愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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見送りメール

私はいつものように一緒にホームに上がった。新幹線の最終の頃になると、ホームのあちこちに別れを惜しむ二人がいる。
席は列車の中程でも、彼はいつもホームの端まで歩いた。そこでは幾組ものカップルが抱き合っていた。
もう話す事は何もなかった。黙って手を握る。彼の手が腰に伸びて抱き寄せられる。隣で抱き合う女と目が合った。一瞬微笑み合って、もう気にならなくなった。彼の胸に顔を埋めた。しばらくまた逢えないと思うと、悲しくて息苦しいほどだった。私は彼の匂いをいっぱいに吸い込んだ。私のお腹に彼の固くなったものがあたる。私は自分から身体を押し付けた。感じやすいポイントを彼の指が正確に刺激する。
「キスして。」
私は顔を上げて言った。舌を絡ませて頭の中が真っ白になった。私にはもう周囲は見えなくなっていた。

時間を気にしながら、少し前までベッドで抱き合っていた。わざと意地悪くぎりぎりまで甘えてやる。私たちはいつも慌てて部屋を出た。

発車のベルが鳴る度に、周りは少しづつ入れ替わっていく。列車が入って来る。ドアが開く。人が吸い込まれてまた新しい二人が抱き合っていた。
ベルが鳴って、聞き慣れた駅のアナウンスが流れた。私達の間をドアが容赦なく隔てた。

隣で抱き合っていた女性が、改札で私の前を歩いていた。彼女は足早に雑踏に消えた。私は心地良い疲労と脱力を感じてゆっくりと歩いた。彼の余韻が身体中に残っていた。駅近くの喫茶店に入って煙草を出した。気が付くと、カウンターの隣りの席にさっきの女性が座って煙草を吸っている。相手も気が付いてこっちを見て微笑んだ。
「結構疲れるのよね。」
彼女は言いながら火を差し出してくれた。ありがとうと言いながら私は顔を近づける。美しい人だった。
「お長いんですか?」
私が訊くと、彼女はちょっと淋しそうに笑いながら言った。
「五年経ったわ、もう駄目かもしれない。あなたは?」
「一年ぐらいかな。」
「そろそろはっきりさせた方がいいわよ。」
彼女は周囲を見ながら煙を吐いた。メールを打っている女が何人かいた。彼女たちも遠距離なのかもしれない。私たちも見送ったばかりの彼氏にメールを打ち始めた。
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by kikuryouran | 2007-10-14 03:34 | 平成夢譚 | Comments(0)