愛と死の妄想  feseppuku.exblog.jp

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by kikuryouran
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切腹座の女

春うららかな日が差している。空は青く、遠くに鳥の声がのどかに聞こえた。
私は単衣白無垢の死に衣装、黒髪は束ねて後ろに流している。
導かれて庭に入ると白砂が敷き詰められ、周囲は無地幔幕で囲まれて畳二枚に白布が敷かれている。
控えている数人の武士に、私は一人一人丁寧に黙礼をして座に着いた。

二間ほども離れて床几に腰掛け、検視役は憐れむように見下ろしている。
「その方儀、お情け以って切腹申し付けられる。」
「女の身に過分のお情け、有難くお受け申し上げます。」
「望みなれば格別に真剣を下げ渡す。心して仕遂げられよ。」
介添え役が切腹刀を三宝に載せて前に置く。
凍りついたような静寂と緊張が流れた。

死ぬることを怖ろしいとは思わなかった。
腹を割いて、見苦しくのたうつ姿を想像して恐怖した。
胸の鼓動が大きくなり血が逆流した。
息苦しさに大きく息を吸う。

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「ご介錯いたす。」
背後から声がかかり、気配で刀を抜くのがわかった。
「ご造作をおかけ申します。お情けにて賜った切腹、声をかけるまでお待ち下さい。」
私は肩越しに礼をして言った。
「承知仕った。存分にいたされよ。」
頼もしい声だった。

かねてからの覚悟、切腹を願った。
異議を唱える者はあったが、奥方様の口添えがあった。
『奥仕えの女なれば侍並みに。』
『それほどに申すならば形ばかりは許さぬ。真剣にて致させよ。』
殿様は怒ったように言われた。
『そなたなら男共の鼻をあかしてくれよう。』
私は奥方様に覚悟と共に礼を述べた。

しばらく瞑目して気を静める。
単衣の袖を抜き肌着の襟に手をかける。
秘めた肌を開くためらいに指が震えた。
周囲の者達が息を殺して見守っているのがわかる。
『肌露わすを恥じてはならぬ。』
父はそう言って励ましてくれた。

手習いの通り胸を押し開いて前肌露わす。
腰紐押し下げ、下腹までも充分に寛げた。
春の気が心地良く肌をなぶる。
切り割く辺りを確かめるように撫ぜ揉んだ。
もう見事に腹を切ることだけしか考えなかった。

切腹刀を押し戴き、膝割り腰下に三宝を敷く。
顔を上げ、刃先を当てると鋼の冷たい感触が腹から腰を痺れさせた。
気が満ちて前屈みに膚を割く。
ゆっくりと血が噴くのを見ながら、これほどのことであったのかと思った。
腕に力を込めて一気に突き立てた。
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by kikuryouran | 2009-08-01 05:46 | 女腹切り情景 | Comments(0)