いな色小袖、小柄な身体は暗闇では女とも見える。落ちる機会を逃したのか、僧を相手の色稚児とわかる。

「これからいかがなりましょう。」
若者が小声で話しかけた。
「信長は根切りにせよと厳命しているそうな。捕らえられた者は老幼男女構わず殺される。すでに山裾は囲まれ逃れる術は無いと聞く。闘う者は討ち死に、なぶり殺しが嫌なら自害しかあるまい。」
源吾は顔も見ないで答えてやる。
「ここにいる者は皆死ぬのでございますな。」
「死ぬのは怖いか。」
「あなた様は怖くないのですか。」
「怖い時には女を抱く。」
源吾の言い様は、つきはなすように冷たかった。
「ここに女はおりませぬ。私でよくばお放ちなさいますか。」
明日にも死ぬると聞きながら、肝の据わった物言いが若者を不敵に頼もしく感じさせた。
「そなたらの手を借りると法楽浄土を見るという、願ってもないことじゃが。」
品定めするように若者を見る。髪は小姓髷に結い顔立ちは美形、月明かりに妖艶な色気を感じさせた。戦を前の昂ぶりを鎮めるために精を放つのは常のこと、源吾は苦笑しながら言った。
「頼もうか。」
嬉しそうに頷いて彼は身体を寄せてきた。

敵に背を向け、矢防ぎの盾に寄りかかって源吾は立った。小柄な身体が膝元にうずくまり、源吾の袴の紐を解きふんどしを外した。股間が心地よい夜気に晒される。半身は敵の目にさらされているが、味方からは見張りに立っているように見える。
「汚れていよう、すまぬ。稚児殿の手は初めてじゃ。」
幾日も湯を使ってはいなかった。垢と汚れで自分でも異臭を放っているのがわかる。
「お気遣いなさいますな。すべてお任せなされて。」
遠くからはうずくまる稚児の体は見えないが、近くに来れば何をしているかは明らかになる。今襲われればひとたまりもない。しごかれながら死ぬのもよかろうと思いながら、股間を預けて空を見上げた。雲間を月が流れていく。柄にもなく死ぬる予感が源吾の頭をかすめた。
柔らかい手で探られ包まれて、男根(おとこね)はすぐに膨らみ始めた。指が内腿を這い蟻渡りを探る。やがて立っているのが辛いほどに両脚が震えだす。よほどに慣れた指使いだった。熱いものがこみ上げて、一気に体温が上昇したように思った。
「いかにも極楽じゃな。このような・・・。」
若者が固くも勃ったものに口を付けた。
「そのような・・。汚れておる、それほどにしてもろうては・・・。」
雁首を舌がなぞる。根元まで吸われて耳の奥で早鐘が鳴った。尻の穴までも指で攻められ、体中の血が逆巻いた。叫びそうになるのを堪える源吾の脳裏を何かが走り抜けた。
快感に貫かれてもう我慢が出来なかった。稚児の頭を腹に抱き締め、全身を震わせて源吾は放った。すべての筋肉が強張り痙攣を続けていた。しばらく含まれたまま余韻に浸った。生涯でこれほどの快感は初めてだった。若者は丁寧にふんどしを付け直し、袴を穿かせ結んでから立ち上がった。
「ご無礼申しました。」
「お飲み下されたのか、ありがとうござった。いかにも極楽。これほどの思いは初めてであった。」
「私もあなた様のお精を頂き嬉しゅうございました。」
愛しさを覚えて抱き寄せてやると、彼は女のようにしなだれかかった。


死出の道連れ

これまで何故か心にかかっていたが、色稚児の後ろめたさで声をかけられなかった。あの人が一人見張りに立ったのを確かめて近付いた。
膝元にひざまずいて、袴を脱がせふんどしを外した。陰部の濃い叢がむせるような異臭を放っていた。萎えた竿とふぐり袋を手で包み、引き締まった臀部を撫でて内股に指を這わせる。すぐに男は屹立し鼻先まで届いた。男色の手管で指を尻に這わし、菊座に挿入した。内襞(ひだ)が指先を締め付ける。この人は男と契ったことがあると指先が確信していた。
雁首を口に含み舌で恥垢を拭う。口いっぱいに男の味と匂いが広がり、全身の血が沸騰して頭が眩んだ。巨大な潮が押し寄せてくる。もう何も考えられなかった。突き立てた指が菊座を攻めながら、夢中で口を使った。頭を下腹に抱き締められた。引き締まった腹の肉が震えて口の中で男根が膨れあがる。その時、男の命のすべてを注がれる予感がした。自分も昇り詰めようとしているのがわかった。男が全身を痙攣させて精を放った。押し寄せる巨大な波に飲み込まれて自分も精を放っていた。このようなことはないことだった。

「そなたに礼をせねばならぬ。」
源吾が銭を出そうと懐に手を入れる。
「明日にも死のうかという時に、気持ちを銭で購(あがな)われるお心算か。お止しなさいませ。」
笑いながら若者が止めた。
「覚悟はついたつもりでも、死ぬのは怖うございます。」
彼はポツリと言った。源吾は手を握ってやった。股間に手を伸ばすと濡れていた。
「そなたも果てたか。」
色稚児は果てさせて果てぬものと聞いていた。抱き上げて草むらに寝かせた。恥かしそうにするのを目でなだめて、源吾はひざまずいて裾をはねた。夜目にも白い肌が浮き上がる。下布がべっとりと濡れていた。
「共に果ててくれたのか。嬉しい事じゃ。」
股間は精水と若者の汗の匂いがしていた。縮れた繁みの中心に萎えた男の印がある。懐から手ぬぐいを出し拭ってやる。誘われるように口に含んだ。
「そのような・・・、そのようなもったいない。」
柔らかいものを舌で拭うと精水の匂いが広がる。果てたばかりの男根が少し硬度を増した。
身をよじって逃げようとするのを抑えられ、若者は観念したように力を抜いた。
「先ほどの礼じゃ。そなたのように巧みではないが、わしとて男同士の交わりを知らぬではない。」
若者の口から喘ぎが漏れた。口の中の肉塊が源吾に懐かしい感触を思い出させた。人肌が恋しかったのかもしれぬ。死ぬる予感と放った余韻がそうさせたのかもしれなかった。

月を見上げて二人は腰を下ろした。
「恥ずかしい姿をお目にかけ申しました。」
下を向いたまま、消え入りそうな声で礼を言う。
「そなたのような色者は、すでに落ちたと思うていたが。」
「数日、急な病に臥せっていて逃げ遅れました。」
「わしもこのように因果な稼業、これまで随分人も殺した。すだれにされても文句は言えぬが、あまりに惨い死に方はしとうない。」
いつかもう、長い知己のような話し方になっていた。
「私とて惜しい命でもございませぬが、嬲(なぶ)り殺しは嫌でございます。」
「助けてやりたいが逃れる道はすでに閉ざされておる。明日明後日(あさって)にも敵がなだれ込み、わしもそなたもなで斬りになろう。先ほどまでは惜しい命でもなかったが、何故かわしも死ぬのが怖くなった。」
各々が無惨にも殺される姿を思い描いて、二人は目を合わさなかった。しばらくの沈黙の後で源吾がポツリと言った。
「いっそ、二人だけで死ぬるか。」
若者が顔を上げて源吾を見る。
「どうせ助からぬ命なら・・・。」
逞しい胸に華奢ともみえる身体がしがみつく。月はもう山の端に落ちようとしていた。
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by kikuryouran | 2007-12-04 21:07 | 男色衆道 | Comments(0)

衆道禁断 前編


申し渡し

「其の方ども、衆道禁断のお触れを承知ながらの公言許しがたし。重き罪過にてお仕置き仰せ付けられるところ、お慈悲をもって切腹賜る。有難くお受け致されよ。」
「有難くお受け仕る。お触れは承知ながら情抑え難く、秘しての振る舞いは潔しとせず。お仕置き覚悟の契りでござれば、切腹賜るは有難き限り。衆道想いに殉じて果てるは本懐でござる。」
既に装束調えて、並んで受ける切腹の沙汰。月宮兵庫は悪びれた風もなく答えた。後ろに控えるのは佐倉京弥、殿お小姓組にて美童の誉れも高かった。
「京弥殿、そなたもよろしいな。」
「兵庫様言上の通り、我等は同心。若輩ながらこの度の仕儀、私も同罪は覚悟のうえ。切腹有難くお受け申します。このお方のお情けに殉じて、腹切り果てるは喜びにございます。」
「兵庫、そなたはこの太平の世に良い死に場所を得た。京弥の心栄えも見事なものじゃ。羨ましいとさえ思える。」
検視申し渡しの武士は感に堪えぬように二人を見た。

此の頃当藩では、武家衆道男色の禁令が出されたが長年の風潮はなかなか納まらなかった。
「京弥殿、拙者は無骨ゆえ麗句は知らぬ。ただ一途、そなたを懸想致しておる。想いを遂げれば死すとも悔いぬ。」
「兵庫様、衆道禁止は当家のお定め。そのように申されても・・・。」
兵庫は無骨者として自他共に許すが、信義に厚く藩内での信望も厚かった。その兵庫から命も捨てての懸想と聞いては、京弥も心動かぬはずはなかった。
「命を賭けてのお覚悟と聞いて、命惜しさにお断りも出来ませぬ。」
京弥はただ一度肌を許した。

藩目付に密告があり、兵庫は取り調べを受ける事になった。
「そなたにはすまぬが、命惜しさに口を閉ざすなどわしには出来ぬ。潔くお答え申す。」
「若輩ながら私も武士、契った上は悔いは致しませぬ。お咎めを蒙るなら潔く共に。どこまでもお供致しましょう。」
京弥は十六、若いながらも文武に才を認められて想いを寄せる男女も多かった。兵庫は目付の調べにありのままを述べ、京弥も契りを隠すことなく裁きを乞うた。

悔いぬ覚悟

二人は裁きの沙汰を待つ間、兵庫縁類の屋敷に預けられた。その家の主は旧知の仲、屋敷の中の離れ座敷に二人を押し込めた。
「そなたらは共に切腹を願うたとか、数日でお沙汰はあろう。人は遠ざけてあるゆえ心置きなくお過ごしなされよ。」
その家の主は情を知る者であった。思いもかけず、二人は共に過ごすこととなった。常住に不足はなく、二人だけの時は幸せだった。互いの想いを語り合い、確かめあった。

数日が経ち、夜に入ってその家の主人が訪れた。
「お裁きが決まったそうな。明日お使者が来られて、即日この家で切腹賜る。家中立会いを望む者は、臨席許されるそうな。」
「それはまた有難いご配慮、心がけて致しましょう。」
「お望みあればお聞きいたしておく。」
「お世話になり申した。我等両名もはや覚悟も確かめ望みとてはござらぬ。明日は並んで腹切り果て、想いを遂げるのみ。お情けあるお取扱い、死すとも忘れませぬ。有難うござった。」
「今宵は人を寄らせませぬ。二人だけで今生の別れを惜しまれるがよい。」
彼が去ると二人だけになった。秋の頃とて虫の声が静けさを際立てた。障子を開けると月が出ていた。

「京弥殿、わしは覚悟の上での懸想、想いを遂げて悔いはない。どのようなお沙汰あるとも、腹切って死ぬる所存であった。そなたまでもお咎めを受けたが悔やまれる。」
縁側に立ち、兵庫は月を見上げたまま呟く様に言った。
「命を懸けて望まれるなど、男としてこれほどの幸せはございませぬ。私とて悔いるものではありませぬ。」
京弥はきっぱりと言い、二人は無言になった。

京弥は、兵庫の背中を見ながら自分の気持ちを確かめていた。想いを打ち明けられて、その人となりに接する内に心許した。衆道の何かは知らぬ、ただこの人に身を預けて死ぬるなら本望と思えた。命懸けるほどの我が身への想いに、覚悟定めてもう迷う事はなかった。武士は死に際散り様が大事と教えられ、生ぬるき太平の世に、このような仕儀ながら切腹賜り死に場所を得た。これも運命寿命であろう、此の人と腹切り果てるなら悔いはないと覚悟も固まった。

もう秋も深かった。月明かりの庭を見ながら兵庫は思いを巡らしていた。我が身は覚悟の上の懸想、京弥はまだ春秋も知らぬ身で、健気にもこのわしと共に腹切り悔いぬと言うてくれる。若いながら、才も並のものではないと承知していた。彼には想いを寄せる者も多いと聞く。その京弥を道連れに腹を切れるとは、これほど幸せな死に場があろうかと思った。兵庫には死が甘美と思えた。月を見上げながら彼は腹切る京弥の姿を思った。
「そなた、腹を切るのは怖ろしゅうないか。」
彼は言いながら振り返った。
「兵庫様と共にであれば・・・。」
京弥が見上げて応える。
「この場で切ってみよ。」
しばらく顔を見合し、京弥は頷くと前を寛げた。夜目にも白い胸元から下腹までも寛げて、傍らの扇子を執り下腹に突き立てる。
「このように・・・。必ずし遂げますゆえ、若輩者とのご懸念は無用。」
扇子の要は柔らかい肌に食い込み、顔は見上げて苦痛をこらえ歪む。力任せに下腹を這わせると扇の骨は折れて砕けた。白く柔らかい膚に赤くも筋を残していた。
「必ず後れはとりませぬ。ご心配ならばこの場でお手にかけられよ。」
京弥は目に涙を浮かべていた
「いや、心配したのではない、そなたの切腹姿を思うてみたゆえ。わしも負けずにせねばなるまいな。」
彼は京弥を見詰めて笑いながら腹を撫でた。

「水を使おう。そなたも脱げ。」
月明かりの下、井戸端に出て二人は水をかぶった。
「きれいな月でございますな。満ちております。」
京弥は兵庫に背を抱かれながら見上げて言った。
「満願成就の月であろう。明日はそなたと共に腹を切る。」
「私に切れましょうか。」
「不安か?そなたなら見事に切れよう。」
胸を抱く手に力を込められ、後ろから伸びた手がふぐり袋を優しく握った。兵庫のものは既に屹立して腹と背に挟まれていた。両手を後ろにまわして腰を抱き寄せ京弥も想いをあらわす。押し付けられた男根の形が背に感じられて首を回して唇をせがんだ。抱かれた身体が震え硬直して、指の中で精を吐いた。
「兵庫様・・・。」
指はゆっくりしごいて吐き出させてやる。痙攣しながら背を押し付けて、京弥は後ろ手に抱く腰に力を込めた。背肉にはさまれて、兵庫も震えて果てるのがわかった。
「京弥・・・。」
向かい合い抱きあうて口を吸う。残り雫を垂らしながら男がからみあい、合わされた胸が逞しかった。月が恥ずかしそうに雲間に隠れた。


衆道者切腹

庭は十間四方ほどの広さ、武家の庭にて飾り拵えなく、日々鍛錬にも用いられている。その中央に晴れやかな切腹座が拵えられていた。一段高い座敷に検視役と共にこの家の主が座り、周囲には立会いを望んだ者達が並んでいた。
「家中立会いを望む者多く、見届けを許し申した。さよう心得、見事に致されるよう。」
控える二人の衣服は白の死に装束裃袴、京弥はまだ前髪の小姓髷、兵庫は無骨者の面構えながら三十路前の男盛り。晴れ晴れしい婚礼とさえ思えた。
「申し遺す事あれば聞き置きとらす。」
「衆道男色のお咎め蒙り、我等両名これより切腹仕る。」
「其の方ども、介錯は断ったそうな。衆道覚悟がどれほどのものか、見届け申す。」
「ご検分の方々に申し上げる。我等想い秘するを潔しとは心得ず。これにて想いを遂げまする。衆道お心のある方は手本に致されよ。」
周囲を見渡し、家中立会いの者たちに礼をして別れを告げた。京弥も周囲に顔を上げ言葉を継いだ。
「武家に衆道は古来よりの慣わし、兵庫様をお慕い申して、契りに殉じ死ぬるは男子(おのこ)として過ぎた幸せ。若輩ながら腹割きお供仕る。」
声音涼しく凛として述べれば、その若衆ぶりの華やかさを知る者皆、美しさに息をのんだ。

互いの脇差を取り違えて拵えた切腹刀が各々の置かれた。
「京弥、そなたの腰にありしそなたの魂、腹切り裂いてわしの想いを遂げさせよ。」
「兵庫様、あなた様の御(おん)魂にてわたくしも・・・」
向かい合い、兵庫が裃はねて諸肌脱ぎ、腰下までも脱ぎ落とすと、逞しくも引き締まった半身が露わになる。京弥も倣い肌をあらわす。鍛えられたと思える身体は逞しくも、日に照る雪の肌柔らかに、まだ幼さの名残りを感じさせた。
各々前の切腹刀を逆手に取る。腹撫で揉みながらしばらく見詰め合い、今生の名残りを惜しんでいるように見えた。秋の日はうららかに、しわぶき一つない緊張と静寂が覆う。
人々は二人の姿に見入っていた。それは晴れやかな儀式とも思えて、悲壮と感じる者はなかった。
「さあ、京弥参るぞ。」
兵庫が押し出した腹に突き立てた。一瞬苦悶の色を浮かべながらも、気遣うように京弥から目を離さなかった。
「うむうううう・・・・。京弥・・・。」
京弥も倣って突き立てる。
「兵庫さま・・・。」
前髪が揺れ、腰の悶えも艶かしく、滴る血が膝間を濡らす。しばらくそのまま見詰め合った。やがて互いに頷いたかと見えると、一気に切り裂いて、溢れる血汐が膝元を染めていく。苦しげな声が重なり、臍下を一文字見事に割いてにじり寄る二人。かねて通じていたかとみえて、膝交え胸合わせて血塗れた刃先を互いの胸にあてる。刃突き出すよりも胸押し付けて互いの刃を受けると見えて、脇下より互いに腕を回し、首を交わして抱き合えば、互いの胸を切り裂きながら背までも貫く。抱き合うて一つになり、支え合うてしばらく肉震え、やがて動かなくなった。

腰に覆うた装束は赤くも華やかに染まって、二人は抱き合い倒れぬままに動かなかった。
検視役が座敷から降り近付いて確かめる。
「幸せそうに果てておる。誰ぞこの姿を写させよ。」
検視の武士は懇(ねんご)ろに合掌し、そう言い置いてその場を離れた。こと切れたまま、二人が抱き合い倒れぬままの姿を見ながら、立ち会うた人々はしばらく動けなかった。


陰腹(かげはら)

「京弥の切腹は見事であったそうな。」
庭を歩きながら、藩主幸孝が思い出したように呟いた。京弥切腹から、もう数日が経っていた。
「介錯受けず刺し違え、倒れぬままに逝かれたとか。衆道者らしき最期であったと聞いております。」
側に付き添う小姓が答える。京弥とは同じ小姓組として親しい者であった。
「検視役は誰であったか。」
幸孝はそれだけ言うと部屋に入った。
数日後、庭散策の幸孝の前に武士が控えていた。
「先日お尋ねであった、京弥切腹を検視した者でございます。」
側から小姓が声をかけた。
「お庭歩きの最中ゆえ、親しくお言葉をかけられるがよい。京弥殿最期の様子をお話しなされよ。」
顔を上げた武士の顔は、なぜか血の色が薄いように見えた。
「京弥殿御最期はお見事にて、姿絵に残しております。」
後ろに控えた若侍が、一枚の絵を小姓に手渡し幸孝に見せた。二人が肌露わに、抱き合い刺し違えて果てている姿であった。下絵は立ち会うた武士が描き、絵師の手で彩色施されていた。
「先日、お定めに背いて月宮兵庫、佐倉京弥衆道の情を交わし、両名共に切腹致させました。拙者、役儀により検視仕りました。」
報告する武士の顔から血の気が引いていく。側に控える若侍が言葉を継いだ。
「申し上げます。この者、陰腹致しましてございます。その絵に添えた書状は此の者が書きましたもの。命を捨てて殿へのお願いでございます。」
黙って幸孝は目を通した。
「衆道禁止を改めよと申すのか。」
武士が苦しげに身体を起こして前を開く。腹に巻いた白布がすでに赤く染まっていた。
「拙者、秘かに衆道をたしなんでおりましたが、ご両人の潔い最期に立会い、己を恥じましてございます。衆道は武家には古来よりの慣わしにて、衆道契り禁断のお定め、なにとぞご改変下さいます様お願い申し上げます。」
幸孝を見上げながら、彼の顔は苦しげに歪んでいた。後ろに控えていた若侍が、前押し開いて脇差を抜く。
「拙者からもお願い申します。御免!」
腹に突き立て一気に切り割けば、血が噴き出し膝間は赤く染まっていった。
「念者で・・・ござれば・・・。」
幸孝は、苦しむ二人をしばらく見下ろしていた。
「介錯してつかわせ。」
それだけ言うと、彼はその場を離れた。


衆道の覚悟

その前夜、森田嘉平は山﨑市太郎をよんだ。
「明日、内密に殿にお庭でお目通りし、かの二人の切腹の様子を言上することになった。」
「あの姿絵をお見せなさいますのか。」
「うむ、あの絵をご覧に入れれば、衆道の真髄をお汲みいただけよう。」
嘉平は前に広げた絵に見入っていた。
「あの者らは幸せそうに目を瞑っておった。お咎めを怖れて、隠れてそなたと交わる自分をわしは恥じた。わしは殿に衆道禁止をお解きいただく様にお願いしようと思う。」
彼は文机に置いた手紙を目で示しながら言った。
「わしが衆道者とわかれば、そなたに疑いがかかろう。すでに妻は里に帰らせた。あの者はわしの性癖を感じていたゆえ、抗うことなく去んだ。わしは陰腹して殿にお目にかかろうと思う。」
「陰腹を・・・。」
二人はしばらく無言で見詰めあった。
「殿への直訴は重い法度、これまで欺いた詫びもある。衆道者にはよい死に花であろう。しかし、そなたにお咎めが及ぶと思うと心苦しい。そなたの同意がなくば取りやめねばなるまい。」
「それを確かめるためにお呼びなされたのか。」
市太郎は黙って腰の脇差抜き出し、前をはだける。落ち着いた様子で下腹までも露わにした。嘉平は黙ってそれを見ている。腹切る手順を落ち着いた様子で進め、刃先をまさに突き立てんとして市太郎は顔を上げた。目から涙がこぼれていた。
「悔やしゅうございます。あなた様がそれほどの覚悟を固めて、私への迷惑などと。共に腹切り死ねと言われるならまだしも・・・。私の気持ちをそのように・・・。この場でお確かめなさるがよい。」
「もうよい、わかった。許してくれ。明日、そなたに介添えを頼みたい。」
「介添えでございますか。」
「腹切るだけなら助けは頼まぬが、陰腹となれば一人では心許無い。付き添うてもらえぬか。」
しばらく無言で見詰め合った。
「いかにも承知いたしました。お供仕ります。」
市太郎は脇差を鞘に納めた。

翌日,お目通りは昼前の時刻、登城前に陰腹を切った。陰腹は、深く切ってはお目通りまでも体力が保たない。傷口が狭くても浅すぎても傷改めで恥となる。割腹して止血をし、下着衣服を着けねばならない。市太郎に付き添われて、嘉平は下帯だけの姿で腹を切った。刃先を計って八寸ほども切り裂くと、白い下帯が見る間に赤く染まっていった。
「苦しゅう御座いましょう。お気を確かに。」
「浅く切ったゆえ腹内には届いておらぬ。」
嘉平は気丈に答えた。市太郎が止血をし、晒布で腹を幾重にも固く巻き込む。血の臭いをさせてはならぬ。立たせて、血を吸ったふんどしを外し用意の水で血を拭う。苦痛をこらえる嘉平の顔から血の気が引いてゆくのがわかった。股間を洗われ、市太郎の眼前に血濡れた陰茎が膨張して固くも屹立していた。
「お放ちなさるか。」
「このような時に・・・。」
嘉平が恥ずかしそうに笑った。

衣服を着けて青ざめた顔に紅を差してやる。登城姿になると、さすがに気が引き締まり、外見からは普段の様子に見えた。
「お気を確かに。」
「最後に放ったゆえ保たぬかもしれぬ。」
顔を見合わせて二人は目で笑い合った。


振袖小姓

その夜、幸孝は床に入って眠れなかった。
「あの絵を・・・。」
「お眠りになれませぬか。」
隣室で仮眠をとっていた小姓が現れ、京弥最期の姿を前に広げる。幸孝は起き上がってしばらく見ていた。
「あの者らは・・・。」
「両人とも私が手で介錯し、仰せの通り、目付には殿様お手討ちなされたとだけ申しておきました。」
幸孝は前の絵から目を離さなかった。

小姓は介錯した二人を思い出していた。
「お情けにて介錯許されました。お覚悟を。」
脇差を抜き、苦悶の呻きを漏らす市太郎の前に刃を見せた。
「かたじけない・・・。なれど・・、嘉平殿を先に・・。すでにお苦しみ長うござる。」
彼は腹に刃を突き立てたまま、前の嘉平を案じるように見た。すでに緊張の糸が切れたか、嘉平は前に屈んで苦しそうに肩を震わせている。片手で振り上げた脇差を嘉平の首筋に討ち込むと、首が前に折れて血を噴いた。
「ありがとうござった。拙者もお手を借り申す。」
市太郎は前に首を差し出し、小姓の振袖が翻って庭の芝生に赤い血が飛び散った。

京弥最期の絵を幸孝は魅入られたように見詰めていた。腰に纏うた衣服は血を吸うて赤く染まり、若者の肌は白く柔らかで清い。抱き合い刺し違えて恍惚と果てる姿からは、壮絶悲壮ながら、淫ら絵の妖艶さが放たれていた。彼とて衆道男色を知らぬことはない。
「命を賭けても悔いぬほどのものか。」
幸孝は顔を上げて呟いた。夜陰の事ゆえ宿番小姓は振袖をそのままに袴を脱いでいた。
「そなたもこのように死ねるか。」
「・・・。」
主の淫情を感じながら、彼は腹切ってみせよと命じられているように思えた。京弥の笑う声が聞こえた気がした。意図を測るようにしばらく主を見詰めて、若者は腰紐を緩め振袖の前を寛げた。肌着までも押し開けば、柔らかい内肌が覗く。胸元から下腹までも露わにして、腰の脇差を前に置く。
「私とてあのように果てられればと・・・。」
幸孝はその時、この若者にこのまま腹切らせたい誘惑に襲われていた。臍下を割いて苦しむ姿を想像して、残酷猟奇の昂ぶりを抑えられなかった。
「わしが望めば切るか、その腹を。」
「お望みならば・・・。」
胸元を探り、押し出した下腹を揉みながら主の顔を見る。若者の目もまた淫靡な光を放ち始めていた。揉みしだかれる腹の下で、男根が突き上げているのがわかる。息苦しいほどの緊張が二人を包んでいた。
脇差の鞘を払い袖に巻き込む。幸孝は黙って光る刃先を見ていた。夜着の裾を押し上げて彼の男根もすでに帆を張っている。
「もうよい、来(こ)よ。」
刃を投げ出して小姓がにじり寄り身を投げた。
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by kikuryouran | 2006-11-05 16:16 | 男色衆道 | Comments(0)

衆道禁断 後編

首にての約定

数ヶ月が経った頃、江戸幕府大目付の使者が藩に入った。
「幸孝殿、家事取締り不行き届きにより切腹致されますように。さすればお情けにて家名の存続を許されます。」
大目付からの使者が口上を述べた。
「当藩の不祥事は既にお上に届いております。これは内々のお沙汰、言い訳あれば評定所にて申し開きなさるがよい。なれど、罪状明らかとなればお家断絶改易は免れぬところ。明日にもご返答下さる様に。」

「殿、聴き質しましたところ、藩内に通じる者がいるとしか・・・。」
「隠密がいるというのか。」
「事を構えてもすでになす術なく、おいたわしきながら、お覚悟の程願わしゅう。」
幸孝はしばらく考え、やがて顔を上げて言った。
「今宵の内に腹するとお伝え申せ。明日は首にてお目にかかるとな。」
「承知いたしました。」
重臣の武士が下っていった。
「あの絵を見たい。わしも腹を切ることになったわ。」
かの小姓が、京弥最期の絵を前に広げた。
「わしもこれほどに死ねようか。」
「殿・・・。」
「そなたも死ぬるか。」
二人は見詰めあい頷きあった。

夜に入って藩主幸孝は白裃で広間に現れた。重臣達を始め主だった家臣が居並び、奥方も別れを惜しむ。
「すでにそなたらも知る通り、わしは衆道男色を禁じたが、京弥を初めとして幾人もの衆道者が想いをあらわし死を選んだ。」
あの後、幾組もの衆道者が名乗り出て切腹を願い、想いを遂げていた。
「家中の騒ぎがお上の耳に達して、内々のお沙汰を受けた。この腹一つで家が存続するならば想いは遺さぬ。この者も連れて参る。」
側に控える小姓を目で示した。彼はきらびやかな振袖袴に身を包んでいた。
「この振袖は拝領のもの。不束ながら殿様のお供を致します。」
前髪立ちの小姓髷初々しく、美童といってはばからぬ。死出の旅には不似合いとも見えるが、そのあでやかさは誇らしげとも見えて、女も及ばぬ華やかさであった。


藩主切腹

藩主自害とはいえ内々の沙汰、従うのは小姓が一人。見送られて人を遠ざけた離れ屋に入った。既に用意は調えられて、座敷には白布が敷き詰められ、中央には三方に載せられた切腹刀が置かれている。幸孝は落ち着いた様子でその前に座した。
「最期はそなただけになったな。」
「お供が叶い嬉しゅうございます。」
「なにやら京弥が招いているような。あの絵を見てから、わしも腹切る予感がしていた。」
「あの夜から、私もそのように・・・。」
あの時、彼は主人の腹切る予感を感じて、あのように切腹の覚悟を伝えたのかもしれない。
「衆道者の妖気にあてられたか。」
幸孝は苦笑しながら言った。
「京弥が祟りかもしれぬな。」
彼は懐から絵を取り出し拡げた。
「お持ちになりましたか。」
その絵は拙いとも見えて、見ていると吸い込まれそうな気がした。
「美くしゅうございますな。」
「うむ。いかにも見事な。」
絵の巧拙か、描かれている衆道者の最期を言ったものか、二人はしばらく絵を見詰めて頷きあった。
「あれから、腹切り死ぬるを夢見るようになりました。」
「わしもな。やはり誘われているのであろう。」
あの夜以来何度も切腹する夢を見た。落城と思われる時もあれば正式な切腹場のときもある。裸で腹切る夢さえもあった。不思議にも苦痛はなかった。夢の中の切腹は甘美にも快感だった。目覚めると男の印が固く、いつも精を放っていた。
「夢のようにはいくまいが・・・。」
呟きながら幸孝は腹を撫ぜた。
「御介錯仕ります。」
「ほどよいあたりでよい。」
「承知いたしました。」
作法通りの手捌きで前を寛げる。切腹刀を執り腹を揉む。後ろに立つ小姓が太刀を鞘走らせ、息詰まるほどの緊張が部屋に漲った。
京弥が前に座っていた。ゆっくりと前を寛げ、美しく引き締まった腰を捻って切腹刀を突き入れる。突き立てた刃を握って妖艶な笑みを浮かべた。
「殿、おいでなされよ。苦しゅうはございませぬ。」
「見えるか。京弥じゃ。」
「はい、確かに・・・。」
「お迎えに参りました。さあ・・・。」
幸孝が誘われるように腹に刃を突き立てる。
「うむっ、うむううう。」
前に屈んで震えながら引き回す。白布にゆっくりと血が広がっていった。苦痛に揺れる肩先を見ながら、太刀を振り上げる。呻き声を聞きながら間合いを計った。声が喘ぎに変わって首筋が前に伸びた瞬間、一気に太刀を振り下ろした。中ほどまで腹を切り裂いた刃を握ったまま、幸孝は前に崩れた。血が前の絵に飛んで赤い染みをつくった。


 友

山内小十郎、歳は京弥と同年、昵懇の仲だった。
「京弥、お調べを受けると聞いたが噂は真実(まこと)か。」
「あの兵庫様に命を懸けてと望まれて、お断りもできなかった。」
「兵庫様は切腹を願うたそうな。」
「俺も切腹を請う心算だ。面白い世でもない、腹を切って死ぬのもよかろう。あのお方と共にであれば死ねる。」
京弥は腹を撫でながら言った。

「もう、そろそろか。」
文机に向かって書き物を認めていた幸孝が顔を上げた。
「はい、そのような時刻かと。」
京弥が切腹している頃かと訊かれたのはすぐにわかった。
「側に使う者ゆえの気遣いはいらぬ。当人どもが切腹を望むならそのようにと答えたが。」
「京弥ならば見事に致しましょう。」
しばらく考え込んで、幸孝はまた筆をとった。

「小十郎、腹の切り方を知っているか。殿のお側に仕えて、事あるときの覚悟がなくてはならぬ。」
彼は前を寛げて腹をあらわした。
「京弥、そのような座り方ではなるまい。お前には腹など切れぬ。」
「切れぬかどうか、見ているがいい。」
小十郎は、脇差を抜こうとする京弥をあわてて止めた。もう一年も前の事だった。

「泳ぐか。」
帯を解いて、ふんどしだけで京弥は川に飛び込んだ。
「向こう岸まで泳ごうぞ。来ぬか。」
夏の盛り、小十郎も追うように飛び込んだ。泳ぎ疲れ、下帯を枝に干して岩に寝そべった。
「お前、大人みたいだ。」
股間を見て京弥が笑った。俺は自分のものを手で隠しながら彼のものを見た。二人とももう股間は黒々とした草叢に覆われて男の印が顔を覗かせていた。

小十郎は、彼との思い出にしばらく耽った。お前はいつも美しく、俺の畏友であり憧れだった。いつの頃からか、戦国の世であれば、俺はお前と契ったであろうと思っていた。俺は己を慰める時、お前を思った。
「京弥、俺はお前と共に腹を切りたかった。」
「迎えに来たではないか。」
彼は笑っていた。


 小姓の腹

山内小十郎、歳は十六、間もなく小姓を辞し元服の予定であった。性は温厚学に才を感じさせた。佐倉京弥とは同年、朋輩として殿に仕えた。武に才をあらわした京弥に比べて、目立たぬがその器量は周囲も認め、殿もまた行き届いた気配りを愛でた。やがては共に、殿のお側でその才気を開かせようと思われた逸材であった。
佐倉京弥が衆道禁断の触れに背いて切腹した後、数組の衆道者が名乗り出て切腹を請うた。衆道者切腹は藩の裁量ながら、幕閣中枢に幸孝を快く思わぬ者が居たことから、大目付はこの騒動を機にその抹殺を企てた。幸孝はその裏の意図を感じて覚悟を固めた。

家中の者が様子を窺いに来た時には、既に幸孝の首は肩先に置かれて白布かけられ整えられていた。そのまま大目付の使者を招き入れて確かめさせた。
「さすがに幸孝殿、感服仕りました。これにてお家は安泰でございましょう。しかし、御介錯も見事と拝見仕った。」
「介錯は側小姓の者。介錯とはいえ、主に刃を加えた上はと自害いたしました。」
案内の侍が隣室の襖を開けると、きらびやかな振袖姿の小姓が部屋の隅に座したまま、身体を折って臥せっていた。
「血の流れるを嫌いましたか、得物は細身のものを使い、浅くも臍の辺りを脇から脇、一文字に切り割いて衣服整え、胸元急所を貫いておりました。」
「いかにも見事な・・・。」
衣服に乱れなく、胸元に突き立てた短刀を握り締めて、美しいままに眠るごとくの姿であった。

幸孝の死に姿を整えて、小十郎は隣室に入った。同室にては、大目付ご検死にはばかりがあってはならぬとの配慮であった。部屋の隅に座し、用意のものを前に置いた。鎧通しとも呼ばれるもので、身幅細く重ね厚い。長さは尺ほどで腹を切るのには扱い易い短刀であった。
「京弥、見ていよ。俺もすぐ・・・。」
袖を抜いて肌着を押し開く。胸元から下腹までも露わにして短刀を取った。脇から臍の辺り、浅くも広く切り裂くと、流れる血を下着が吸った。苦痛といえるほどもなかったが、さすがに息が荒くなり手が震えた。振袖に手を通して衣服を整える。胸元を軽く開いて急所を探り、下着を通してゆっくりと貫いた。出血は肌着がほとんどを吸った。胸骨をすぎて心の臓に刺し入ると痙攣と苦痛が全身を走る。そのまま一気に前に伏した。ぐぐぐぐっと刃先は背に届くほどに沈んだ。痙攣を繰り返しながら、彼は京弥の夢を見ていた。明るい日の下で、二人は笑いながら駆けていた。


 高校生心中

「俺、土蔵で見つけたこの絵を見てからおかしいんだ。お腹を切る夢ばかり見る。」
親友のリョウが、心配そうに横から覗き込んだ。
「武士が刺し違えている絵だな。なんだか引き込まれるような気がする。」
「俺の家系は切腹した奴が多い。大きな事件や戦争がある度に誰かが腹を切る。若者や女さえもがいたという。」
「お前も腹を切るというのか。」
「この絵を見てからそんな気がしてしかたがない。」
「お前が腹を切るなら、俺も付き合ってやるよ。気のせいさ。」
リョウは笑いながら顔を上げた。

ひと月ほど経った頃、彼は真剣な顔で言った。
「俺もあれから夢を見る。」

「やはり、こうなる運命だったんだな。」
「俺がお前にこの絵を見せたばかりに・・・。」
「いや、怖くはないし不思議にいい気分なんだ。こんな風に死ねるのは、きっと幸せなんだと思う。」
「俺も一緒に逝くよ。」
「そうだな、きっとお前も腹を切らねばならなくなる。」
俺達は山に入った。一時間ほど登ると周囲を見渡せる高台に出る。誰も来ない俺達だけの秘密の場所だ。突き出した岩場は後ろを囲まれて、八畳ほどの広さがあった。生まれ育った町が広がっていた。秋の空は抜けるように高くて日差しは暑いほどに感じた。
「お前がいてくれて嬉しかった。こんなに幸せな気分で死ねる。」
「あんな絵を見せなければよかった。」
「運命さ、きっと生まれる前から決まっていたことなんだよ。生まれ変わっても会えるかな。」
「会えるさ、きっとまた一緒に笑い合える。」
どちらからともなくしっかりと抱き合った。

制服は赤いネクタイに紺のブレザー、胸にエンブレムが縫い付けられている。上着を脱いでネクタイを外す。座って蔵から持ち出した短刀を各々に持った。素肌に着けたワイシャツのボタンをすべて外して裾を後ろに撥ねる。ズボンの前を開くと白い下着が覗く。向かい合って腹を揉んだ。リョウが短刀を突き立てた。
「さあ、逝こう。」
俺も突き立てて横に引く。苦痛はなかった。夢の中のように気持ちよかった。下着を突き上げて股間が帆を張る。俺はにじり寄って彼の男根を握り締めた。彼も俺のものを握ってくれた。
「いい気持ちだ。」
「ああ。」
片手は屹立したものを握って、片手に握った短刀を互いの胸にあてた。身体を押し当てると刃先が胸に沈んでいく。
「ああ、逝く。」
俺達は精を吐きながら互いの胸に身体を預けた。

「俺はお前と死ぬ夢を見たよ。」
「ああ、俺もだ。いつかきっと俺達はこの絵のように・・・。」
絵の縁に付いた染みが真っ赤な血の色になった気がした。見上げると今日もまた空は透き通るような空だった。放課後の校庭からは、いつものように野球部の練習する声が聞こえていた。


       完


あとがき

武家の間では男色衆道は古くからありました。男性同士が愛し合うことが、まだ社会にも受け入れられていたようです。しかし一部の藩ではそれを禁じたことがあり、それに背いて切腹した者がいました。この話は、実際に衆道により切腹させられた者があったという話から生まれました。

京弥への兵庫の気持ちは男女の恋心に近い。京弥は男色者ではありませんが、その気持ちにほだされて抱かれるのです。しかし、一度契った上は違えぬのが武士、罪を問われて言い逃れはしません。潔くも兵庫と共に切腹します。
刺し違えるというのは相手を刺すのではなく、相手に身を投げて刃を迎えると聞いたことがあります。刺されるのではなく、相手の刃に自分の身体を押し当てるというのです。
互いに押し合えば支えあって倒れない。肌を重ねて抱き合ったまま、倒れずにこと切れた姿は美しいと思えます。

検視役森田嘉平は、二人の最期を絵に残します。その時はまだ陰腹までもは考えていなかったでしょう。彼は藩主に拝謁の機を得て、直訴しようと決意します。衆道停止(ちょうじ)といっても、家中では薄々誰と誰がとは知っていたでしょう。嘉平が衆道者として直訴をすれば、市太郎もまたしらをきり通すほどに卑怯ではないのは嘉平も承知しています。嘉平は計画を打ち明けた時から、市太郎に共に死んでくれるかと言っているのです。市太郎が介添えするということは、共に死ぬという暗黙の合意が成立したということです。

嘉平と市太郎を手討ちとしたのは、衆道者の切腹とは公表したくなかったからです。しかし、二人の切腹は藩主幸孝にもその想いは届いた事でしょう。絵を見るうちに、その妖気に導かれるように小姓の肌の色香に気付かせられます。

大目付の使者はあくまでも正式に切腹を求めるものではありません。今幸孝さえ切腹すればそれで事を収めてもよいとの、幕閣の意向を打診するものです。切腹すれば家臣たちは浪人せずにすむ。幸孝は抵抗もせず受け入れます。彼は自分が切腹しなければならない運命と予感していたようにも思えます。

小十郎は京弥とは親友ですが男色の関係はありません。しかし、京弥を思い出して、彼と衆道を契りたかった自分の気持ちを思い知ります。彼の切腹には、死に姿を凄惨でなく美しくとの意図を感じます。彼は京弥と無心に戯れていた頃を思い出しながら死んでいきます。

高校生の二人は京弥と小十郎の生まれ変わりと思えます。親友の二人が一枚の絵を見つけて同性愛の感情に目覚めます。本当に二人が切腹するかどうかはわかりませんが、気だるい放課後の教室で、二人は言葉もなく見詰め合うのです。

連載を前後編に纏めてアップしました。細部を少し書き直しております。
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by kikuryouran | 2006-11-04 23:25 | 男色衆道 | Comments(0)

違約の追い腹

股間を覆う締め込み真新しい白晒六尺だけの姿、肌隠すところなく亨之介は切腹の座に着いた。脇差の鞘を払えば冷たく光る刀身尺三寸。ゆっくりと刃先三寸余りも残して懐紙に巻き込む。鍛えられた男の身体は美しかった。女とも見まがうばかり白い肌ながら、肩幅広く盛り上がり、胸板は厚く逞しい。両膝立ちに伸び上がると、浮かした尻は締り、せり出す腹は肉筋見事に浮き出している。下腹撫で揉み六尺深く押し下げる。濃いくさむらがのぞき、白い股間のふくらみが緩んで、内から突き上げられているのがわかった。
後ろで介錯の太刀が鞘ばしる。
「宜しく頼む。できれば声をかけるまで待ってくれ。」
「存分にするがいい。俺が確かに見届ける。」
張り詰めた空気の中で、腹を見下ろす目が険しくなり、腹筋固く締め、大きく息を吸いながら腹をせり出した。
「きぇぇぃっ!」
刃先きらめかせ、悲鳴に似た気合を上げて叩きつける刃。全身の筋肉が震えて汗が噴き出す。
「うむうううう、あうううう・・・。」
二寸ばかりも埋もれた刃、左手添えて握り直し、震えながら引き回せば、白い下帯六尺がみるみる赤く染まっていく。臍の下辺りまで腹の筋割かれ、傷口開いて臓腑はらわたがあらわれんと覗き始める。目は血走り、歯をくいしばるも間断なく漏れる呻き。
「うぐううう、うぐぐうううう・・・。」
まだ討つな、右脇までも切り裂いてと言おうとした時、首に激痛を感じた。振り返ろうとして、奇妙な角度で自分の首に振り下ろされた介錯の太刀を見ながら暗闇に包まれた。
血刀を下げて、俺は血まみれに横たわる亨之介を見下ろしていた。
「最初で最後、お前との約束を破ってしまった。お前が苦しむのをあれ以上は見ていられなかった。」
乱れた死に姿を整えて、俺は吼えるような泣き声を上げていた。

亨之介が転がるように訪れたのは深更ふた刻ほども前。衣服は血に汚れて、ただならぬ気配が感じられた。言葉のはずみ意地ずくから人を殺め、逃れる心算は無いが、最期はせめて武士らしく腹を切りたいと彼は言った。
幼い頃からの一本気な性格、太平の世は生きにくかったのかもしれない。武辺を是としてはばからぬこの男には、ふさわしい死に場所かもしれぬと思った。
亨之介は井戸端で血に汚れた衣服を脱ぎ捨て、何杯も水をかぶった。まだ早春の朝まだき、逞しい体から湯気が立ち昇る。初めて人を殺め、これから腹切る気のたかぶりで、股間の繁みから肉棒がそそり立っていた。俺は思わず後ろから抱き締め、猛り立つ熱い命を握り締めた。抗いもせず首だけで振り向き、しばらく二人は見詰めあっていた。
「キョウよ、言い出せなかったが、俺はお前を懸想していた。」
「知っていたよ、俺も死ぬると覚悟して、お前の顔しか浮かばなかった。」
亨之介は後ろ手に俺の腰を抱き寄せた。

死出の下帯を締めてやりながら、「一緒に逝かせてくれ。」と言ったがお前は許してくれなかった。お前のいない世なら俺も生きていたくはない。やはりこの場で腹を切ろう。お前が許してくれなくても、側に居られるなら俺はどんな罰も受けて悔いぬ。お前の血を吸ったこの刀で、俺は今腹を切る。
帯を解き落として立ったまま前をはだけた。刀身中程を袖に巻き込み、逆立てて下腹にあてがう。見下ろすと、愛しい男が切腹遂げて前に屈み込んでいる。逞しくも美しい背が誘っているように思え、血に染まる締め込み際が乱れて悩ましかった。
「キョウよ、今参る。待っていてくれ。」
身体を刃先に預けた。激痛が全身を走る。お前と同じ苦痛ならこれも甘美と思えて、ぐぐぐっと力を込める。下帯を撥ねだした男根がお前の身体に俺の精を降りそそいだ。背までも切っ先突き通して、重なるように俺は崩れた。お前の笑う顔があった。やはり待っていてくれたのか。意識が消えるまで、俺はお前に抱かれる夢を見続けていた。
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by kikuryouran | 2006-02-09 14:34 | 男色衆道 | Comments(0)
「先程殿様ご逝去。ご存知の通り衆道ご寵愛を賜りし身でございますれば、殉死仕ります。我が遺髪なりともお棺にお納め下されば幸せこれに過ぎるはございませぬ。」
殿ご寵愛の側小姓、衣服改める間も置かず、別間に下って諸肌脱ぐ。すでに下着は覚悟がしのばれる死に装束。立ち会うたのは藩目付け役、小姓寵愛を心得た者であった。
「殉死と言われれば止めも出来ぬ。悪しゅうは致さぬ、見事に義理を立てられて心遺し無く逝かれよ。」
城中知らぬ者なき美童、顔形涼しく身のこなし隙無く、想いをかける男女多くを数えると聞く。所作に迷い無く、落ち着いた様子で脇差抜いて刃先三寸ほども残して懐紙に包む。武に鍛えて脂肉つかず、まだ幼さを残す骨立ち、女とも見まがうほどの雪の肌。
袴腰紐解き緩め、細腰下尻際までも押し下げれば、下草繁みも覗くほど。瞑目して、指先肌を慰むように胸元から撫で下げ下腹揉みしだく。すでに想いは蓮の台(うてな)か夢見るごとく。歳は十六と聞くが、女には望めぬ色香漂い、殿御寵愛もさぞやと頷(うなず)かれる。
余の人は知らず、見下ろせば殿に寵愛受けた肌、微かに残る愛咬の痕。しのばれる女も及ばぬ閨の交情、後門の分け入られるを思い出し、陰茎猛り始めて下帯を衝く恋情の兆し。今生は短き縁、紅顔は久しからず。悔いなくも老いずや逝かん。義は知らず忠も思わず。我が殿のお情けに殉じて、今腹を割く黄泉への旅立ち。愛しきや厚きお胸に擁(いだ)かれてお精を受け、我が精をお受けなされて、身分は知らず永久の褥(しとね)に。死ぬるを怖れず、すでに夢見の床の中。
想いを振り切るように伸び上がり、腰持ち上げて突き立てる刃、腰に広がる激痛は身を捧げた初会の夜を思い出させた。
「義理にては・・・ございませぬ・・・。殿を、殿をお慕い申して・・・。」
あとはもう言葉にはならなかった。
「うむううう・・・むうううう・・・。」
喘ぎと呻き、胸元固く肉を震わせ、引き締まった下腹臍の下を切り割いてゆく。苦痛に歪む美童の顔は、髪の乱れて艶かしく、悶えくねる腰尻から淫靡の気が立ち昇る。
「お若いに見事な腹。すでに心中(しんちゅう)見え申した。介錯仕ろう。」
「ご無用に・・ご無用に・・・。」
すでに刃は半ばまでも届き、切り口開いて臓腑覗き、膝間は血に濡れている。右脇までも切り割き抜き出した刃、汗に濡れる胸元にあてがい、前に倒れ伏せば、ズブズブッと心の臓を貫き刃先は背までも通る。血の海に屈み伏し背を震わせて呻きが途絶えた。
遺骸清めるために衣服脱がせ、血にまみれた下帯布を取り去ると、血に濡れた見事な男根が屹立して天を指し、未だ想いを遂げぬごとく。
「殿に抱かれる夢を見ながら腹切ったか。介錯を断ったのはそれゆえであったのか。まさしく義理ゆえにはあらず、情の縁(えにし)に殉じた腹でござったな。よほどに熱く情を交わされたような。」
哀れや心残しなくと手を添えてしごけば、赤き血の海に白き精が噴き散った。かほどに想いを込めての殉死は知らず。伝え聞いた者は、男女の別なく皆涙を流したという。
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by kikuryouran | 2006-02-05 13:47 | 男色衆道 | Comments(0)