愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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介添え女腹切り

鄙びて見えて、贅を尽くした普請の屋敷。主(あるじ)の名をも告げられぬまま導かれ、座敷に通されてもう半刻も待たされていた。今宵この家で腹切る者があるという。私は大枚の謝礼で立会いを依頼されていた。
「お待たせいたしました、こちらへ。」
武家とも見える女の案内で、渡り廊下を抜けると離れ家があった。
「お待ちでございます。よろしゅうにお願い致します。」
それだけ言うと、女は下っていった。
部屋は八畳、床を背にして切腹支度の女が一人待っていた。
「ご造作をかけます。余儀ない仕儀から腹致さねばなりませぬ。」
「立会いとお聞きしているが・・・。」
「柔弱な女の身、お介添えお願い申したく。」
よろしゅうにと頭を下げた。二十歳半ばか、髪の形からは武家の奥勤めと見える。すでに白単衣の死に衣装色香漂い、美しい面(おもて)は落ち着いた様子と見えた。腹切らねばならぬとなれば、いずれは武家の義理からの自害であろうか。
「事情は知らぬが、女の身で腹を召されるとはよほどのお覚悟、ご存分にと申すしか言葉はないが。」
「そなた様は秘かに切腹介錯もいたされるとか。ゆえあって、手を借りずに腹切る態で果てねばなりませぬ。胸一突きで済むなら人を頼まず致しましょうが、切腹となれば心許無くご足労を願った次第。」
仕草言葉つきから、よほどの身分と感じさせた。
「お苦しみ多いと存じますが、お介添えして遂げさせましょう。」
しばらく目を合わして、私は頷くよりなかった。

白木三方に載せた切腹刀、刃先二寸ばかりも光を放つ。居ずまい正してその前に座す姿は凛として美しく、女はしばし瞑目して気の満つるを待つ。切腹立会いの心得は気を乱さぬが肝要、心定めて突き立てるまでが大事。突き立てれば覚悟も定まり、ただ一途に切り割くばかり。私は黙ってその時を待った。部屋は静寂に包まれ、重苦しい時が流れた。
「死ぬる覚悟はあれども、乱れて肌顕わすはためらわれ・・・。」
「腹割いて逝くは想い顕わすが大事、肌の乱れは後ほど整えましょう。」
女は軽く会釈の後、躊躇いながら襟元開き肌露わにしてゆく。細い指が胸の谷間から撫で下げ、腹押し開いて切り割く辺りを探る。腹して果てねばならぬ事情があるのであろうが、この女には酷かもしれぬ。武には縁無い柔らかな肉付き、介錯なく腹切るほどの力はないと思えた。
「女性(にょしょう)の腹は浅くも広く、止めはお胸になさるがよい。お苦しみ激しくば手を添えて差し上げる。」
上げた顔は、さすがに心細げに頷いた。
「参ります。」
自分に言い聞かせるように呟いて、女は作法通りに白木三方を押し頂き、切腹刀を逆手に執って、尻下に敷き膝を割る。腹押し出して揉みしだき、ひと呼吸、ふた呼吸、肩が大きく息を吸った。
前屈みに、のしかかるように切腹刀を突き立てる。刃先が膚を破って肉に入ると喘ぎとも聞こえる呻きが漏れた。
「あむうぅぅ・・・」
頭(こうべ)揺らせて痛みをこらえ、そのまま腹から迎えるように押し当てる。刃先はズズッと一寸ばかり脂肉に切り入り、ゆっくり血が滴り始めた。
「それでよい、そのまま切り拡げられよ。深腹してはなりませぬ。」
腰尻揺らして、歪む窪みの下まで刃を運ぶ。
「うむぅぅ・・・。」
眉根寄せ、苦しげな声を漏らして息を継いだ。
「お介添え申し上げる。」
私は後ろに回って抱きかかえ、切腹刀に手を添える。
「よろしゅうございますな。」
「おねがい・・・。」
力を込めて、一気に脇まで切り裂いた。女は腕の中で乱れ悶えた。抱く乳房柔らかく揺れ、背の震えを胸が受け止める。寄せた顔耳元に喘ぐ声、首にかかる髪おしろいの匂いが艶かしい。
「もう、お任せなさるがよい。」
身を任すように、女の体から力が抜けてゆくのがわかった。脇まで切って刃を抉り抜く。
「苦しゅうござろう、いましばし。」
「お恥ずかしゅうございます。腹も切れぬ未熟者にて・・・。」
「見事なお覚悟であった。立派な切腹でござる、お心遺しなく。」
女が握る刃に手を添え、胸元急所に刃先をあてる。
「かたじけなく・・・。」
小さく呟く声を聞きながら、突き立て抉れば生温かい血が噴き、心の臓裂く手応えと共に痙攣を身体で感じた。
「ううううぅーーー」
震える女をしばらく抱き締めるうちに、やがてぐったりと身体から力が抜けていった。

「おかげさまにてつつがなく。」
戸が開いて、ここまで案内した女が現れ、腹切った女の死に姿を整える。
「このお方は、名は明かせませぬが高貴なお方。武門の意地づくから腹切らねばならぬこととなりました。死ぬる覚悟はあれども、腹切るとなれば元は武門のお家には非ず、恥ずかしくなくし遂げたいと仰せられてご依頼した次第。表向きには病にてお隠れとなりましょう。」
切腹刀を手にして伏した姿は、介錯頼まずに遂げた明らかな切腹。女は愛おしそうに髪を整えながら涙を浮かべていた。
「ご立派に果てられました。ご満足でございましょう。」
「美しいお方であった。」
「いま一つ、ご依頼したき事がございます。お側にあって、お守りもならなかったお詫びをせねばなりませぬ。此の始末が済んで後、私もお側に参ります。お手をお借り申したく、お願い申します。」
女は、何事でもないように私を見た。
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by kikuryouran | 2006-12-27 10:59 | 女腹切り情景 | Comments(0)