愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

ショートな妄想フィクションを書いています


by kikuryouran
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奇形の恋 後編

 監視役

「どうだね、うまくいっているのか。」
彼は笑いながら話しかけてきた。
「そろそろ、マスコミに出そうと思うんだがね。あれほど完璧な両性具有も珍しい。卵子も精子も通常の人間とほとんど変わらない。これが世の中に出れば大騒ぎになるだろう。私も忙しくなる、この研究所も世界中の注目を浴びるだろうな。」
「外部には出さない約束じゃないんですか?あの人が承諾するんでしょうか。」
「あいつが何を言っても、こちらは大枚の金を渡してある。しかし、あいつがあんな風に普通のセックスをするとはな。」
「あんな風に?」
「生態観察もしたかったので、あの部屋には隠しカメラが仕掛けてあるのさ。あいつは貴重な研究個体だからな。君も随分写っているよ。お前にもあんな変態趣味があったとはな。」
彼は薄ら笑いを浮かべながらおかしそうにそう言った。
「隠しカメラ・・・。」
「実は君に頼みがある。妊娠したらその受精卵が欲しいんだが。もちろん報酬は充分に用意するよ。精子も卵子ももう充分に採取したんだが、受精がなかなかうまくいかない。」
「人権問題にもなりますよ。」
「人権?化け物に人権なんてないさ。考えておいてくれないか、君が驚くほどのものが用意できると思うけどね。」
私は呆然と立ち尽くした。

私はただの看護士じゃない。最初は精子の採取と世話係、その後監視役として雇われて彼女に近付いた。性欲調査も仕事の内だった。しかし私にも隠しカメラの事は知らされていなかった。彼女はまだ気付いていないが、彼女は稀有な完全真正両性具有者だった。彼女の研究結果は人間の遺伝子研究、精神医学、性医学には貴重なものだ。このプロジェクトは思っていた以上に大きく、バックは巨大な闇を感じさせた。
私は彼女を裏切っている。すべての性行動は逐一報告して、報酬を与えられていた。切腹趣味は私の元々の嗜好で、彼女の最初の精液採取の時に何気なく口をついたのだった。しかし今ではもう、彼女にすべてを捧げて悔いぬと思うほど彼女に魅かれている自分に気が付いていた。この仕事が済んだら、私は彼女にすべてを打ち明けて詫びなければならない。私は償いにすべてを捧げて僕(しもべ)になろうと思っていた。
私は彼女をどれほど傷つけているか、まだ自分でもわかっていなかった。


 裏切り

「すべての検査が終わったら、ここを離れて知らないところに行こうと思うの。私は今まで孤独だった。もうあなたがいないと生きていけない。誰も知らないところで、二人だけで暮らしたいわ。私のような奇形でよかったら考えてくれないかしら。随分たくさんのお金も貰ったしね。」
彼女の胸は温かく心地よかった。豊かな胸に抱かれながら、萎えた彼女のペニスを触るのが私は好きだった。
「私もどれほどあなたを愛しているか。私の身体は普通でも、自分がお腹を切るのを想像して萌えるなんて、私は心の奇形なの。思い切って打ち明けた相手もいたけど、みんないつかいなくなった。影で私を変態だと言っているのを聞いて何度も打ちのめされたわ。私は心を閉ざしてきた。私だって孤独だった。あなたは切腹フェチでもなかったみたいね。何度かのプレイで気が付いたわ。でも、嫌がらずに私にあわせてくれた。」
「私はあなたを愛している。あなたが望むならと・・・。でも、私ももう切腹で萌える身体になっているわ。今はあなたと切腹したいと思っている。もう私にはあなたしかいない。あなたのいない世界は考えられないわ。」
彼女は私を抱き締めてくれた。彼女はすべてを解放して愛してくれている、私のすべてを認め信じて。私にとっても彼女は唯一絶対の存在になっていた。

私はその時、どれほど彼女に酷い事をしていたか気が付いた。彼らは彼女を利用していただけだった。心では化け物と軽蔑しているのを彼女は気がついている。しかし私には心を開いてくれた。私が彼らの仲間だと知ったら、どんなに傷つくかと思うと心が痛んだ。彼は私を変態だと言った。彼らはきっと彼女も私も同類にしか見ていない。彼女の孤独がわかった気がした。私には彼女の寂しさがわかっていたはずなのに。

許してもらおうなんて、私は考えてはいけなかったのだ。自分に残された道はもう一つしかなかった。これ以上彼女を傷つけてはいけない。償いに私は命を捧げて彼女を守ろう。それは甘美な響きだった。
心で詫びながら、彼女の胸に顔を埋めると涙が止まらなかった。ペニスを口に含む。ペニスが男根となって、私は上になって交わった。隠しカメラの位置を私はもう知っていた。女陰を持つ男根が私の身体と交わっている局部が写されているはずだ。見るがいいわ、こんなに私たちは愛し合っている。どこが奇形なの、どうして化け物なの。私はレンズを睨みつけ、心の中で叫びながら歓喜の声を上げ続けた。


 猟奇心中

「妊娠したわ。私の中にあの人の子供がいる。買ってくれるんでしょ。」
「お前はあいつを愛してしまったんじゃないのか。」
「馬鹿な事を言わないでよ。私の中の受精卵が欲しいんでしょ。幾ら貰えるのかしら。今夜、二人だけで相談できるかしら。」
私は夜の研究室で彼と会った。
「もう、ここには誰もいないわね。私は前からあなたの事が好きだったわ。抱いてくれるなら、お金なんて幾らでもいいの。あんな化け物に抱かれていたこの身体を、あなたの手で慰めてくれるなら。」
私には自信があった。この男が私を見ている目は、飢えた浅ましい狐の目をしていた。
「俺は、お前があの女と抱き合うのを見ながら・・・。」
「そうだと思っていたわ。私だってあんな奴よりどれほどあなたに抱かれたかったか。もう妊娠しているんだから、あなたに抱かれてもいいわね。」
私は仮眠室のベッドに誘って裸になった。
彼も部屋に入って来る。私は彼を脱がしてやった。彼のペニスは彼女のものに比べてもお粗末なものだった。
「知っているでしょ、私は切腹をしないと燃えないの。」
私はバッグから短刀を取り出した。
「ああ、いつも見ていたよ。お前の切腹はとても素敵だった。おれも切腹に魅せられてしまったよ。」
「これはよく出来た模造刀、これであなたのお腹を切らせて。」
「おいおい、本物じゃないんだろうな。」
「いつも使っているものだから心配なんて無いわ。」
膨らみ始めたペニスを握って、私は根元から一気に切り取った。彼は一瞬何が起こったかわからないようだった。股間から血を噴き出させて、切り離された自分のペニスを不思議な物のように見た。
「どうして・・・、あんな化け物のために・・・。」
「彼女は化け物なんかじゃない。」
傷口を押さえて叫び続ける男を、私は前から抱いて思いっきりお腹を突き刺した。
根元まで刺さった短刀を抉るようにして引き抜く。生温かい血が私の身体に降りかかった。彼は私を突き放して、恐怖の目で見ていた。
「叫んでも誰も来ないわ。すべてを消して私も死ぬ。あの人を守るのはこれしかないわ。あんなものを世の中には出させない。」
裸で震える男を何度も突き刺した。返り血が私にかかる。周囲は飛び散る血で赤く染まっていった。

私は窓の外に切り取ったペニスを投げた。周囲に放たれている犬がきれいに始末をつけてくれる。私の部屋を調べれば、この男との情事が綴られたでっち上げの日記がある。きっと猟奇な無理心中と言われるだろう。彼女にだけは関心を向けさせてはならない。


 立ち腹

彼が持っていた鍵の束を持って、誰もいない施設の中を私は血まみれの裸のまま歩き回った。その部屋には、モニター画面が幾つも並んでいた。幾つものボタンを次々に押した。過去の画像が現れる。最初に精液の採取をした時の画像があった。裸のままでヴァギナを開かれ、ペニスをしごかれて、彼女は悲しい顔で堪えていた。哀しく辛い光景だった。自分はこんなものにも酷い事をしていたのか。どれほど悔やんでも許される事ではなかった。
私と愛し合っているところも写されていた。私のいないところでは、寂しい顔の彼女がいた。そこにいるのは神ではなかった、ペニスを持つ普通の女だった。懐かしく恋しく愛しいと思った。一緒にいる私がどれほどに醜かったろう。
私はきっと命よりも大切なものを失くしてしまった。彼女の身体を弄んだ彼らよりも、彼女の心を欺いていた自分を許せなかった。切腹も許されぬほどの過ちを犯したと、私はまた自分を責めた。

彼女の部屋があらゆる角度から映しだされる。浴室トイレも例外ではなかった。寝室には何台ものカメラが設置されていた。彼女は寝室にいた。裸で大きな鏡に向かって立っている。スイッチを切り替えると、鏡の裏から彼女の全身が映しだされた。お腹を押さえている。私がこの前、立ち腹を見たいと言ったのを思い出した。
「きっこ・・・。」
スピーカーから私の名を呼ぶ声が聞こえた。私の事を思いながら彼女は立ち腹を切っている。白い内腿に愛液を滴らせながら、草叢からそそり立つ男根を握り締めている。映し出される男根は逞しく巨大で、もう限界に達しているのがわかった。
これほどに私を想ってくれていたのに。涙が溢れて止まらなかった。すぐにも側に行きたかった。
「エリカ、エリカ・・・。」
叫んでも私の声は届かなかった。
美しい乳房が腰が手の動きにつれて揺れ、恍惚の表情が映し出される。私も指を使っていた。
私はスピーカーのヴォリュームをいっぱいに上げた。
「ああ、きっこ、きっこ・・・逝く・・・。」
彼女の懐かしい声が部屋中に響き渡る。
「エリカ、エリカ・・・。」
白く美しい花が画面いっぱいに散った。

用意してあった油をすべての部屋に撒く。資料の置いてありそうな部屋には入念に撒いた。全ての部屋を開け放って廊下に油を流して火が伝うようにした。部屋に戻るとライターで火を点けた。一気に廊下を火が走ってそれぞれの部屋に入っていく。どの部屋からも真っ赤な炎が噴き始めた。階段を火が走るのを確かめて部屋に戻る。血まみれで男が倒れていた。
壁に背を立てて立つ。手には血塗れの短刀を握っていた。彼女の立ち腹を思ってお腹に突き立てた。激痛が全身を走る。思い切って引き回した。足元に血が滴る。
「あうううう・・、エリカ・・・許して・・・許して・・・。」
はらわたが覗き始めているのがわかる。抜き出して臍の上に突き刺す。脚が震えて倒れそうになる。身体を反らして両手で一気に切り下げた。十文字に裂かれた腹からはらわたが溢れだして足元に垂れた。両膝をついた。もう、部屋全体が炎に包まれていた。


  殉死

マスコミは猟奇な無理心中と騒ぎ立てた。男がペニスを切られて女が切腹した事を安部定の事件と関連付けてもっともらしく解説し、女の腹切りもいろいろな角度から説明を加えた。女の部屋から発見された日記や切腹関係の資料も紹介された。誰一人、その施設でどんな研究をしていたかという事に関心を払わなかった。

事件の後、彼女からの手紙を受け取り、私はすべての事情を知った。彼女の手紙は深い悲しみと謝罪に満ちていた。裏切られた苦しさよりも私には彼女を失った悲しみの方が大きかった。
「どうして一人で逝ってしまったの?一緒に逝こうとどうして言ってくれなかったの?あなたは私をまた一人ぼっちにしてしまった。償いなんていらなかった。私はあなたの全てを許せたわ。」
立場が逆ならどうしたろうと考えた。愛する人のために死ぬ。やはり私も同じようにしたかも知れない。こんな自分のために死を選んでくれた人がいたと思うと、失くしたものの大きさを思わずにはいられなかった。彼女のいない世界では私は単なる奇形でしかなかった。もう孤独なままで生きていたくはなかった。私は萌えなくなっていた。どうしても濡れなかったしペニスはただのペニスにすぎなかった。彼女のいないところでは、私はまさしく女にも男にもなれなかった。
事件の夜、私は突然鏡の前で自慰をしたいと思った。それも彼女が望んでいた姿で。あの後、鏡の後ろにカメラがあったと知った。あの時の私は、確かに彼女の目を感じていた。これが最後になるかもしれない予感と共に。

自分はどうすればいいの?殉死しかないんだわ、きっと。そうだ、私は彼女への愛を確かめるために切腹する。これまで何度も惨めな気分で死のうとした、一人ぼっちで生きているのが嫌になったから。今は彼女がいる世界に行きたいと思う。死ぬと決めると、不思議なほど幸せな気分になれた。こうなる事はわかっていた。だからこんなに清々しい気分になれた。

エリカは壁に背を預け、長い間胡座を組んでいた。いつか前に懐かしい顔があらわれた。
「来てくれたのね、私の気持ちも見届けてね。」
両膝立てて前を寛げお腹を撫ぜた。冷たい短刀の刃を滑らせる。両手で深く突き立てた。ゆっくりと引き回すと腰から痺れるような痛みが広がってゆく。
「愛しているわ、あなたをこんなに・・・。」
右まで裂いて刃を抜き出す。脚を投げ出して見下ろすと、割かれた腹から血が湧き出し、血に濡れた男性器が雁首を持ち上げていた。
「あなたも殉死する?」
優しく握って根元に刃を当てる。彼が頷いたような気がした。ひと掻きすると真っ赤な血が噴き出して根元から落ちた。女陰に当ててやるとゆっくりと中に潜り込んでいく。やがてすっぽりと中に納まった。私自身が彼女だった。やっと一つになれたと思った。静かだった。血が流れ出して意識を奪っていく。苦痛はなかった。全てが夢だったのかもしれないと思った。目を瞑ると真っ白い静寂の世界にいた。彼女に優しく包まれている。溶け合って一つになる。やがて、エリカは安らかな眠りに落ちていった。


    完
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by kikuryouran | 2006-04-14 09:35 | 同性愛 | Comments(0)