愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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若い客 2


私たちは、しばらく呑んで近くのホテルに入った。部屋に入ると彼は苦しそうにトイレで吐いた。ベッドに寝かせると、彼はそのまま眠ってしまった。
私は彼をそのままにして風呂に入った。湯に浸かりながら、彼は幾つぐらいだろうと考えていた。私とは一回りは違うだろう。ゆったりと風呂に入るのは久しぶりの気がして、しばらくうたた寝をしてしまった。

風呂から出ると彼は服を着たままで寝ていた。服を脱がせてやる。名前の知っている大学の学生証があった。やはり私より十三も若い。私は備え付けの浴衣で彼の隣で横になる。屈託のない寝顔を見ながら眠りに落ちた。

目が覚めるともう10時に近かった。寝ている男の寝顔をしばらく見ながら記憶を辿った。
昨夜のことが思い出された。若い頃付き合っていた男に似ていると思った。

「よく寝た。何時?」
彼は目を覚ますと、見上げながら言った。
「10時よ。いいの?起きなくて。」
「今日はもう休むからいいです。」
彼が私の首の下に腕を回した。
「もうおばさんよ。」
「おねえさんでしょ。」
彼が笑った。
若者の芳ばしい汗の香りが鼻腔をくすぐる。それだけで目の前が真っ白になった。
若い男の筋肉が私を包んだ。私の身体から力が抜けていった。

下着さえ着けずに、燃え尽きた気だるさの中で私たちは寝そべっていた。
「あれは本気だったの?」
「さあどうかな。随分前から死ぬ事だけを考えていた気がする。」
天井を見上げながら、思い出すように彼は言った。
「死ぬ前に女としようと思った。おねえさんとやって、憑いていたものが落ちたのかもしれない。」
「そうなの、よかったわね。」
「失恋したんだ、俺。惨めで悲しくて辛かった。女がわからなくなって、憎くて怖い気がした。」
身体をずらして乳首を彼に含ませた。頭を優しく撫でてやる。脚を絡ませると、萎えていたものがまた固くなっていくのがわかった。
「とっても上手だよ。あんたをふった女はきっと後悔するよ。」
彼は顔を上げて嬉しそうに笑った。

外に出るともう昼に近かった。明るい都会の喧騒は汚れた女の脚をすくませる。しばらく彼から離れて歩いた。
「きっとまたいい人が見つかるわ。元気でね。」
私は振り切るように早足で彼を追い越した。角を曲がるまで立ち止まらなかった。
もう明るい場所は落ち着かなくなっていた。薄暗い一人だけの部屋に帰って、やっと落ち着いた気がした。着ている物を脱ぎ散らかして、敷かれたままの布団に潜り込んだ。
チラッと見た男の名前を思い出そうとして思い出せなかった。自分の名前も訊かれなかったし言わなかった。所詮は違う世界に棲む男、きっともう会うことはないだろう。顔を思い出そうとしながら私は眠りに落ちていった。
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by kikuryouran | 2007-10-21 11:05 | 平成夢譚 | Comments(0)